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第二章
Case 21.#百合好きさんと繋がりたい
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視界が晴れ、空想世界から抜け出したと瞬時に理解した。
神々しい雰囲気を纏う教会に私達は立っている。
色とりどりのステンドグラス、木でできた横長の席。中央に祭壇。
そう、まさに、神聖なる内装だった。
内装──だけは。
「──あたしの世界を抜け出すなんて、ははーん、さては君たちノンケではないな?」
広大な教会に、声が響く。さっきの声の主だ。そして、誘拐事件の犯人だろう。
その人が、祭壇から降りてくる。姿が目に映る。
声の通り……女性だった。平均的な身長で、20代中盤に見えた。
ただ、この場所に、似つかわしくない格好をしている。
彼女は……シスター服でもなんでもなく……自室でくつろぐときのようなジャージ姿だった。
髪もボサボサで、折角整った顔を台無しにしている。
そして、異様なのは、それだけではない。
「は……ははははは……」
椅子に着座する人達が──みな一様に、目から生気を失い、口端から唾液を垂らし、されど恍惚に、天井を見上げている。敬虔な信者よろしく、同じ神をあがめるように。
「……あの人達は、君のせいでああなってるのかな?」
近づいてきた彼女に、私は声に怒りを滲ませて言う。
「え、ちょっと待って、あたし悪者扱いされてる?」
ポケットから取り出した眼鏡をかけながら、あっけらかんと彼女は返す。悪気など、全く感じている様子はなかった。
「目的はなんだ?」
「真なる救済だって。最初言ったじゃん。……まったく、折角好みの女の子が来て心の中でガッツポーズしてたのに、まだ、あたしの領域には辿り着いていないんだ」
気怠そうに、頭を掻きながら。彼女は言った。
「その真なる救済ってなんでヤンス……?」
「さっきから思ってたけど君の喋り方クセ強いな、おい。界隈で一回も見たことないぞ」
ワトソン君の言葉にそう返しながら、顎に手を当てて。
そういえばその語尾のキャラって腐人気あんまないよな……と続けた。
「……ワトのせいで話脱線した」
「罰ゲームのせいでヤンスよ!? というかマキナちゃんもわたしのこと名前で呼んでくれないヤンス!?」
私達は、仲良くなっていた。
さっきの世界を共に乗り越えたお陰で────いや、これではこの女のやってることを肯定してしまう……! 私は気持ちを切り替える。
「……君、転移者だろ?」
「あぁ、そうだよ。君も、だよね? あの世界のテンプレを、一回で全て逆張りできるなんて不可能だし」
はぁっと溜息を吐いたあと、でも……と面倒くさそうに彼女は続ける。
「あたしはさ、異世界来てこういうチート能力貰ったら、スローライフしたい派なんだよね」
それは、私にはよく分からないことだった。
「……殺し合いに参加するつもりはない?」
「もちろんもちろん、あたし逆ハーレムとか興味ないし。そういうのメンドイし。死ぬまで百合好きユニコーンのあたしを舐めんなよっ!」
「ユニコーン……?」
「ってかちょっと待って、ってことはもしかして、君はあたしを殺しに来たの?」
「いや、私は既にゲームを降りている。君の悪行を止めにきたんだ」
「悪行って……この人たちの顔を見て、そう思う?」
彼女が目を流すは、椅子に座る信者?の人達。確かに、幸せそうにうっとりし、笑ってはいるが……感情が壊れているようにしか見えない。
「洗脳されているようにしか見えないな」
「え、ちょっと待って、洗脳なんかしてないよ。みんな、自ら望んで、救いを──あたしの世界を求めたんだ」
「どういうことだ? 君の魔法……ということか?」
「あぁ、そうだよ。あたしの魔法は──どんな妄想世界でも創り出せること。そこに他人を招来できること」
「……さっきの世界も?」
「もちろんだよ銀髪美少女。そしてここにいるみんなも、今自分達の理想の虚構世界に耽溺してる。あたしが、みんながそれぞれ夢見る世界を聞いて、創造して、誘った。もちろん、頼まれてね」
「……? どうして、そんなことするでヤンスか?」
ワトソン君が首を傾げると、ずっと物憂いとしていた女は、悲しそうに笑った。
「さっきの君たちを見ていた限り──教えてもあたしたちとは交われないと思う」
「……私には分かるぞ」
一歩踏み出しながら、私は言った。
そして、続ける。
「私もずっと、物語の世界に生きてきた。消灯時間の後や、体がいっぱい痛いときには、いつも自分で妄想してた世界に没頭してた。ホームズの世界に行って……いっぱい事件を解決した……!」
「……あーそれホームズのコスプレか」
「でもな! 私は一度たりとも、現実世界を無下にしたことはない! 色んな本を読んだから、頭がよくなったんだ! 同室のサムさんに、先生に褒められてきたんだ! 人は成長を諦めてはいけない! 成長を諦めるということは、自分が前に進んでいないということだからな!」
そう、だから私は、悔いのない人生を送ることができたんだ。まだまだ読んだときない本は沢山あったけど、もっとサムさんとお話したかったけど、思い残すことはなかった。
「君みたいに、強い人間ばかりじゃない。話から察するに、君は、体にハンデを背負って生まれてきてしまったようだけど……心の強さだってね、平等じゃないんだよ」
「あぁ、解ってる。心とは、脳にあるって本で見たときあるからな。ゆえに心は臓器だ。しかし、挫折や失敗、絶望を浴びて、成長する。明るい未来に繋がる!」
事件は解決した。でも、アンジェラ婦人を救えなかった。しかしそれは、シャーロット・ホームズを導いた。
ジョーカーを特定し、ブリリアント婦人を守った。でも、麗ちんやモリアーティとの殺し合いを止められなかった。
その後悔は、私の胸の中で燃えている。
そしてそれは本で得られるものじゃない。実際に経験したから、私は強くなったんだ……もっと努力しようと思ったんだ……!
「あははっ、君、不思議だね。あたしの作品に登場させて分からせたい」
「分からせる……?」
急に、マキナがハッとした顔になる。
そして……。
「──私もシャロが分からせられて”快楽堕ち”するとこ見たい」
あの言葉が分かったような、清々しい表情でそう言った。
私を分からせるってなんだ?
「ビクシブでR-18小説書くの捗りそう」
「よく分からんが私で遊ぶな! あのな──R-18指定作品に、18歳未満は登場させてはいけないと聞いたときがある! だから、私は創作の中に登場できない!」
「……はっ」
女に鼻で笑われた。
「とにかく、ここに居る人はみんな、現実世界を停滞してでも、あたしの妄想で生きることを選択した。あたしのクリエイティブな物語は、どんな人にも寄り添える」
「寄り添ってくれるのは、作品だけじゃない」
「はっ、あたしの作品は違うね。死ぬまで百合好きユニコーン@しばらく低浮上舐めんなよっ!」
「だからそのユニコーンはなんなんだ!?」
「そうだ君、じゃああたしと勝負しようよ」
「無視!?」
「あたしの妄想作品を分からないのもそうだけど……正直さ、脱出されたの悔しいんだよね。だから、本気で証明してあげるよ」
「どうやって?」
「あたしがもう一度、空想世界を作り出してゲームを行う。だけどそこは、TRPGのように──即興劇のように、あたしらは自由に物語を歩めるものとする。ゲームのルールは決まってるけど、どっちが勝つかはあたしたち次第ってね。もちろん、さっきみたいに死ぬことはないよ」
「よく分からんが、いいだろう。君が分かってくれるまで、私は何度だって心をぶつける。何度だって戦う!」
そして、いつか麗ちんにもわかってもらう。あのモリアーティにもだ。
私はまだまだ……成長する!
「じゃあ、早速始めよう──デュエルスタンバイッ! ゲートオープン解放ッ!」
彼女が、手の平を天に向けると……天井から白光が降り注ぎ──私達を包み込む。
再び、空想世界に誘われる──。
神々しい雰囲気を纏う教会に私達は立っている。
色とりどりのステンドグラス、木でできた横長の席。中央に祭壇。
そう、まさに、神聖なる内装だった。
内装──だけは。
「──あたしの世界を抜け出すなんて、ははーん、さては君たちノンケではないな?」
広大な教会に、声が響く。さっきの声の主だ。そして、誘拐事件の犯人だろう。
その人が、祭壇から降りてくる。姿が目に映る。
声の通り……女性だった。平均的な身長で、20代中盤に見えた。
ただ、この場所に、似つかわしくない格好をしている。
彼女は……シスター服でもなんでもなく……自室でくつろぐときのようなジャージ姿だった。
髪もボサボサで、折角整った顔を台無しにしている。
そして、異様なのは、それだけではない。
「は……ははははは……」
椅子に着座する人達が──みな一様に、目から生気を失い、口端から唾液を垂らし、されど恍惚に、天井を見上げている。敬虔な信者よろしく、同じ神をあがめるように。
「……あの人達は、君のせいでああなってるのかな?」
近づいてきた彼女に、私は声に怒りを滲ませて言う。
「え、ちょっと待って、あたし悪者扱いされてる?」
ポケットから取り出した眼鏡をかけながら、あっけらかんと彼女は返す。悪気など、全く感じている様子はなかった。
「目的はなんだ?」
「真なる救済だって。最初言ったじゃん。……まったく、折角好みの女の子が来て心の中でガッツポーズしてたのに、まだ、あたしの領域には辿り着いていないんだ」
気怠そうに、頭を掻きながら。彼女は言った。
「その真なる救済ってなんでヤンス……?」
「さっきから思ってたけど君の喋り方クセ強いな、おい。界隈で一回も見たことないぞ」
ワトソン君の言葉にそう返しながら、顎に手を当てて。
そういえばその語尾のキャラって腐人気あんまないよな……と続けた。
「……ワトのせいで話脱線した」
「罰ゲームのせいでヤンスよ!? というかマキナちゃんもわたしのこと名前で呼んでくれないヤンス!?」
私達は、仲良くなっていた。
さっきの世界を共に乗り越えたお陰で────いや、これではこの女のやってることを肯定してしまう……! 私は気持ちを切り替える。
「……君、転移者だろ?」
「あぁ、そうだよ。君も、だよね? あの世界のテンプレを、一回で全て逆張りできるなんて不可能だし」
はぁっと溜息を吐いたあと、でも……と面倒くさそうに彼女は続ける。
「あたしはさ、異世界来てこういうチート能力貰ったら、スローライフしたい派なんだよね」
それは、私にはよく分からないことだった。
「……殺し合いに参加するつもりはない?」
「もちろんもちろん、あたし逆ハーレムとか興味ないし。そういうのメンドイし。死ぬまで百合好きユニコーンのあたしを舐めんなよっ!」
「ユニコーン……?」
「ってかちょっと待って、ってことはもしかして、君はあたしを殺しに来たの?」
「いや、私は既にゲームを降りている。君の悪行を止めにきたんだ」
「悪行って……この人たちの顔を見て、そう思う?」
彼女が目を流すは、椅子に座る信者?の人達。確かに、幸せそうにうっとりし、笑ってはいるが……感情が壊れているようにしか見えない。
「洗脳されているようにしか見えないな」
「え、ちょっと待って、洗脳なんかしてないよ。みんな、自ら望んで、救いを──あたしの世界を求めたんだ」
「どういうことだ? 君の魔法……ということか?」
「あぁ、そうだよ。あたしの魔法は──どんな妄想世界でも創り出せること。そこに他人を招来できること」
「……さっきの世界も?」
「もちろんだよ銀髪美少女。そしてここにいるみんなも、今自分達の理想の虚構世界に耽溺してる。あたしが、みんながそれぞれ夢見る世界を聞いて、創造して、誘った。もちろん、頼まれてね」
「……? どうして、そんなことするでヤンスか?」
ワトソン君が首を傾げると、ずっと物憂いとしていた女は、悲しそうに笑った。
「さっきの君たちを見ていた限り──教えてもあたしたちとは交われないと思う」
「……私には分かるぞ」
一歩踏み出しながら、私は言った。
そして、続ける。
「私もずっと、物語の世界に生きてきた。消灯時間の後や、体がいっぱい痛いときには、いつも自分で妄想してた世界に没頭してた。ホームズの世界に行って……いっぱい事件を解決した……!」
「……あーそれホームズのコスプレか」
「でもな! 私は一度たりとも、現実世界を無下にしたことはない! 色んな本を読んだから、頭がよくなったんだ! 同室のサムさんに、先生に褒められてきたんだ! 人は成長を諦めてはいけない! 成長を諦めるということは、自分が前に進んでいないということだからな!」
そう、だから私は、悔いのない人生を送ることができたんだ。まだまだ読んだときない本は沢山あったけど、もっとサムさんとお話したかったけど、思い残すことはなかった。
「君みたいに、強い人間ばかりじゃない。話から察するに、君は、体にハンデを背負って生まれてきてしまったようだけど……心の強さだってね、平等じゃないんだよ」
「あぁ、解ってる。心とは、脳にあるって本で見たときあるからな。ゆえに心は臓器だ。しかし、挫折や失敗、絶望を浴びて、成長する。明るい未来に繋がる!」
事件は解決した。でも、アンジェラ婦人を救えなかった。しかしそれは、シャーロット・ホームズを導いた。
ジョーカーを特定し、ブリリアント婦人を守った。でも、麗ちんやモリアーティとの殺し合いを止められなかった。
その後悔は、私の胸の中で燃えている。
そしてそれは本で得られるものじゃない。実際に経験したから、私は強くなったんだ……もっと努力しようと思ったんだ……!
「あははっ、君、不思議だね。あたしの作品に登場させて分からせたい」
「分からせる……?」
急に、マキナがハッとした顔になる。
そして……。
「──私もシャロが分からせられて”快楽堕ち”するとこ見たい」
あの言葉が分かったような、清々しい表情でそう言った。
私を分からせるってなんだ?
「ビクシブでR-18小説書くの捗りそう」
「よく分からんが私で遊ぶな! あのな──R-18指定作品に、18歳未満は登場させてはいけないと聞いたときがある! だから、私は創作の中に登場できない!」
「……はっ」
女に鼻で笑われた。
「とにかく、ここに居る人はみんな、現実世界を停滞してでも、あたしの妄想で生きることを選択した。あたしのクリエイティブな物語は、どんな人にも寄り添える」
「寄り添ってくれるのは、作品だけじゃない」
「はっ、あたしの作品は違うね。死ぬまで百合好きユニコーン@しばらく低浮上舐めんなよっ!」
「だからそのユニコーンはなんなんだ!?」
「そうだ君、じゃああたしと勝負しようよ」
「無視!?」
「あたしの妄想作品を分からないのもそうだけど……正直さ、脱出されたの悔しいんだよね。だから、本気で証明してあげるよ」
「どうやって?」
「あたしがもう一度、空想世界を作り出してゲームを行う。だけどそこは、TRPGのように──即興劇のように、あたしらは自由に物語を歩めるものとする。ゲームのルールは決まってるけど、どっちが勝つかはあたしたち次第ってね。もちろん、さっきみたいに死ぬことはないよ」
「よく分からんが、いいだろう。君が分かってくれるまで、私は何度だって心をぶつける。何度だって戦う!」
そして、いつか麗ちんにもわかってもらう。あのモリアーティにもだ。
私はまだまだ……成長する!
「じゃあ、早速始めよう──デュエルスタンバイッ! ゲートオープン解放ッ!」
彼女が、手の平を天に向けると……天井から白光が降り注ぎ──私達を包み込む。
再び、空想世界に誘われる──。
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