自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ドルト村の冬編

第159話 レシピと料理

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 翌朝、宿で朝ご飯を食べたあと、全員で商業ギルドへと向かう。そこで待っていたのはトビアス老と、男女二人ずつの計五人。
 そこから料理教室を開いているという部屋に案内される。室内の広さは二十畳ほどだろうか。
 そこに三口ある魔道コンロと作業台と流し台がセットになっているものが八つあった。下には扉がついていることから、恐らく鍋などがしまってあるんだろう。
 別の場所には食材が置かれ、料理する台が置かれているところの反対側の奥には、四人掛けのテーブルと椅子が四脚。それが六卓ある。
 作った料理はそこで食べるのだろう。
 で、今回新たに発見された食材を中心に料理することになっているんだけれど、どうしようかと実に困った。特にわさびとクレソンだ。
 わさびそのものを料理となるとそこまでないし、せいぜい漬物か海苔巻きくらいだろうか。さすがに刺身や海鮮丼などの生魚を使ったものは好き嫌いがあるし、深い階層にしかないからレシピ化はしないが、ドレッシングやソースであればそれなりに需要があるだろうし少量ですむからと、それを提案することにした。
 ダンジョンにあるってことは、どこかの国か、帝国内でも沢があるようなところに生えている可能性があるからね。きっと、知らないで放置している可能性もある――山芋やむかごのように。
 なので、実物を見せてから、需要がありそうならば、ダンジョンではなく外で探してもらうことにしよう。もし下の階層にまで潜れる冒険者が出てくれば、彼らに依頼という形で持って来てもらうことも可能なのだから。
 てなことをトビアス老とランツさんに言うと、ギルマス会議で話してくれると約束してくれた。ギルマス会議は、その名の通り帝国各地にある商業ギルドのギルマスが参加する会議だ。
 村のような小さなところからは参加しないけれど、その分近くにある大きな町から代表で出席して各地に伝えるか、連絡用の魔道具を使って参加すればいいらしい。話を聞いた限り、リモートとかテレワークといった感じなんだろう。
 ……便利だな、異世界って。
 まあそれはともかく。
 帝都では魚も食べることから、海鮮サラダのレシピが人気となった場合、できればわさびを使ったドレッシングを使って欲しいとも話した。

「それはどうしてですか?」
「抗菌作用ってわかるかしら。悪い病気を寄せ付けないとか、増殖させない作用というのかしらね」
「なるほどのう……。魚は傷みやすいからの、それを抑えるという感じかの?」
「そうね、生の魚を使った場合、そうなるかしら。まあ、使うことで味に深みも出るし肉にも使えるから、そこは料理をしながらね」

 細菌という概念がない世界で、その概要を説明するのは難しい。特にこの世界は〝悪いものを除去する〟という魔法があるから、細菌とかウィルスと言っても通じないのだよ。
 せいぜい、目に見えない魔物や病魔と言ったほうがわかりやすいくらいなのだ。
 なので、日本や地球と同じ感覚でポロっと言ってしまうと、相手は不思議そうな顔をしてしまうから大変だったりする。
 だからできるだけ、この世界の人にわかりやすく説明をしないといけないのがかなり大変だ。だからこそ、言葉を選ばないと面倒。
 こんなことで語彙力を試されるとは……。難しい。
 それは横に置いておくとして。どんな食材を使うかを説明したあと、全員でその食材を選ぶ。魚を数種類とホワイトカウの肉、野菜。
 魚はカツオがあったのでそれとサーモン、イカとホタテを用意した。他にもイクラがあったから、海鮮丼の代わりにイクラと鮭の親子丼も作ってみよう。
 まずはイクラを漬けにして、それから魚の処理。どれも生で使うけれど、合う合わないがあることと好き嫌いがあることをしっかりと伝えた。もちろん、正式なものではなく、こういうのもあるよ! という試食品として。
 ステーキにわさびを添え、ほんの少しつけて食べるかソースに溶かしてから食べるかという方法を取った。
 それからクレソン。オランダガラシとも呼ばれるクレソンは、付け合わせ以外にも食べ方があったりする。
 ハンバーグやステーキなどの付け合わせにしてよし、炒め物やサラダにしてもよしと、それなりにレシピになるのだ。
 今回はコッコのささみとクレソンを使ったサラダと炒め物にしてみた。付け合わせは既にステーキに使っているから、このチョイス。
 ささみは酒と塩を入れた湯で火を通し、小さめに手で割く。5センチほどの長さに切ったクレソンと、黄色と赤のピーマンをスライスしたものと混ぜ合わせ、すり下ろし玉ねぎを使ったドレッシングをかけて食べる。
 あとはごま油があったのでごま油の炒め物にしてみた。
 レシピ化しないといけないからきっちり量ってメモを取らせたけれど、それでも真剣に私の作業を見て試食していたのはさすがだ。レシピ化さえしてしまえば、あとはそれを元に作り、わかりにくい工程にはきちんと質問し、説明書きをする職員たち。

「アリサ様、これは凄いですね!」
「ええ! ドレッシングの汎用性がとてもいいです!」
「他に知りませんか?」
「ドレッシングでいいのよね? そうね……」

 まさか、ドレッシングに食いつくとは思わなかった!
 せっかくマヨネーズがあるからと、アレンジとしてタルタルソースとコブドレッシング、オーロラソースを教えてみたり。
 さっぱりするようなものとしてレモンを使ったレモンドレッシングや、フレンチ、焙煎胡麻、シーザー、和風、にんじんとオレンジを使ったものを教えた。

「ドレッシングだけで、こんなに……」
「凄い……」
「家庭で作るのが大変なものも中にはあるし、商売をしていて作る時間がないお母さんもいるわよね。そういう人のために、瓶詰にして売ったらどう?」
「なるほどのう! それはよい! アリサ、それはギルドと契約しようではないか!」

 ほーら始まった。まあいいけどさあ、その前に決めることがあるよね?

「契約するのはいいけど、どこで作るのか決まってるの? レシピは提供するけど、作らないからね?」
「うっ!」
「冒険者であって、料理人じゃないのよ、私は。当然でしょ」
「うぅ……」

 何を言ってるんだ、この爺様は。当たり前でしょうに。売り出すのであれば、私一人で作れるような量なわけないじゃん。
 どうしてこう、商業ギルドのお偉いさんって、どこか抜けてるんだろう? あれか? 商売から遠ざかってるからその辺りがボケるのか?

「契約には応じるけど、諸々のことを決めてからにして。私にその気がない以上、その手配や契約をどうするかを決めるのがギルドでしょうに」
「……言葉もないのう……」
「どのみち、地上では採れないわさびとクレソンなどの食材を発見してからじゃないと、わさびドレッシング以外のレシピは永久にお蔵入りだから」
「採取には……」
「行かないわよ。私の拠点は帝都じゃないもの。もちろん、ここにいる人たちもね」

 その言葉にガックリと項垂れたトビアス老。帝都に定住している冒険者がその階層に行けるようになったら採取をお願いすればいいと言ったら、そのままテーブルに突っ伏した。
 ……どうやらとどめを刺してしまったらしい。
 とりあえず、ドレッシング類だけをレシピ登録した。他は食材が見つかってからだ。もしかしたら他国にある可能性も考慮して、他国のギルマスたちにも聞いてくれるという。
 食材の一部はランツが持っているので、それを提供してもらうことに。

「当然、買い取っていただきますよ」

 とてもイイ笑顔で宣った。……人はそれを、真っ黒い笑みという。……こわっ!

 料理教室も終わったからと、レシピ化できるものだけを商業ギルドに登録。私の取り分に関しては規定があるのでそれを採用。
 本来はこれが当然なんだが、他のギルドがおかしかったともいう。
 手続きも終わったことから部屋をあとにする。欲しいものはないかと聞かれたので帝都で扱っている食材を見せてもらうと、先ほど使ったごま油とごま、持っていない香辛料やハーブがあったので、種と一緒に購入。
 他は特にないからとギルドをあとにし、宿へと帰った。

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