捨てられ令息のスローライフ

千宮寺みるく

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辺境の村、ローレン

塩豚のポトフ

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 貴族の子息、子女は十歳から十八歳の間、王立学園に通うことが義務付けられていた。
私は、あと一年というところで退学した。
今回の騒動の責任を取らされた形だ。

こんな状況になるのなら、国のためと言って神学など取らずに薬草学を専攻すればよかったと後悔していた。

そして憧れの剣術や魔術もだ。
基礎学を学園で、王子妃としての教養を王城で学んだが、野菜の調理前の実物など教本に挿絵すらなかった。小麦が育たない地域ではじゃがいもが主食だというのに、調理前の形がわからないのなら意味がない。

調理前のじゃがいもを、じゃがいもだとわからない貴族なんて、いや人として恥ずかしい。

「まあ、貴族だから」

とヨナさんは乾いた笑みを浮かべてじゃがいもの皮剥きを始めた。呆れている。
私は羞恥心で、穴があったら入りたい。

ヨゼくんが沸騰したお湯に皮のままじゃがいもを入れ、マリアちゃんは乳鉢でスパイスをゴリゴリと潰していた。
私は塩豚肉を1センチ幅の厚さに短冊切りにしていた。手本をもとに、1センチを見極め、包丁の先が震える。

1センチ、1センチ…

「細かいねぇ」
ヨナさんがくすくすと笑う。この女性はよく笑う。けれど、私は一度も気分を害していない。彼女の大らかな笑みを私は好ましく感じている。
貴族たちは、常に広げた扇の後ろで嘲笑を浮かべるというのに。

王子妃となるために感情を表に出さないように教育されたけど、1か月の旅路で王子の婚約者として、貴族としてのプライドは乾いて砕け散ってしまった。

望んだ婚約ではなかったけれど、婚約者の私は準王族として傅かれてきた。
そんな私は、扇の裏で私の機嫌を伺う者たちを、いつしか嘲笑っていたのだ。

何もかも無くなった私に、すり寄るものなどいなかった。そして、友と呼べるものすら…。

私には、なにもない。
生きていく術も、わからないーー

「ジークお兄ちゃん!」
名を呼ばれ、刃先が震えた。
ふと、マリアちゃんに視線を向ける。マリアちゃんは、乳鉢で潰したスパイスを自慢気に私に見せた。
「できたよ!」
「……、はい。よくできました」
包丁を置き、マリアちゃんの頭を撫でようとして食材を触っていたことに気づいて止めた。
「マリアちゃん、そのスパイスは何に使うの?」
誤魔化すようにマリアちゃんに問うと、マリアちゃんは満面の笑みを浮かべて、

「わかんない!」

元気よく私に笑みを向けた。


 
 初めて作った料理は、塩豚のポトフ。
食材を切り、鍋に入れ、煮込むだけ。
スパイスは隠し味。
ヨナさんは、この村で一番簡単な料理を教えてくれた。
素朴な味わいのポトフは、野菜の優しい甘みを感じられ、じわりと涙が浮かぶ。

私はその味に、一瞬で虜になってしまった。








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