捨てられ令息のスローライフ

千宮寺みるく

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辺境の村、ローレン

人参とじゃがいもと小麦

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ヨナさんに引きずられるように来た場所は広い農地だった。
村人共同の農地で、好きに野菜を取っていいとのこと。
ただし、必ず畑の世話をすること。


「キャベツと人参を収穫するかね」

ヨナさんはどこからともなく出した包丁でスパッとキャベツを収穫した。同じく人参も収穫し、私に持たせた。
私の腕の中は人参とキャベツの山になってしまった。しっかり抱えないと、人参がポロポロ落ちてしまう。

「母ーさーん」
「おかぁちゃーん」

ヨゼくんとマリアちゃんが籠を持ってやってきた。私はヨゼくんが持ってきた籠に野菜を入れた。
「ヨゼ、野菜を家に持って行っておくれ」
「はい。マリア、ほら行くよ」
「はーい」
二人と別れた後、マリアちゃんが持ってきた籠を持って、ヨナさんの後に続く。
畑から少し離れた場所に行くと鼻を刺す臭いに思わず顔を歪めた。
「ん?ああ、臭うかい?あれだよ」
そう言ってヨナさんが指差す方には柵があり、ピンク色の何かが蠢いている。
あれはもしかして…。
「あ、あの。ヨナさん、あれは…」
「あれは豚だよ、豚」
「やっぱり!」
驚く私に、
「?……豚が珍しいのかい?」
「珍しいと…言いますか…。私の知り合いに豚さんをペットにしてる方がいて…」
大きさは大人の拳三つほどの体長で、
「あんなにいっぱい……でも、あれ…?」
大きさが…。



大きさが…?

「都会には豚なんてペットにしてるのかい?あんな大きく育つ家畜(ヤツ)をねぇ」
物珍しいように、不思議がる。
「おおき…?」
首を傾げた私にヨナさんが柵へと案内した。
その豚さんは私が知っている数倍も大きかった。

「お!大きい…」
ポカンと口を開けた私に、だろう?みたいにヨナさんが笑った。



 「ここに小麦が売ってるんだよ」
豚さんたちと別れ、商店だという小屋…もとい建物に案内された。
店内の木箱の上に商品が陳列され、小麦や塩、胡椒などは量り売りのようだ。

「小麦を二キロお願い」
「はいよ。二キロね」
店員の青年にチラチラと視線を向けられる。
「アルベルト。アンタ、ジークさんにへんな視線むけるんじゃないよ!」
「ちょっ!ななな、何言ってるんだい!ヨナさん!そんなつもりは、あ!っあ!
そんなつもり、全然ありませんから!!俺!結婚してますから!!」

なんだろう、これは。
私が色目を使ったというのか…。
王都を追放された出来事を思い出し、一緒怒りが湧いた。
大きく息をつき、

「私にもそんなつもりはありません」
アルベルトと呼ばれた青年に冷ややかに言った。
彼は、さっと青ざめた。


「アイツは自意識過剰……自己中心的なところがあってね。はぁ…」
商店を重い雰囲気のまま出て、ヨナさんの自宅についた。すぐにマリアちゃんがヨナさんに抱きつき、ヨナさんがため息をついた。
アルベルトの奥様はのんびりとした女性らしく、アルベルトの自己中心的な部分を上手く操作しているらしい。
「気をと直して夕食を作ろうじゃないか!」
「つくろうじゃないか~」
おー!とマリアちゃんが笑顔で両手を上げた。


作ろうじゃないか。

そう、ヨナさんは作ろう、と言った。
誰と?
もちろん、私と、だ。



「これが熟成させた塩豚だよ」

ドンっと調理台兼ダイニングテーブルに置かれたお肉の塊に私は慄いた。
調理されたお肉は見たことはあるが、生の、その、お肉は初めてで、

「これが…にく…」

調理前の。
塩漬けなので、調理前のお肉ではない。
テラテラとした、表面と程よい脂身。生肉に嫌悪感は湧かなかった。
畑に行った際に、豚さんを見たけど…。まさか、あの子たち…?
そうだ。
自給自足のこの村では、あの豚さんたちは愛玩動物(ペット)ではなく、家畜ーー食べものなのだ。

……たべもの…いきもの…
………、
もしかして、自分で捌かなければいけない?

ぶるりと震え、私は青ざめた。

「ん?まさか、肉を見たことないとか?」
「調理したものしか…」
「ああ…」
ヨナさんが納得した声色で、

「ここで生きるなら、やることはたくさんあるよ」

村長の家で言われた言葉を、手にした包丁を輝かせて言った。
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