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しおりを挟む殺気立った声でそう話すデビットに、セレーナは息を呑んだ。
「……っ、やめて! フィクス様には手を出すな……!」
フィクスは自分よりも強いため、そう簡単にデビットにやられはしない。そんなこと、セレーナは分かっている。
……分かっているけれど、もしものことを考えると、胸が締め付けられるように痛い。
「は? なんでお前に命令されないといけないんだ?」
「……おね、がい……。フィクス様には、なにもしないで……っ」
「はっ、嫌だね!」
悲愴感がセレーナの声に纏うが、デビットは聞く耳を持たない。
セレーナは再び「お願い……」と口にしながら、縋るように自分の胸元に手をやった。
(……あ、れ)
しかし、指先にひんやりとしたチェーンの温度が触れることはなかった。
(なんで……っ、常に着けてるのに……!)
セレーナは必死に記憶を手繰り寄せ、救護テントで左手首の手当てをしてもらった時には着けていたことを思い出した。
そうすると、ネックレスが外れた確率が一番高いのはデビットに頭を殴られ、地面に倒れた時だろうか。もしくは、倒れたセレーナをデビットを運ぶ時になにかの拍子で外れたかだ。
(フィクス様に、贈っていただいた大切なネックレスなのに)
セレーナは騎士服の上から胸元をぎゅっと掴む。唇を噛み締め、切なそうに眉尻を下げた。
そんなセレーナに、デビットは愉快そうに口角を上げた。
「……えらくあの男のことを気にしてるが……。ああ、そうか。もしかしてお前──」
そして、デビットはセレーナの前で尻を浮かせてしゃがみ込み、確信めいた声色で問いかけた。
「あの男に惚れてるのか?」
「……! ちが……っ、そうじゃない……っ」
「そんな必死に否定したら、本当だって言ってるようなもんだろ。……にしても、そりゃあ良いな! そんなにあの男が好きなら、お前の前であいつをいたぶってから殺してやる! ははははは!!」
高らかに笑うデビットの声が部屋中に響く。
セレーナは自分の無力さを呪いながら、鋭い目でデビットを睨み付けた。
「さて、と。そろそろフィクスの試合が終わった頃だろうから、ここに連れて来るかな。待機室に戻るまでの一人の時を狙う」
「フィクス様は、貴方なんかにやられない……!」
「そうかもな。……だが、お前を人質にしたらどうだ?」
「は……?」
デビットの言葉に、セレーナは背筋がゾクリと粟立った。
(私のせいで、フィクス様が危険な目に遭うかもしれないなんて)
フィクスがどんな相手でも切り捨てられるような冷酷な人間だったら良かったのに、彼は優しいから。
たとえ人質が想い人のスカーレットではなくセレーナであろうと、フィクスは危険を冒してでも必ず助けようとするだろう。
(そんなの、絶対にだめだ)
フィクスは第三王子で、この国の王族の一人だ。
なにに代えても守らなければならない存在で──いや、違う。そういう、立場がどうこうという問題ではない。
セレーナは、ただ。
(フィクス様のことを、守りたい)
そう強く思った、だから──。
「仲間であるお前がこんな目に遭ってたら、多少は動揺するだろう。ほら、さっさと行くぞ!」
デビットは中腰の姿勢を取ると、倒れ込んでいるセレーナの二の腕を思い切り掴む。
「……っ、やめろ……!」
──人質として連れて行かれることだけは、絶対に阻止しなければ。
セレーナは無我夢中で、怪我をしていない方の右足でデビットの足首に蹴りを入れる。
「うぉっ……!? なにをする……!!」
デビットがバランスを崩す中、セレーナは痛む体に鞭を打って素早く起き上がると、彼の腰辺りに手を伸ばし、奪われていた自分の剣を手に取った。
(よし、剣さえあれば、どうにかなる……!)
「お前……! 舐めた真似を……っ」
デビットは体制を持ち直し、急いで剣を構える。
同時にセレーナは、デビットを制圧するために剣を振りかぶった。
「……うっ!」
だが、立ち上がった衝撃で左の太腿が、剣を振りかぶった影響で右肩と左手首が痛みで悲鳴を上げ、一瞬動きが鈍った。
「クソ……! 作戦変更だ!! お前を先に殺してやるよ!!」
「……っ」
セレーナの反撃に恐怖したデビットは、必死の表情でセレーナの胸元に向かって剣を振るう。
(私──死ぬ)
セレーナが死を予感した、その瞬間だった。
──バタンッ!
と、扉を開く大きな音が部屋中に響く。
セレーナとデビットはその音に驚いて手の動きを止め、直ぐ様扉の方向に顔を向けた。
「な、んでここに……」
肩で息をしながら現れたその人物に、セレーナは唇を震わせた。
「セレーナ!」
「フィクス、様……っ」
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