私の彼は、空飛ぶカエルに乗っている

饕餮

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防災航空祭

 日曜から火曜まで仕事をして、水曜日がお休みだった。お弁当は自分で作るって言ったんだけど、他の三人には作ったのに私だけ作らないのは不公平だし、作ってやりたいからって言われたら何も言えなかった。なので、有難く父が作ったお弁当を持って行っている。
 水曜日になってホットカーペットのカバーを買いに出かける。やっとポイントが使える! なんて思いながら物色し、カーテンの色に合わせてミントグリーンにしようと思ったらなかったので、同じ緑系でモスグリーンのカバーをポイントで買った。

「そろそろパソコンも買わないとなあ……」

 中古で買ったものだからなのか、昨日から動作が変だった。SNSを見てたら途中で固まっちゃったし。父に見てもらったら、「そろそろ買い替えかもな」なんて言ってたから、本当に駄目なのかも知れなかった。
 何か書いたりするわけでもないし、せいぜいチヌークを見るだけだからハイスペックなパソコンはいらないかと思って見に行ったものの、私にはさっぱりわからない。なので、とりあえず今使っているメーカーと同じものの値段だけを見て帰って来た。
 それから北口のほうの駅ビルに寄って、服を見たりTシャツを見たりする。いいのがあったのでそれらを購入し、休憩してから帰ろうと喫茶店に入ると、窓際の席に案内されて座った。コーヒーとついでにお昼も食べようとサンドイッチのセットを頼み、それを待っている時だった。目の前の道路を、乙幡さんに話しかけていた女性が通ったのだ。但し、隣にいたのは乙幡さんじゃなかった。しかも腕を組んで、楽しそうに笑いながら話している。

「あれ? 乙幡さんの彼女じゃないの?」

 それに首を傾げつつも見なかったことにして、店員さんが持って来てくれたものを頬張った。それを食べ終えたら店を出て、家に帰りながら歩く。
 荷物がなかったらあちこち散策したのにと思っている間に家に着いたので、それを箪笥にしまった。ふたつの箪笥は、ひとつは冬物を、もうひとつは夏物をしまってある。下着は毎日使うものだからとベッド下の引き出しに入れてある。
 それがひと段落するとコーヒーを淹れてカフェオレにし、SNSを見たりネット小説を読んだりしていた。

「夕飯、どうしよう」

 航空祭が終わるまでは父も帰りが遅いと言っていたし、簡単なものでいいと言っていた。せっかくホームベーカリーを買ったんだからと取説を見ながら材料とスケールを探し出し、分量を量って入れ、セットした。中身はどうしよう……と考え、チーズを入れようと決め、それを切って具材タイマーが鳴るのを待つ。鳴ったところでそれを投入し、あとは焼き上がるのを待つだけだ。
 パンは調理実習でやっただけだけど捏ねたりするのが苦手な私にとって、全て機械がやってくれるのは非常に助かる。出来上がったら切って、それを明日のお昼にしようと決め、今日も冷蔵庫内の材料を見ながら悩むのだった。

 木曜と金曜はお仕事だったんだけど木曜日に乙幡さんに声をかけられた。私に話しかけてきた時はかなり機嫌がよかったんだけど、彼女さんが声をかけたら急に不機嫌になったのを見て、前日に見たことを思い出した。
 勘違いだと困るから私から何か言うことはなかったけど、離れて何か言い合いをしている二人を見て、何かあったんだろうなぁくらいにしか思わなかった。
 金曜日は誰にも会わずに食堂に着き、頑張って仕事した翌日の土曜日。今日は航空祭だから食堂は開けないというので私もお休みなんだけど……。

「雨降りかあ……チヌたんに乗れるかなあ……」

 起きたら外は土砂降りの雨で、このぶんだと習志野から来る落下傘は中止だろうし編隊やチヌークが飛ぶかどうかもわからないけど、行くだけ行ってみようと考えてスマホとデジカメを持って開門より早めに出かけた。にも拘わらず、雨だというのにもう人が並んでいて驚く。

(早めに来て正解だったよ……)

 多分珍しい機体やチヌたん目当ての人もいるんだろうなあ……なんて思いながらスマホをいじって時間を潰し、開門と同時に金属探知機みたいなのをしている場所と荷物検査をくぐってパンフレットをもらい、周りにつられるように走ってチヌーク搭乗券がもらえる場所に行く。

「あ」
「お、紫音ちゃん、来たんだ。間に合ってよかったな」
「はい!」

 なんと、券を配っていたのは食堂で手伝っている自衛官だった。その横では乙幡さんが人数を数える道具でカチカチと音をさせている。私に気づくとにっこり笑ってくれて、その笑顔に鼓動が跳ねる。

 今までだって笑顔を見てるのに、どうして今日に限ってドキドキするんだろう?

 きっと、すっごく久しぶりにチヌークに乗れるからだと納得し、チケットを受け取ってその場を離れた。そして歩きながら芝生にいるヘリを見る。最初に見たのは、細いというか薄いというか、そういったヘリコプターだった。なんだっけ……アパッチとかコブラとか、そんな名前の戦闘ヘリコプター。映画で見たことがあるけど、思っていた以上に薄くて驚いた。
 そしてその先にはニンジャと呼ばれているヘリコプターが地上展示されていたり、UH-1がズラーッと並んでいたり、オタマジャクシみたいに丸っこいヘリコプターもいた。珍しいことに、JAXAのヘリコプターや消防庁、警視庁のヘリも展示されていて、その先にはなんとチヌークが展示されていた。

「ふおぉぉぉっ!」

 どうやら中に入れるらしく、写真を撮っているおじさんやお兄さんたちがいた。で、どうやらカッパを着て立っていた自衛官は私の呟きを聞いていたらしく、こっちを見た。

「「あ」」

 なんとそこにいたのは兄だった。そして兄の言葉が聞こえたらしく、一緒に立っていたのはやっぱり食堂に手伝いに来ている自衛官だった。

「しーちゃん。チケットは手に入れられたのか?」
「はい! 今から飛ぶ時間が待ちどうしいです!」
「ははっ! 紫音ちゃんはチヌークが好きなのか?」
「すっごく好きです!」
「午後からこの機体ともう一機飛ばすんだ。どっちに乗れるかわからんが、楽しみにしててよ」

 ちょうど中に入る人がいなくなったところで二人に話しかけられ、二機飛ぶことを教えてもらった。ヘリを飛ばすのは兄と乙幡さんで、隣にいる人が兄のサブに付くという。

「中も見れるから、どうぞ」
「ありがとうございます!」

 傘を畳んで中へと入る。兄が一緒にくっついて来て、これは何に使うものだとか、今は椅子を畳んでいるけど乗る時は出すんだとか説明してくれる。それらを写真に撮ったり、チヌークのコックピットを撮ったりしながら中を見て回り、外に出た。二人が並んでいるところと二人別々に一緒の写真を撮ってくれて、兄からはこっそりあとでメールを送ってくれと言われたので頷いた。
 できる限り接近したチヌークの写真を撮り、やっぱりごついカエルに見えるよね……とクスリと笑うと、二人に手を振って別のところに移動した。

 アナウンスでは雨で編隊飛行と落下傘部隊の降下は中止と言っていて、見れなくて残念だと思った。

 建物内でも展示されているものがあったのでそれを写真に撮ったり、自衛官を募集しているところにもヘリコプターが展示されていて、そこで「自衛官にならない?」って声をかけられた。そっちを見ると、なんと田中さんと大山さん、金本さんと木村さんがいて、お互いに笑ってしまった。

「紫音ちゃんだったのか~。ほんと、自衛官にならない?」
「なりたいのはやまやまなんですけど、身長が足りなくて諦めたんですよ」
「あー、身長の問題か……なら仕方ないわね」

 苦笑した田中さんと少しだけ話をしてからその場を離れ、また歩き始める。中央の大舞台には父がいて、何やらお偉いさんらしき人と話していた。そして時間がくると司令の挨拶、そして立川市長の挨拶が始まり、それが終わると今度は赤と青のヘリが大舞台の前に飛んできて、挨拶をするように頭が上下に動いた。

「すごい……そんなこともできるんだ……」

 防災航空祭というだけあって、防災に関する飛行展示が多い。ヘリが挨拶をすると今度はさっきの薄いヘリコプターが飛んで、雨の中を自由自在に飛んでいた。迷彩服を着た自衛官が、それをスマホで撮っていたのにはやっぱ気になるんだと思ったくらいだった。
 それが終わると、今度はパトカーに先導されて消防車や救急車、見たことのない緑色の車が目の前を通り過ぎていく。アナウンスによると緑色の車はハイパーレスキュー隊の車両で、災害時に活躍する車両だそうだ。
 それらが集まると、震度七を想定した災害の展示が始まった。UH-1や赤いヘリ、青いヘリからオレンジの服や迷彩服を着た人が連携しながらスルスルと下りて来て、何かやっている。私がいるところからは何をやっているのかわからなかった。そのあとはUH-1が飛んで来て、バケツに入った水を散水していた。
 それが終わるとお昼になっていて、チヌークが動き出したのが見える。そのころには雨も上がっていて晴れ間が見えていた。お腹が空いたし、チヌークに乗る前に軽くご飯を食べようと売店のところに行き、焼きそばを買って食べる。

「さて、行きますか」

 パンフレットを見てチヌークの搭乗場所を確かめると、そこまで歩く。途中で消防車やレスキュー隊が使う赤い車や救急車、自衛隊が乗っているらしいごつい車などがあったのでそれも写真に撮り、搭乗場所まで行くと混んでいた。

「やっぱ人気があるんだ……」

 そんなことを呟いて列にならび、やっと半券を千切ってもらってから自衛官の指示に従い、配られた耳栓をもらって列に並ぶ。傘は預かってくれるというので指定された場所に置き、また列へと並んだ。そこで乗る際の注意事項を説明してくれたんだけど、その人も食堂で見た自衛官だった。

「あ、紫音ちゃんだ。チケット取れたんだ」
「はい。今から乗るのが楽しみです!」
「ははっ! ご飯食べながら熱心に見てたもんな」

 まさかそこまで見られているとは思わなくて、恥ずかしくなる。他にもその人の知り合いがいたようでその自衛官はその人と話していて、私はその場所からずっとチヌークの写真と動画を撮っていた。そして順番が回ってきてチヌークに近づく。後部ハッチの側にいたのはチケットをくれた自衛官だった。

「お、紫音ちゃんはこれに乗るのか。乙幡が操縦してるんだ」
「そうなんですか!」
「ああ。楽しんで来てね」
「はい!」

 乙幡さんが操縦するのか……なんて思いながら、空いていた一番最後の席に座る。ゆっくり動き出したチヌークはお客さんに対するサービスなのか、飛び上がりながら後部ハッチを閉めてくれた。そして完全にハッチが閉まって飛び上がると窓から眼下を見下ろす。

 雨上がりの青空と遠くに見える富士山、駐屯地内にあるヘリや見物している、米粒のように小さい人々……。

 チヌークは記憶にあるように大きく感じなかったけど、それでもやっぱり大きくて……。移動できるというので動画を撮りながら中を歩き、コックピットから見えるであろう景色も見る。チラリと右を向けば、ヘルメットとバイザーをしていたけど乙幡さんだとわかった。動画をデジカメから撮っていたからスマホで写真を撮り、チヌークがゆっくりと反転したところで席に戻る。
 自衛隊の反対側には乙幡さんに教わった通り消防署だったようで、眼下には消防車やヘリコプターが停まっていた。それらを見ていたらあっという間にチヌークは飛び立った場所に戻り、飛行が終わってしまった。それを残念に思いながらもにこやかに出迎えて声をかけてくれた自衛官にお礼を言い、その場をあとにする。
 振り向きざまにもう一度チヌークを写真に撮ると、傘を持ってそこを出た。

「やっぱいいなあ……チヌたんの搭乗体験は」

 兄が操縦するのにも乗ってみたかったけど、こればっかりは順番待ちの関係とチケットが一人一枚しかもらえないんだから仕方ないと諦め、また展示されているヘリコプターや飛び回っているチヌークを見に戻ったり写真に撮ったりした。午前中とは違うのがあったのでそれを写真に撮り、歩き疲れたこともあって家に帰ることにした。
 父からは「夕飯はいらない」と言われていたのでコンビニに寄ってお弁当を買い、夜はそれを食べた。明日の準備をしてさっさとお風呂に入ると、疲れていたのか父が帰ってくる前に眠くなってしまったので、写真の整理などは今度のお休みか明日やることに決めると、布団にもぐって寝てしまった。

 その日見た夢は、母以外の家族がそろってチヌークに乗る夢だった。

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