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最終話
しおりを挟むフィクスの本当の婚約者になってから、一年半後。
中庭で茶を飲むキャロルの斜め後ろで、セレーナは護衛に当たっていた。
そんなセレーナに、キャロルは勢いよく話しかけた。
「セレーナ、今日くらい休まなくて良かったの!? あ、違うわよ!? セレーナが一緒に居てくれるのはものすっごく嬉しいのよ!? なんなら四六時中一緒に居たいのよ!? でもほら、昨日結婚式だったてしょ……!?」
──そう。実は昨日、セレーナとフィクスの結婚式が王宮近くの協会で執り行われた。
互いの家族はもちろん、貴族や騎士たちも出席し、それは盛大なものになった。
(大切な人たちに祝ってもらえたあの時間は、心の底から幸せだったな)
とはいえ、気を張っていたため、精神的にも体力的にも疲れたのは事実だ。
キャロルの気遣いに、セレーナはふわりと微笑んだ。
「キャロル様、お気遣いくださって、ありがとうございます。……しかし、フィクス様の妻になったことで、私がキャロル様の護衛に当たれる時間が今までより少なくなってしまいます。ですから、お傍に居られる時は、キャロル様のことを守らせてください」
「うぎゃー!! セレーナがイケメン過ぎるわぁぁぁぁぁ!!」
それからしばらく、キャロルはセレーナのことが「格好良い!」とか「好き!」とか「愛してる!」と叫び続けた。
「それにしても、昨日のセレーナ、本当に綺麗だったわぁ……」
その後、落ち着きを取り戻したキャロルは、うっとりした顔でそう囁いた。
「キャロル様がドレスを選んでくださったおかげです。ありがとうございます」
「そんなことないわ! セレーナだからこそよ! 本当に綺麗過ぎて、やっぱりフィクスお兄様には勿体な──」
「キャロル、なにが勿体ないって?」
「……! フィクス様!」
突然中庭に現れたフィクスにセレーナは驚き、キャロルは嫌そうに顔を顰めた。
「フィクスお兄様、どうしてこちらに? せっかくセレーナと楽しく話していましたのに!」
そして、キャロルはその表情を隠すことなく、こちらに向かって歩いてくるフィクスに苦言を呈した。
「休憩がてら、可愛い妻に会いに来ただけだよ」
フィクスはそうしれっとと答えているが、その発言はセレーナの顔をみるみるうちに赤色に染めた。
(いけない、今は勤務中なのだから、照れている場合ではない……のに……)
思いが通じ合ってから一年半も経つというのに、未だにフィクスに可愛いと言われるのが慣れない。
けれど、慣れないだけでとても嬉しいと感じてしまう。妻という言葉も相まって、セレーナは顔の火照りを抑える事ができなかった。
「はは。セレーナ照れてる、可愛い」
「……っ」
フィクスに追い打ちをかけられ、ついにセレーナはフィクスに背を向ける。
照れながらも幸せそうな顔のセレーナを確認できたキャロルは、「仕方がありませんわね……」と呟いた。
「セレーナ、今から十分だけ休憩してきて構わないわ」
「……! しかし……」
「セレーナが戻ってくるまで私はここでお茶を飲んでるから、安心して!」
そう言って、キャロルはセレーナに惚れ惚れするような美しいウィンクをした。
それがキャロルの優しさであることを瞬時に理解したセレーナは、キャロルに対して深く頭を下げた。
「キャロル様、ありがとうございます。直ぐに戻ってまいりますので」
「ええ、待っているわね!」
「キャロルにしては珍しく優しいね。ありがとう」
「別にフィクスお兄様のためではありませんわ!? セレーナのためですからね!?」
それからセレーナとフィクスはキャロルと別れ、庭園から少し歩いた先にある噴水の縁に腰を下ろす。
肩がピッタリとくっつくような距離にセレーナがドキドキしていると、先に話題を切り出したのはフィクスだった。
「今日くらい休まなくて良かったの?」
それは、先程キャロルにも聞かれたことだった。
結婚式では何時間も貴族たちの前に出て、重たいドレスを何時間も着る。それらのことでセレーナは疲れているのではないかと、フィクスも気遣ってくれたのだろう。
「はい。問題ありません。結婚式は大変ではありましたが、同時にとても幸せで、思い出深いものになりましたから」
だから、セレーナは思うままにそう答えた、のだけれど。
「……いや、結婚式もそうだけど……。寝不足できついとか、腰が痛いとか、ないの?」
「~~なっ!?」
フィクスのその言葉を聞いた瞬間、彼が言わんとしていることを理解したセレーナは目を見開いた。
結婚初夜のことを思い出すと、高熱に浮かされている時のように、全身が熱い。
セレーナは両手で顔を覆うように隠して、か細い声でこう言った。
「……大丈夫、です」
「また照れて……って、あれ?」
すると、フィクスがなにかを気にしている声を出したので、セレーナは手を退けて彼を見た。
「セレーナ、指輪はどうしたの?」
指輪というのは、昨日の結婚式の時に互いに交換したものだ。
左手の薬指に指輪がないことから、フィクスは不思議に思ったのだろう。
「……今はここに」
セレーナはそう言うと、自分の騎士服の襟に手を入れる。
そして、以前フィクスに贈ってもらったネックレスを表に出したセレーナは、愛おしそうに口を開いた。
「大切なものだから、絶対に無くしたり傷付けたりしたくなかったのです」
結婚指輪が通っているネックレスと、大切だと語るセレーナの顔を視界に捉えたフィクスは、ふわりと顔を綻ばせる。
「ほんと、可愛過ぎて困るな……」
フィクスはセレーナのネックレスを手にとって、指輪にそっと口付ける。
それから二人は、どちらからともなく唇を寄せて、幸せを噛み締めた。
~完~
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13.セレーナちゃんピンチ⁉️😵💦。
まとめて返信させていただきます♡
いつもお読みくださりありがとうございます♡
毎話怒涛の展開が待っているので、お楽しみください(*^^*)
お兄ちゃんのラビタン好きはもはや自分でま止められない病⁉️(*・∀・)つ💊セレーナちゃん包囲網がじわじわと(´゚ω゚`)アレ。
08.斜め上な解釈をするセレーナちゃんに押せ押せ計画を実行するフィクス君⁉️😅。