甘い運命〜オメガパティシエは後宮で気高き王に溺愛される〜

あまみや慈雨

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希望(アスラン視点)

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 目覚めると、すでにウミトの姿はなかった。体には昨夜の交わりの甘い残滓がある。
 乱れた髪をかきあげながら寝台を下りると、サイドテーブルにメモが残されていた。
『今日おれ、まかない当番だから、もう行く』
 今頃もう厨房でちょこまかと働いているのだろうか。
 その姿を思い浮かべると、思わずくすりと笑ってしまう。スルタンをここまで袖にできる人間もそういない。
 初めてウミトに会ったときの、抗いがたい衝動を思い出す。そして荒々しく交わったのあとの、開放感。あんなに満たされたのは人生で初めてだった。そしてなにより。
 
『それ、呪いじゃないよ。あんたなんにも悪くない』
 
 まるで、なんでもないことのように告げられた言葉。
 すっかり体が軽くなったのは、行為のせいではなく、むしろこの言葉の力だったように思う。
 
 自分という男児が生れたから、母は不幸になった。死ななければならなかった。

 そういう想いが、払いきれない靄のように常に胸のうちに居座っていた。
 だから、呪いなどという流言を、ばかばかしいと思いながら、まったく気にせずにいることは不可能だった。

 毎月襲ってくる暴力的な衝動の中で、自分は本当に狂ってしまったのではないかと考えていた。
 そこに突然現れた、ウミト。

〈ウミト〉
 それはイルディズの言葉では〈希望〉を意味する。
 
『仮にアスラン様が本当に呪われているのだとして、その場合、責められるべきなのは呪ってきた奴のほうじゃないんですか』
 
 まったくその通りだ。そんなことをウミトに言われるまで気づかないとは、どうやらだいぶ弱っていたらしい。これでは噂を流した者の思う壺だ。
 しかし、昨夜の席は傑作だったが、少しまずいのも確かだ。密かに弟を支持している宰相には、耳に痛い言葉だったろう。
 ウミトが危険な目に遭う可能性がある。 

 気がかりはそれだけではない。
 礼拝堂の視察に向かったとき、たまたま耳にしてしまった。
 
『お、おれは早く後宮を出て、自分の店をもちたいから言うこと聞いてるだけだから……!』
 
 早く専任の者を見つけねばな――
 もとより、そういう約束だ。
 国内のオメガ探しは難航している。本当に信用のおける臣下の中で、よく気が利く者に任せてはいるが、今までまったく知られていなかったものを探し出すのだ。時間はかかる。
 見つけ出したら、ウミトを解放してやれる。
「……」
 もとよりそういう約束だ。
 胸の内でくり返す。

 何度もくり返さないと、撤回したいという気持ちを、押さえつけられそうになかった。
 
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