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Dead End
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足元の悪い道を、息を切らしながら歩いて目的地へ向かう。
周りには木々が生い茂り、行く手を阻む.
止めてくれているのだろうか。
だとしたら、君達が最初で最後だ。
私は、私の「物語」を終わらせに来た。
学生時代から、想いを寄せた女性には悉く相手にされなかった。
もしくは、既に私は必要なくなっていた。
しかし、私の周りの人間は私が手に入れられなかった「愛」というものを掴み、育み、慈しんでいる。
自慢ではないが、私は普通の人よりは他人に思いやりのある人間だと思っている。
しかし、そんなものを持っていても何も変わらなかった。
むしろ、それが欠けているような者たちが、私が望んでも手に入らない物を易々と手に入れている事実。
腹立たしかった。
そして、悔しかった。
現実は無情だ。
もう1つ、私が手に入れたかったものがある。
それは、私が他に代わりのいない人間であることの証明だ。
人は、何を以て自身の存在を確立し、自らの人生を歩むのだろう。
「そんなこと、考えたこともない」という人もいる。
しかし、私はその根拠が欲しかった。
それを創り出す手段として、私は音楽を選んだ。
ちょっとした憧れから始まり、趣味を通り、いつしか夢となった。
その夢を現実にすることが、私の生きる希望になっていた。
当時は前向きな性格だった私は、他者にとって手にするのも容易い愛すら手に入れられないことも、自分の武器の1つだと言い聞かせ、がむしゃらに夢を追い続けてきた。
そんなボロボロの武器では、誰にも勝てないどころか戦えないというのに。
結果、愚かな選択に後悔し、絶望している自分がいる。
それまで街中では平凡な、しかし、それでいて価値のある人生を歩む人達を見て、心の中で1人、劣等感と同時に「負けてたまるか」「自分の人生を歩むんだ」と、気持ちを奮い立たせてきた。
もしあの時、夢を諦めて平凡という幸せを掴もうとしていたら、違う未来にいたのだろうか。
暗闇を照らす光に虫が集まるように、過去の私は心を支配する暗闇に差す、根拠のない光に向かって歩みを進めてきた。
しかし、どれだけその光を追っても、その先に辿り着くことはできない。
それさえも物語を構成する1つの章だと、自分に言い聞かせ、前を向いて歩みを進めてきた。
それも、もう終わりだ。
これだけ歩き続けて、ボロボロになっても何も叶えられなかった。
「もう疲れた」
悲しみや苦しみ、嫉妬という感情を、夢や希望という抽象的な概念で誤魔化してきた。
それが、歩みを止めることで歯止めが効かなくなったのだろう。
それらがじわじわと、心の底から溢れていく。
既に受け止めきれなくなっていたのだ。
せめて、この馬鹿げた物語を終わらせる場所に向かわなければならない。
そう思って瞼を数回閉じ、意に反して流れ出そうとする感情にどうにか蓋をする。
そして、前を向き、歩き続ける。
辿り着いたのは、多くの人間が物語を終わらせてきた場所。
俗にいう「自殺の名所」というやつだ。
さあ、終わらせよう。
新しい世界の入り口を作り、頭を通す。
そして、この世界から足を踏み外す。
「さよならだ」
流れ出した記憶が、物語の最後を飾る。
自分の誕生を喜んでくれた両親の記憶。
学校帰り、友人と遊んだ記憶。
意中の女性に想いを伝えるも、叶わなかった記憶。
社会に出てもなお、夢を追い続けた記憶。
自分が得られなかった物を手にしている他者へ、劣等感を覚えた記憶。
夢も愛も掴めず死を目指し、唯一辿り着いた現在。
意識が徐々に遠のいていく。
最後のページが捲られた。
周りには木々が生い茂り、行く手を阻む.
止めてくれているのだろうか。
だとしたら、君達が最初で最後だ。
私は、私の「物語」を終わらせに来た。
学生時代から、想いを寄せた女性には悉く相手にされなかった。
もしくは、既に私は必要なくなっていた。
しかし、私の周りの人間は私が手に入れられなかった「愛」というものを掴み、育み、慈しんでいる。
自慢ではないが、私は普通の人よりは他人に思いやりのある人間だと思っている。
しかし、そんなものを持っていても何も変わらなかった。
むしろ、それが欠けているような者たちが、私が望んでも手に入らない物を易々と手に入れている事実。
腹立たしかった。
そして、悔しかった。
現実は無情だ。
もう1つ、私が手に入れたかったものがある。
それは、私が他に代わりのいない人間であることの証明だ。
人は、何を以て自身の存在を確立し、自らの人生を歩むのだろう。
「そんなこと、考えたこともない」という人もいる。
しかし、私はその根拠が欲しかった。
それを創り出す手段として、私は音楽を選んだ。
ちょっとした憧れから始まり、趣味を通り、いつしか夢となった。
その夢を現実にすることが、私の生きる希望になっていた。
当時は前向きな性格だった私は、他者にとって手にするのも容易い愛すら手に入れられないことも、自分の武器の1つだと言い聞かせ、がむしゃらに夢を追い続けてきた。
そんなボロボロの武器では、誰にも勝てないどころか戦えないというのに。
結果、愚かな選択に後悔し、絶望している自分がいる。
それまで街中では平凡な、しかし、それでいて価値のある人生を歩む人達を見て、心の中で1人、劣等感と同時に「負けてたまるか」「自分の人生を歩むんだ」と、気持ちを奮い立たせてきた。
もしあの時、夢を諦めて平凡という幸せを掴もうとしていたら、違う未来にいたのだろうか。
暗闇を照らす光に虫が集まるように、過去の私は心を支配する暗闇に差す、根拠のない光に向かって歩みを進めてきた。
しかし、どれだけその光を追っても、その先に辿り着くことはできない。
それさえも物語を構成する1つの章だと、自分に言い聞かせ、前を向いて歩みを進めてきた。
それも、もう終わりだ。
これだけ歩き続けて、ボロボロになっても何も叶えられなかった。
「もう疲れた」
悲しみや苦しみ、嫉妬という感情を、夢や希望という抽象的な概念で誤魔化してきた。
それが、歩みを止めることで歯止めが効かなくなったのだろう。
それらがじわじわと、心の底から溢れていく。
既に受け止めきれなくなっていたのだ。
せめて、この馬鹿げた物語を終わらせる場所に向かわなければならない。
そう思って瞼を数回閉じ、意に反して流れ出そうとする感情にどうにか蓋をする。
そして、前を向き、歩き続ける。
辿り着いたのは、多くの人間が物語を終わらせてきた場所。
俗にいう「自殺の名所」というやつだ。
さあ、終わらせよう。
新しい世界の入り口を作り、頭を通す。
そして、この世界から足を踏み外す。
「さよならだ」
流れ出した記憶が、物語の最後を飾る。
自分の誕生を喜んでくれた両親の記憶。
学校帰り、友人と遊んだ記憶。
意中の女性に想いを伝えるも、叶わなかった記憶。
社会に出てもなお、夢を追い続けた記憶。
自分が得られなかった物を手にしている他者へ、劣等感を覚えた記憶。
夢も愛も掴めず死を目指し、唯一辿り着いた現在。
意識が徐々に遠のいていく。
最後のページが捲られた。
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