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第一章

Case 13.血肉湧き踊る戦場、されど私は

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「ふむ、聖麗会か。そして、君も転移者だったな」

 ジョーカーは禍々まがまがしいオーラを放ちながら、麗ちんの方を向く。剣呑な風が、辺りに充満する。

「あれ? 初めましてなのに、どうして? あー、インプットか。やっぱ差あるみたいだね♪」

 そして麗ちんがぽんっと手を叩いたタイミングで──。

「──ちちんぷいぷい、チョチョイノ~~~チョリーッス! 雁首揃えやがったカナメイトのお前ら、こんぷいぷい~、ITuberの、魔法少女カナタ・プイキュアだぷい! 緊急生配信! 聖麗会リーダー白崎 麗とジョーカーの直接対決をお送りするぷい! 目ん玉ひん剥き、耳ん中かっぽじって見聞きしやがれぷい!」

 さらに巨大な長方形が上空に描かれ、彼女も姿を現した。

「……これは意外や意外、どういうことだ?」

 ジョーカーに、困惑の色が滲む。それに返答するのは……私もジョーカーも、またもや意表を突かれる相手だった。

「──光の玉の説明は、全てジョーカーを欺くための嘘。本当はリアルタイムで、ITuberカナタの元へ届いていた」

 後ろから現れたマキナさん。そう語った。

「光の玉は、カナタんの魔法で出しやがったのぷい! そして、ローランド家に送り込み、ずーーーっと、聖麗会に届けていたのでしたぷい! いや~、シャーロットちゃんの名推理のお陰で、追い詰めることができたんだぷい! 泳がせて正解でしたぷい!」

「……! 褒められた! プイキュアに! ぶへへへっ」

 いや、厳密には彼女はプイキュアを名乗ってるだけだけど。それでも素直にうれしかった。

「私はITuberカナタのマネージャー。彼女と、ジョーカーを追い詰めるためにパーティに参加した」

「なるほど。恨まれ人ブリリアントのお前を特別視するような口ぶりに違和感あったが……そういうことだったか」

 ジョーカーは逃げるのを諦めるように両手を振り、溜息をつく。しかし、決して目は死んでいなかった。

「カナタの魔法は強力。光の玉から逃げられるとは思わない方がいい。観念して」

 マキナさんが持っていた光の玉は上昇し、辺りを旋回する。距離が離れてはいけないと彼女は口にしていたが──それは嘘だと証明するように、光の玉は生き生きしていた。

「今、光の玉から受信した映像を様々な場所で配信してるぷい! 絶対逃げられないぷい!」

「……なるほどな」

 まさに、逆転の一手。ジョーカーは完全に包囲された。
 麗ちんは一歩、前に出る。

「じゃ、大人しく麗ちんに殺されてくれるかな♪ どうせアンタは死罪だし、いいよね?」

 ジョーカーも負けじと、足を踏み出す。

「当然抵抗させてもらうが……先の剣技を見せられると、陰鬱な気持ちになるな。上の監視カメラがごとし能力もだが……転移者とは、例外なく化け物じみた能力を持っているのか」

 そんなことないのだが!
 と、私が悔しい気持ちになっている中。

「さりとて、私はこの命ある限り怨嗟の正義執行人。邪魔立てするというのなら、美学に反するが──貴様を葬送させよう」

 ジョーカーは、居住まいを正して、手の平を広げる。

「まさか、麗ちんに勝てる気でいるの?」

 麗ちんはひるむ様子が厘毛もなく。そんな軽やかな口調とは裏腹に、双眼に炎を宿す。そして、レイピアを持ち直し……一目瞭然な戦闘態勢に入る。

「お、おい待て! デスゲームに乗る必要など、私には感じられない! 1年経てば終わるんだ! あんな世界でも、戻ればいいじゃないか! 幸せを見つければいいじゃないか!」

 私は走って、二人の間に割って入る。

「おチビちゃんは相変わらずだねぇ♪ どれだけ温室育ちだったの? それとも、死ぬほど頭がパッパラパーとか?」

「ふっ、それには私も同感だな」

 ジョーカーは肩で笑って。私の体を軽やかに持ち上げて、投げ飛ばした。

「ぐっ……!」

 受け身が取れず、体を地面に強く叩きつけられる。

「がはっ──!」

 さらに、有象無象の石ころの弾丸を、私にぶつけた。
 こっちの私は健康体とはいえ、幼体等しい華奢な体は、それだけで大きなダメージを負ってしまう。立ち上がることができなかった。
 私は蚊帳の外となり。ジョーカーと麗ちんは対峙する。

「言っておくけど──こっちはアンタの魔法、見てるんだからね♪」

 そしてさらに空気を一変させたのは、麗ちん。目にも止まらぬ速さで、レイピアを突き出す。
 直撃──呆気ない幕切れさえ思わせたが──レイピアはジョーカーの頭上を通り過ぎていた。麗ちんの足元が隆起しており……何が起こったのかは明白だった。

「ふっ、私の堅牢な要塞を切り裂いた剣──私とて、君の能力を見ているのだぞ」

 ジョーカーは、そう卑しく笑って。先程、麗ちんが断裂した土の塔の残骸を粉々にし──弾丸のようにして投げた。

「くすっ、バトルロワイアルらしくなってきたじゃん♪」

 麗ちんは、後れを取ることなく──剣を一振り。すると──強烈な旋風が巻き起こり、その残骸は縦横無尽に跳ね返る。

「ちっ──」

 ジョーカーは慌てて自身の目の前の地面を盛り上げる。しかし、盾として機能する前に、跳ね返された石の弾幕が体のあちこちを傷つけた。服が破かれ露出した皮膚は流血している。

「あははっ♪ アンタ、能力は強力っぽいけど、戦いはてんで素人でしょ」

 そう、笑いながら。お返しと言わんばかりに、麗ちんは一閃の嵐を降り注ぐ。強風と共に、剣先がジョーカーに襲い掛かる。

「……っ」

 ジョーカーは土の盾を次々と編み出すが、防戦一方。

「あれれ、どうしたの? 麗ちん、まだ全然本気出してないんだけど♪」

 そしてジョーカーの表情は曇っていくが……麗ちんはそれだけ、愉悦の表情が広がっていく。

「これなら──」

 ジョーカーは自らの足元の地面を突き出し、遥か上空に浮かび逃避を試みるも──。

「うーん、自分の正義を示すなら、真向から戦わないと♪」

 軽やかに跳躍しただけで、麗ちんは同じ高さまで浮かび上がる。鮮やかなポージングで、レイピアを月明かりに煌めかせる。

「化け物め……!」

 すぐさまジョーカーは足元のタワーを沈降させる。すると剣は空振るも、ジョーカーはバランスを保つに精一杯だった。一方麗ちんは、体勢を崩していない。

 それなのに彼女は──次なる攻撃を繰り出さなかった。

 それは、麗ちんが手を抜いているのは明々白々で。煌々こうこうと、赫灼かくやくとした上弦の月と共に下を見下ろし、嗤っていた。

「はぁ……アンタの信念薄っぺらいし、だからこの程度なのか♪」

 華麗に着地した麗ちんは、溜息をつきながらそう言う。対してジョーカーは、圧倒的な力の差に戦意喪失したのか、覇気を失っていた。
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