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第六話『可愛いよ』
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「それで、何着たら良いって、おま……えぇ……何で人選、俺よ」
「仕方ないでしょう。当たり前だけど、ジミンさんには頼めないし……あの人の好みに詳しい人、貴方しかいないんですから」
「うーん、そりゃそうだけどさぁ……」
「お願いしますよ、拓人さん。今度、女の子紹介しますから」
「お前に恵んで貰うほど困ってねぇわ」
しまった。確かに、この人相手では、いつも日常的に常用しているこの手は通用しない。だとしたなら、俺に切れるカードは数少ない。それでも俺は、手元にあるカードを全て出し切るつもりで、俺のベッドに寝転がってポテトチップスを咥え、新刊の漫画を読んでいる、さっきまでリラックスモード全開だった拓人さんに食らいついた。
「……前に全然予約出来ないって言ってたフレンチ押さえます」
「いま、相手いないし」
「じ、じゃあ、俺が父さんから生前贈与された別荘貸し出しますから。貴方なら、今年の冬までに相手が見つかるでしょう?」
「別に、俺も持ってるし」
「ぐっ……なら、貴方がファンだって言ってた女優の◯◯さん、俺の知り合いの友人なので、さっき言ったフレンチと合わせて紹介しますよ。その後上手くいったら、俺の別荘なり、貴方の別荘なりに招待すれば良い」
これでどうだ、という表情を作って、ずい、とその顔を拓人さんの横顔に向けて寄せる。すると拓人さんは、漫画に注いでいた視線を漸く俺に向けて、漫画を開いたまま胸の上に置き、盛大な溜息を吐いた。
「……お前、どうすんの。真澄さん、由依から略奪したいの?」
軽蔑が混じったその眼差しに、言葉が詰まる。これまで、この眼差しを受けても、全く微動だにしなかった俺の心にも、真澄さんとの出会いの中で、複雑な変化が生じているんだろうな、と胸が感想を漏らした。悪く考えられない、何事も。それは、間違いなく、彼という存在が影響していた。恋をすると、人は変わる。そんな話冗談だろう、と思っていたけれど。そんな話、本当にあったんだよ。自分自身が、それを証明するなんて、思ってもみなかった。
「……そんなつもり、ありませんよ」
「じゃあ、何。どうしたいのよ、お前」
「どうもしたい訳じゃ……」
「なら、粧し込んだり、真澄さんのタイプに寄せたりする必要ないじゃん」
「そ、れは……」
確信を突かれて、言い淀む。確かに、その通りだ。真澄さんと出掛ける予定が出来て、それに合わせて真澄さん好みの服装や髪型を気にしてみようだなんて、当たり前だけどワンチャン狙っている様にしか思えない。だけど、俺は本当に、真澄さんを由依さんから略奪したいとか、思った事ないし。それに、そもそも俺なんて。
あの人に、相手して貰える筈、ないし。
「真澄さんの気を惹きたいとか、そんなんじゃなくて。良い思い出にしたいって、ただ、それだけで……」
「本音は?」
この人に、嘘は吐けないな、と思う反面。吐く必要が何処にあるだろう、とも思って。結果、開き直る事にした。
「俺みたいな奴が、相手して貰えるわけ無いじゃ無いですか。由依さんみたいに、華奢でもないし。守ってあげたいタイプでもないし。身長だって高いし……そもそも、綺麗でも可愛いわけでも……」
「あー、お前、由依と自分、比べてんだ?不毛じゃない、そういうの。やめとけって」
そりゃあ、由依さんと比べたら、不毛になりますよ。下手したら、全人類の女子が束になっても敵いませんよ。だからこそ、せめて真澄さんの隣にいても遜色無い自分になりたいなって、それだけなんだよ、本当に。振り向いて欲しいとか、そりゃ、思わなくも無いけど。実際に、そんな機会が訪れたら、頭大丈夫ですか?って、確実に心配するって、自分でも思うし。それくらいの分別は付いてるつもりでいるんだ。
それくらい、有り得ないんだよ。あの由依さんと別れて、俺を選ぶっていうのは。
「お前には、お前の良さがあるじゃん」
「元気付けてくれるなら、先に凹ませないで下さいよ」
「いや、これ本気だし」
「は?……どういう意味ですか?」
「お前、可愛いじゃん」
目ぇ、腐ってんのか?頭大丈夫、この兄貴。俺みたいな筋肉達磨、そんなに熱く見つめて。
そんな、実はずっと。
ずっと、ずっと。
片想いしてました、みたいに。
「可愛いよ」
絆すな。
「それで、何着たら良いって、おま……えぇ……何で人選、俺よ」
「仕方ないでしょう。当たり前だけど、ジミンさんには頼めないし……あの人の好みに詳しい人、貴方しかいないんですから」
「うーん、そりゃそうだけどさぁ……」
「お願いしますよ、拓人さん。今度、女の子紹介しますから」
「お前に恵んで貰うほど困ってねぇわ」
しまった。確かに、この人相手では、いつも日常的に常用しているこの手は通用しない。だとしたなら、俺に切れるカードは数少ない。それでも俺は、手元にあるカードを全て出し切るつもりで、俺のベッドに寝転がってポテトチップスを咥え、新刊の漫画を読んでいる、さっきまでリラックスモード全開だった拓人さんに食らいついた。
「……前に全然予約出来ないって言ってたフレンチ押さえます」
「いま、相手いないし」
「じ、じゃあ、俺が父さんから生前贈与された別荘貸し出しますから。貴方なら、今年の冬までに相手が見つかるでしょう?」
「別に、俺も持ってるし」
「ぐっ……なら、貴方がファンだって言ってた女優の◯◯さん、俺の知り合いの友人なので、さっき言ったフレンチと合わせて紹介しますよ。その後上手くいったら、俺の別荘なり、貴方の別荘なりに招待すれば良い」
これでどうだ、という表情を作って、ずい、とその顔を拓人さんの横顔に向けて寄せる。すると拓人さんは、漫画に注いでいた視線を漸く俺に向けて、漫画を開いたまま胸の上に置き、盛大な溜息を吐いた。
「……お前、どうすんの。真澄さん、由依から略奪したいの?」
軽蔑が混じったその眼差しに、言葉が詰まる。これまで、この眼差しを受けても、全く微動だにしなかった俺の心にも、真澄さんとの出会いの中で、複雑な変化が生じているんだろうな、と胸が感想を漏らした。悪く考えられない、何事も。それは、間違いなく、彼という存在が影響していた。恋をすると、人は変わる。そんな話冗談だろう、と思っていたけれど。そんな話、本当にあったんだよ。自分自身が、それを証明するなんて、思ってもみなかった。
「……そんなつもり、ありませんよ」
「じゃあ、何。どうしたいのよ、お前」
「どうもしたい訳じゃ……」
「なら、粧し込んだり、真澄さんのタイプに寄せたりする必要ないじゃん」
「そ、れは……」
確信を突かれて、言い淀む。確かに、その通りだ。真澄さんと出掛ける予定が出来て、それに合わせて真澄さん好みの服装や髪型を気にしてみようだなんて、当たり前だけどワンチャン狙っている様にしか思えない。だけど、俺は本当に、真澄さんを由依さんから略奪したいとか、思った事ないし。それに、そもそも俺なんて。
あの人に、相手して貰える筈、ないし。
「真澄さんの気を惹きたいとか、そんなんじゃなくて。良い思い出にしたいって、ただ、それだけで……」
「本音は?」
この人に、嘘は吐けないな、と思う反面。吐く必要が何処にあるだろう、とも思って。結果、開き直る事にした。
「俺みたいな奴が、相手して貰えるわけ無いじゃ無いですか。由依さんみたいに、華奢でもないし。守ってあげたいタイプでもないし。身長だって高いし……そもそも、綺麗でも可愛いわけでも……」
「あー、お前、由依と自分、比べてんだ?不毛じゃない、そういうの。やめとけって」
そりゃあ、由依さんと比べたら、不毛になりますよ。下手したら、全人類の女子が束になっても敵いませんよ。だからこそ、せめて真澄さんの隣にいても遜色無い自分になりたいなって、それだけなんだよ、本当に。振り向いて欲しいとか、そりゃ、思わなくも無いけど。実際に、そんな機会が訪れたら、頭大丈夫ですか?って、確実に心配するって、自分でも思うし。それくらいの分別は付いてるつもりでいるんだ。
それくらい、有り得ないんだよ。あの由依さんと別れて、俺を選ぶっていうのは。
「お前には、お前の良さがあるじゃん」
「元気付けてくれるなら、先に凹ませないで下さいよ」
「いや、これ本気だし」
「は?……どういう意味ですか?」
「お前、可愛いじゃん」
目ぇ、腐ってんのか?頭大丈夫、この兄貴。俺みたいな筋肉達磨、そんなに熱く見つめて。
そんな、実はずっと。
ずっと、ずっと。
片想いしてました、みたいに。
「可愛いよ」
絆すな。
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