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第一幕
汚れた契約
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それは、春の終わりの冷たい雨の日だった。
神殿の奥、祈祷の間から戻ると、侍女が私に耳打ちした。
「……王宮から、聖女様宛てに急報がございます」
侍女の手には、重厚な封蝋のほどこされた文書。
それが、私のすべてを変えてしまうとは、このときまだ思っていなかった。
謁見室。
王家直属の大司祭が文書を読み上げる声が、石壁に響く。
「――ヴァレンタイン公爵子息、レオン殿が、エリナ・エヴァンス嬢と不貞の関係にあったとの報せが……」
心臓が、音を立てて沈んだ。
不貞。
その言葉は、まるで鋭い刃のようだった。
神に仕える身である聖女が、不貞を許した。
いや、見逃した。黙認した。
それが、どう解釈されたか――わかっていた。
「……否定なさいますか、聖女リリエル?」
私は、否定しなかった。
彼が妹と関係を持っていたことを、私はうすうす察していた。
けれど、声をあげなかった。
何も壊さないように、黙っていた。
それは、傍から見れば“見逃した”に過ぎない。
婚約者としての責任を果たさず、穢れた関係を許容した。
その評価が、私の立場を一瞬で崩した。
「神は、穢れを忌み嫌う。
聖女としての責任を果たせぬのであれば、
その座にとどまる資格もない」
大司祭の声は冷たく、まるで私を“人ならざる者”として見下ろしていた。
王家は、私という“政治道具”を失望とともに手放した。
エヴァンス侯爵家も、「これ以上の関与は致しかねる」と、私を見捨てた。
私はその場で、婚約の破棄を申し出た。
レオンは何か言いたげに口を開いたが、私は彼を見なかった。
「神の名のもと、私、リリエル・エヴァンスは、公爵子息との婚約を破棄いたします」
静かに頭を下げると、大司祭は一言だけ返した。
「遅きに失したな」
そして私は、誰からも守られることなく、
神殿の最奥――罪を祓うための隔離室へと送られた。
その夜、私は初めて祈らなかった。
声も出なかった。
ただ、胸の奥が、ひどく冷たかった。
神殿の奥、祈祷の間から戻ると、侍女が私に耳打ちした。
「……王宮から、聖女様宛てに急報がございます」
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それが、私のすべてを変えてしまうとは、このときまだ思っていなかった。
謁見室。
王家直属の大司祭が文書を読み上げる声が、石壁に響く。
「――ヴァレンタイン公爵子息、レオン殿が、エリナ・エヴァンス嬢と不貞の関係にあったとの報せが……」
心臓が、音を立てて沈んだ。
不貞。
その言葉は、まるで鋭い刃のようだった。
神に仕える身である聖女が、不貞を許した。
いや、見逃した。黙認した。
それが、どう解釈されたか――わかっていた。
「……否定なさいますか、聖女リリエル?」
私は、否定しなかった。
彼が妹と関係を持っていたことを、私はうすうす察していた。
けれど、声をあげなかった。
何も壊さないように、黙っていた。
それは、傍から見れば“見逃した”に過ぎない。
婚約者としての責任を果たさず、穢れた関係を許容した。
その評価が、私の立場を一瞬で崩した。
「神は、穢れを忌み嫌う。
聖女としての責任を果たせぬのであれば、
その座にとどまる資格もない」
大司祭の声は冷たく、まるで私を“人ならざる者”として見下ろしていた。
王家は、私という“政治道具”を失望とともに手放した。
エヴァンス侯爵家も、「これ以上の関与は致しかねる」と、私を見捨てた。
私はその場で、婚約の破棄を申し出た。
レオンは何か言いたげに口を開いたが、私は彼を見なかった。
「神の名のもと、私、リリエル・エヴァンスは、公爵子息との婚約を破棄いたします」
静かに頭を下げると、大司祭は一言だけ返した。
「遅きに失したな」
そして私は、誰からも守られることなく、
神殿の最奥――罪を祓うための隔離室へと送られた。
その夜、私は初めて祈らなかった。
声も出なかった。
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