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死の森篇

でんせつをめにしたでしゅ

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 その魔物は、牛のような顔と耳のうしろから延びて前に出っ張り緩く上から下にカーブした角、額から真っ直ぐに延びた立派で長い角が四本、合計六本の角がある。頭と首の下あたりから延びる黒くて長いたてがみも立派だ。
 そして全体的に筋肉質な体躯はイノシシや狼のようだし、尻尾も狼っぽい。体の色は黒に近いこげ茶。
 体長は軽く四十メートルを越えているだろうか。それ故に、威圧感も半端ない。

「ステラ。あれがベヒーモスとも、ベヒモスとも呼ばれる、最強の地竜だ」
「あれが進化して手が短く足が大きく太くなり、尻尾がもっと長くなって全体的に鱗と翼が生えると、バハムートというドラゴンになる」
「最強で最凶になる前に叩く必要がある」
「……っ」

 息を呑み、あんぐりと口を開けたまま、ベヒーモスと呼ばれた魔物を見つめる。
 出るとは聞いていたけれど、こんなに早い段階で出会うとは思わなかったよ!
 危険だからさっさと鑑定したあと、ウィンドカッターを放つ。すると、テトさんがウィンドランスを、キャシーさんが太くてキラリと光る糸を、バトラーさんが大剣を使い、それぞれベヒーモスの首を狙う。
 バトラーさんとテトさんがつけた傷に埋め込むようにして、糸を首に巻き付けたキャシーさんが「ふんっ!」と気合いを入れて思いっきり引っ張ると、両方の上腕二頭筋が盛り上がった。
 すげえ……!
 その勢いのまま糸がどんどん締まり、ブチブチと音を立てて切れていく首。そこをめがけて大剣とウィンドランスを放つバトラーさんとテトさん。

「ステラ、切れているところを狙え!」
「あ、あい!」

 急にバトラーさんに声をかけられ、慌てて切れている首にウィンドカッターを放つとスパッと切れた。ベヒーモスの大きな頭がゴトっと音を立てて落ち、首から青い血飛沫が上がる。
 その段階で急に眩暈と吐き気がして目の前が真っ暗になったところで、誰かに抱き上げられた。匂いからすると、バトラーさんかな?
 きっと、私がとどめを刺したことで経験値が一気に入ってきたんだろうなあ……。吐き気は一瞬で収まったけれど、まだくらくらするし、微妙に気持ち悪い。

「もう、バトラーったら! ステラちゃんにとどめを刺させるなんて、無謀すぎるわよ!」
「すまない。だが、一度は倒しておかないと、のちのち困ることになるのはステラだ」
「そうだけどぉ……、それでも、もっとレベルが上がってからのほうが、よかったんじゃないかしら」

 遠くでバトラーさんとキャシーさんが何か話をしているけれど、なんだか耳も遠い感じでよく聞こえない。よっぽど顔色が悪いのか、背中をさする大きな手が温かく感じた。

「ステラ、これを飲め。一口でいい」
「あい……」

 バトラーさんの声が聞こえたあと、唇にひんやりとしたものが当たる。飲めと言われて口を開けると、そこにドロッとした苦みのある液体が流れ込んできた。
 なんだろう……ゆるいゼリーを口の中に入れた感覚?
 ごっくんしたあと、眩暈やら気持ち悪さなどが一気になくなり、真っ暗だった視界が戻ってきた。そこでようやく息をつくと、目の前にバトラーさんの顔があった。
 やっぱバトラーさんだったか。
 周囲を見回してみれば、テトさんとキャシーさんが心配そうな顔をして私の顔を覗き込んでいたんだけれど、もう一口飲めと言われて液体を飲んだことで顔色がよくなったのか、ホッとした顔になった。
 つうか、マジで何があったんだろう?
 質問しようとしたら、バトラーさんを筆頭に三人で説明してくれた。
 私がとどめを刺したことで大量の経験値が入り、一気にレベルが上がったであろうということ。
 私にとどめを刺させたのは、神獣では絶対に取れない称号を取らせること。
 私に飲ませた液体はアムリタという液体薬ポーションで、万能薬の最上級にあたるものだと教わった。
 ついさっきその名前を聞いたばかりなのに、飲んじまったよ!
 ちなみに、ソーマとアムリタの違いは、ソーマが欠損など肉体の修復を完全完治できる液体薬ポーションで、アムリタは病気などを含めて具合が悪かろうと一瞬で治る液体薬ポーションだという。
 万能薬は飲めば一瞬で効き目が出るものの、あくまでも魔物から受けた状態異常を治すだけなのに対し、アムリタは一口飲めば一瞬で状態異常だけじゃなく病気も完治させるものだそうだ。
 作れる薬師や錬金術師が数人しかいないし、ダンジョンでも稀に出るが本数が少ないというとても貴重な液体薬ポーションであると同時に、そのお値段もバカ高いという。

「しょんなきちょうなものをちゅかってよかったんでしゅか?」
「構わない。ステラの具合が悪くなるとわかっていて、とどめを刺させたのは我だからな」

 落ち込んだ雰囲気のバトラーさんだけれど、本当に私に必要な称号だったから無理を通したと謝罪したバトラーさん。
 怒ってないから気にすんなー。できれば最初に一言ほしかったけどさ。
 さて、どんな称号が付いたのかとステータスを見てみたら。


 名前  ステラ
 性別  女
 年齢  3
 種族  神族
 レベル 158/999
 スキル 魔法の心得(Lv:ー)
     料理人(Lv:ー)
     調合(Lv:1)
     魔力循環(Lv:9)
     魔力操作(Lv:9)
     地理把握(Lv:2)
     錬金術(Lv:1)
     気配察知(Lv:3)
     裁縫(Lv:1)
     機織り(Lv:ー)
 魔法  風魔法(Lv:ー)
     火魔法(Lv:ー)
     雷魔法(Lv:ー)
     光魔法(Lv:ー)
     生活魔法
     鑑定
     言語理解
     マップ生成(Lv:ー)
     錬成(Lv:ー)
     付与(Lv:1)
 称号  女神バステトの愛し子
     転生者
     神獣バトラーの愛し子
     神獣テトの愛し子
     神獣スティーブ(自称キャスリン)の愛し子
     ドラゴンスレイヤーNEW


 ……泣いていいかな!? ドラゴンスレイヤー!? なにこれ!?
 ファンタジー的なものからするとドラゴンを倒した者に与えられる称号だとわかっているが、三歳児が持っていていい称号ものじゃないでしょ!
 しかも、レベルの上がりがヤバイ。ちまちまと当てて不必要な内臓を燃やしていたとしても、今朝まではレベルが45だったのだ。それが一気に100以上増えてるじゃん!
 それだけ私とベヒーモスのレベル差があったってことだよね。
 確かにベヒーモスのレベルは700を超えていたよ? だけど、ここまでレベルが上がるだなんて思わないじゃないか!
 あれか、バステト様の称号も関係してるのか、これ。一定の数値でレベルが上がる仕様になってたもんね。
 これから先もこんなことがあると、スーパー幼児になりかねない!
 頭が痛いと思いつつ、ドラゴンスレイヤーをタップする。すると、戦闘時はドラゴンに対して攻撃が五倍に、平時は近寄ってこないか好かれると書かれていた。

「…………」
「人型が欲しがる称号ものではありますが、倒せる者などほとんどいませんしねえ」
「いても、SSランクが十人とか、SSSランクが三人とか必要だものねぇ」
「僕たち神獣なら単独でもいけますけど、滅多に襲われませんし」
「今回はステラがいたからな。我らがいようとも、ステラの匂いの惹かれたのであろう」
「「そうかも」」
「おおう……」

 本来なら、ドラゴンは神獣の強さを知っているから、近寄らないという。ただし、餌となる人間や魔物、動物が一人いるだけで神獣がいても襲うんだって。
 ああ、だから私にこの称号を取らせたのか――私が一人で森を散策できるような年齢になっても、ドラゴンに襲われないように。
 だからバトラーさんは、私に必要な称号だと言ったんだね。

「ステラ、隠しておくのだぞ」
「あーい!」

 もちろん隠すよ! 三歳児が持つ称号ものじゃないから!
 そんなこんなでベヒーモス退治も終わり、バトラーさんがサクッと解体したあと、亜空間にしまった。
 その後、もう一度ズーとベヒーモスに襲われたり、エンペラーギャーギャー鳥や太さが二メートル、長さが三十メートルはあるエンペラーバイパーというヘビに遭遇したものの、大人三人が一瞬で倒したので問題なく目的地に着いた。

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