思いの行方

饕餮

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本編

忙しい日々

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「疲れた……」

 家に帰って来てクローゼットの側にバッグを置くと、フラフラしながらベッドに倒れ込んで思い切り息を吐いた。

 今日は義父となる彬の父の誕生日だった。そこで初めて彬のお兄さん夫婦に会って挨拶したあと、その場所で私と彬の婚約と三ヶ月後に式を挙げることが発表された。
 発表するのはいいけれどさすがは神崎財閥の総帥の誕生日ということか。人がやたらと多くて、こういった場所に慣れていないこと――大抵姉の朱里が出ていた――や、人混みが苦手な私は肉体的にも精神的にも疲れてしまったのだ。
 もちろん、薄れて来ているとは言え、男性が近くにいることに対する恐怖心があったから余計だった。だからこそ、彬がずっと側にいてくれたことに、内心でホッとしていたのだ。

 ぽっと出の私に対して、やっかみを言う人や嫉妬心丸出しの人がいなかったわけじゃない。でも、そのたびに側にいた彬がチクリと刺してくれたから、まだ良かった。
 それでもしつこい人がいて、神崎家の面々に敵対表明をされた挙げ句、パーティー会場から追い出されていたのは笑えた。……その家族は必死になって謝罪していたけど、許されることはなかった。

 寝返りをうって天井を見つめ、ふと、数日前に彬と東城に抱き潰された三日間のことを思い出す。


 一週間前は東城の結婚式で、あの日は所謂初夜だったはずだ。でも東城はそんなのは関係ないと謂わんばかりに、いつものように私にマッサージやツボ圧しを施したあとで、執拗に激しく私を抱いた。しかも避妊せずに。

 そして彬が合流したあとも最初は二人同時に貫かれ、その後は交代で激しく、優しく、執拗に抱かれた。
 正直、二人同時に貫かれるよりはいいけれど、私が感じる場所を知り尽くしているらしい二人に同時にそこを攻められてしまえば、私はその手管に感じるがままに声をあげることしかできない。
 そして、あの三日間を思い出した途端、子宮の辺りからゾクリとした甘い震えが走り、乳首がキュッと硬くなるのがわかる。

 一週間のセックス禁止を二人に告げたにも拘わらず、二人の手管に慣れてしまった身体は、それだけで彬を、東城を……二人を求めてしまう。

 これではいけないと何とか身体を起こして着替えを持ち、お風呂に入って疲れた身体を癒す。湯舟にゆっくり浸かってお風呂から上がると、パソコンを立ち上げてメールを確認する。
 メールは小説を出版してくれた出版社の担当さんからで、書き下ろした原稿の改稿が無事に通ったことと、それにより発売日が確定したことも書かれていた。それと同時に、以前出したプロットのことも書かれていて、『それを元に書き下ろしを書いてください』とも書いてあった。

「うー……書き下ろしたばかりなのに……。嬉しいけど、書いてる時間あるのかな……」

 正直、結婚式の準備や実家のこと、そして実家に引っ越すことを考えると、書いている時間なんかない。
 そうは思うものの、締切があるとは言えGOサインが出た以上、書かないと迷惑をかけることになるし、投稿サイトのほうもそろそろストックがなくなるから書かなければならない。
 尤も、投稿サイトのほうはあと一話で終わるし半分以上書きあがっているから、それを先に進めることにしてそれを書きあげ、推敲は翌日に回すことにしてその日は眠りについた。

 翌日、推敲していたら彬から呼び出された。何かと思いながらも、とりあえず仕事道具であるパソコンやメモ帳やスマホを持って彬の家に行けば、結婚式までの今後の予定を聞かれたから、新たに作品を書き下ろすことを担当さんに言われた話をしたら、彬に驚かれた。

「え、書き下ろし?」
「うん。彬さんと出会った頃からお見合いするまでの間、結構『予定がある』って言ったでしょ?」
「うん、言ってたね」
「あの内のいくつかは出版社に出掛けたり、担当さんと電話でやりとりしたりしてたの」
「もしかして、かなり忙しかった?」
「うん、実は。ダメ出しされた原稿を改稿したり、打ち合わせに行ったり、サイトに投稿したりもしてた」

 そう言った私に、彬は「ごめん」と言ってくれたからそれに苦笑する。

「何で彬さんが謝るの?」
「だって、いろいろと、さ」
「でも、予定があるって言った日はちゃんと避けてくれたでしょ? だから大丈夫」
「もしかして、僕が店に行ってる間は仕事してた? あと、朝まで一緒にいなかったのも」

 そう聞いて来た彬に「仕事してた」と言えば、彬に「本当にごめん」と苦笑された。

「気にしないで。しばらくは逆に、高梨家のこととか私が彬さんに迷惑をかけることになるし……」
「それは任せて。紫の仕事の合間に手伝ってくれると嬉しいとは思うけどね」
「うん、勿論手伝うけど、マッサージのお店のほうはどうするの?」

 柔らかく笑ってそう話した彬に私も答える。どこまで彬を手伝えるかわからない。
 でも、それ以上に東城の店での仕事をどうするのか気になったから聞いてみたら、彬はあっさりと「辞めるよ」と言って驚いた。

「辞めるの?」
「うん。元々要と共同出資で出した店だし、あそこの店長はしっかりしてるしね。従業員もやっと充実してきたから、週一くらいで顔を出せばそれほど問題はないよ? 普段は紫とか、義父とか、僕の両親にマッサージすれば腕が落ちることもないだろうしね」

 そんなことを言ってくれた彬に苦笑しつつ、あの店は東城と彬の店なんだ、と改めて驚いた。
 所謂オーナーなら、あまり顔を出さなくてもいいのかなとか、そんなことでいいのかなと思いつつ、私の今後の予定とか、いつ高梨家に引っ越しをするのかなどを二人で話し合い、父にその日にちを告げると「思っていたよちも早いな」と言いつつも喜んでくれた。


 そんなことをしながらも、日常は過ぎて行く。


 高梨家に二人で引っ越しをしてすぐに生理が来て内心ホッとしたこととか、一週間のセックス禁止に加えて私に生理が来たから、生理が終わった後は餓えていた二人に容赦なく抱かれたとか。

「禁止すると紫の身体が余計辛くなるだけだ」

 と二人同時に言われたりもしたし、スキンを装着して私を抱いていた二人が、結婚式が近付くに連れてスキンを装着する回数が減ったこととか。

 彬が父の会社に実力で途中入社し、その手腕を発揮して周りを黙らせているばかりか、次期社長として姉の朱里よりも認められていることとか。

 彬が会社に行っている間、私は頼まれた原稿を書いたりオンノベを書いたり、父や彬の手伝いや、たまに高梨家に来る東城から朱里の様子や何かを聞いたりしていた。
 東城曰く、朱里は結婚しても相変わらずで、「最近は浮気してるんじゃないかと疑っている」とまで言っていた。それを知った東城のご両親は、朱里に対してかなり怒っているらしい。もちろん父も。
 それに内心苦笑しながらも、結婚式当日の朱里は本当に嬉しそうだったし、東城を好きなのかなと思っていたぶん、結局朱里は変わらないんだと残念に思ったこととか。

 詳しいことは父も屋敷にいたハルさんも教えてくれなかったけれど、義母の真知子がいつの間にか高梨家を出て行っていたこととか。

 いろんなことがあった。


 なんだかんだと日々は過ぎて行き、結婚式を迎えた当日。朱里や義母の真知子はお祝いに来ることはなく、朱里の変わりに東城にお祝いされ、無事に彬との結婚式を終えた夜。

 その日、神崎財閥の系列ホテルに泊まる予定だったのを、東城コーポレーションの系列ホテルに変更したと言われた彬に連れて行かれた先に東城がいた。
 ホテルのサービスの一つであるリラクゼーションを、ホテルの従業員ではなく東城自らが行うと言い出し、それを断固拒否したもののせっかくだからと押しきられた。しかも彬も手伝うと言い出して、荷物や何かを部屋に置いたあと、着替えてからその部屋に案内された。

 最初は普通にマッサージしていた筈が、彬が加わった途端、いつの間にか別の意味のマッサージになっていた。

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