捨てられ令息のスローライフ

千宮寺みるく

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辺境の村、ローレン

ヨナさんの家族

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ヨナさんは、私を自宅に案内した。
村長の家と変わらない、小屋のような作りの家屋で、扉を閉めると家全体が軋んだ。
通されたダイニング兼居間にはヨナさんの家族が緊張した面持ちで並んでいた。


「これが夫のマルス、息子のヨゼ、娘のマリアだよ。ヨゼは十三、マリアは十歳さ。
こっちは、ラディウス侯爵令息のジーク様だ」

ヨナさんの夫であるマルスさんはカチコチと固まり、子供たちは噂の貴族に目を輝かせていた。

「ヨナさん。私は貴族といえど家から放逐されたので、様はいりません。君たちも、私をジークと呼んでくれ」

子供達の前に屈んで私は微笑んだ。
「ジークお兄ちゃん、マリアはマリアだよ!ジークお兄ちゃんはずっと一緒に住むの?」
マリアちゃんの自己紹介に胸が暖かくなりながら、
「今日だけお世話になるよ。これからよろしく、マリアちゃん。ヨゼくん」
「え。あ…ッ…ょろし、く…」
ヨゼくんは頬を染めて、ヨナさんの後ろに隠れてしまった。
ヨナさんは目を丸くして、豪快に笑った。
「ジーク様、あー、うん、ジークさん。すみませんね。ヨゼはいつもヤンチャなくせに、ジークさんが綺麗だから照れているんですよ」
けらけらと笑うヨナさん。
「ヨナ、あまりヨゼを揶揄うな」
「何言ってるんだい。こんなにかわいい悪ガキヨゼを揶揄わなくてどうするんだい!」
「ジーク様は年はいくつだい?」
「あ、私は十七…今年の誕生日で十八歳です。成人してから儀式を受ける予定でした」
「儀式…祝福の?」
マルスさんが一瞬驚いて、私をまじまじ見つめ、納得したようにうなずいた。
「ジーク様はお美しいですから、伴侶にと望まれたんでしょう」
「あ…いえ、…」
私の容姿を美しいと褒めたが、私としては数ある貴族の一人。美しさは、ラディウス家が保ってくれていたし、ラディウス家が美容面を管理していた。食事もだ。
そして、美しいと言われたこの容姿は、第二王子はお気に召さなかった。

第二王子は、筋肉隆々の逞しい男子を好いていた。

そもそも、なぜ、私が第二王子の婚約者になったかというと、貴族の子息・子女向けに王城で開かれた茶会で胸を張って「ぼくは、たくましい、きしになります」と言ったことか…。英雄譚の騎士に憧れる、そう、私たちは子供だった。

当時私は第二王子より気持ち、背が高かった。きっと第二王子は憧れたのだろう。騎士に。そして、逞しい騎士になる、と言った私を信じた。だか、私は、騎士なるどころか、美姫と歌われる公爵令嬢と並び立つほどの美貌を、手に入れた。

家格や政治的な意味もあったが、一番は第二王子に気に入られたこと。
それが全てだった。

私だって、英雄譚の騎士のように、両手剣を軽々片手で振り回すほどの筋力を手に入れたかった。
ティーカップより重いものなど、国政資料の束くらいしか持ったことがない。

マルスさんの言葉に一気に沈み込んだ私を見て、ヨナさんがマルスさんの背を叩いた。
「ジークさん!ローレンの村はのどかだけど、生きるためにやることがたくさんあるよ。まず、美味しい夕食ごはんを作ろうじゃないか」

ヨナさんが大きく笑って私を家の外に連れ出した。
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