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嘘(2)
しおりを挟む父もすばるも無言のまま家に帰った。
夏だというのに、二年ぶりの実家の空気はどこか寒々しかった。流星や志村が出入りしていた祖母の家とは大違いだ。
父は、すばるを祖母の家から引き離す機会を前々から窺っていたようだ。理由は流星が口にした通りのことだろう。
父を迎えに出て来た母が、すばるがいるのを目にして一瞬表情を強ばらせたのを、すばるは見逃さなかった。
感情があふれ出すのを押さえ込むように、まぶたを伏せる。
――予想はしてたけど、やっぱり、ちょっと、つらい。
十歳の妹だけは努めて普通に接してくれようとしたが、それがわかるだけに可哀想だった。
まだ小さいうちから、大人たちの顔色を伺って生きることは、つらいことだ。自分もそうだったから、なるべく早くそんな暮らしからは解放してやりたい。
高校生活は、あと残り数ヶ月。
国立大にさえ受かれば、さすがの両親も上京するなとは言えないはずだった。教師の援護射撃も取り付けてある。こんなときのために面倒な生徒会の仕事だって引き受けてきたのだから。
朝、母は相変わらず目を合わせようとはしなかったものの、朝食と弁当を作ってくれた。父親は終始無言だったものの、約束通り通勤がてら学校まで送ってくれた、もっとも、これには監視の意味もあっただろう。
「すばる」
教室に入った途端、流星が駆け寄ってきた。
「〈すばる〉?」
――下の名前。
そういえば昨夜から呼んでいたような気もするが、状況が状況だったので全然気がついてなかった。
思わず反復してしまうが、流星は気に留めてもいないようだ。
「昨日、あれから大丈夫だったか? メッセ送ったんだけど」
「ああ、うち電波悪くて。実家、ここら辺よりさらに山側だからさ」
嘘だった。
自分の中の恋心がはっきりし、流星は正義感による同情でしかないとわかった以上、どういうやりとりをしたらいいかわからない。だから敢えて見ないようにしていたのだ。
「今日、放課後時間あるか」
「ちょっと難しい。帰りのバス、本数少なくて。もうすぐ期末だから、なるべく早く帰って勉強したいし」
流星は、自分がどうして熱心に勉強するのか知っている。いや、流星「だけ」が本当の理由を知っている。だからこそこう言えば引き下がるしかない。
案の定流星は「そっか」と引き下がった。
「あの家には、もう戻らないのか?」
「いや? おれのもの、いろいろ置いてあるし。でも今すぐ戻りたいとか言ったら機嫌損ねそうだから、期末が終わったら切り出してみるよ」
すばるはそう言って笑顔を作った。
メッセージにはどう反応したらいいかわからない。
だけど、本当じゃないことは、すらすら言える。
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