魔女との世界の歩き方

第四章 【アンデットの悲劇】

第四節 【戦いの裏 １】

アンデットの軍勢が都市リグレットに到達する三日程前、ルーンたちがサラマンダーを突破した日。
橋の管理人であるエルはその日も何事も無く平凡な一日を過ごしていた。

「はぁ、今日も暇だな」

ルーンと分かれてから数十日、オークロードを倒した時の賞金がギルドから送られてきた以外誰とも会話
すらしていない。
そんな毎日を過ごしていれば誰でも暇だと感じてしまう。

その日も結局何も無く一日が終わろうとした夜、エルは奇妙な光を視界に捕らえた。

「なんだ、あれ」

小屋の外に出て、眩い紫の光が発する方向を見る。
その方角はルーンたちと制圧したばかりのオークの巣がある方角だった。

「いやな予感がする」

そう一言呟き、エルは急に振り出した雨の中厩から馬を出して光の方角へと駆けていった。

叩きつける雨の中到着したエルは、息を潜めながらオークの巣へと近づく。
そして近づくにつれて腐乱した臭いが辺りに立ち込めてきた。

「何だよ、この臭いは」

警戒しながら進んでいくと、その光と臭いの根源を目の当たりにした。
エルの目の前には所々肉が剥がれ、骨が見えていて腐りかけているオークが何体も立っていた。
それが今でも穴の中から溢れ出し、おびただしい数になってきている。

エルは声を出すことも出来ずに木の陰に隠れていたが、少しの間眺めていると大きな足音が聞こえてきた。
その足音の正体は、大きな穴の出口からのっそりと顔を出した、オークロードだ。
オークロードも他のオークたちと同じように所々欠けていたり腐っていたりしている。

「これがアンデットって言う奴か、始めて見たな」

エルは小声で呟いた。
オークたちが全て出現し終えるとその数は百以上にも上り、さらに穴からフードを被った小柄な何かをエルは見逃さなかった。

その正体をエルは今回の現象の根源であるとエルは悟った。
集団は全部が揃うと都市リグレットのある方向へと歩き出した。

エルはこのままではまずいと瞬時に思い、都市に向かう準備をするべく一度小屋へと戻った。
あれだけのアンデットの軍勢が都市に攻め入ったら大変なことになると思ったエルは、さっき見た情報を伝えに行くべく都市に向かうことにしたのだ。

愛用の斧を背中に差し、最低限の食料と荷物。
それに前回ルーンが忘れていった、父親の形見と言っていた片手剣を馬に乗せて全力で橋を渡り都市へと向かった。

そして現在、エルの居場所は都市まで後半日という所まで来ていた。