異世界転生したけど、生きるのが無理ゲーなのでフラグ折ります。

千宮寺みるく

文字の大きさ
37 / 42

ミーナ、にやにやする-セルジュ

しおりを挟む
「ミーナさん」
 セルジュは、廊下で腕を組む侍女に真剣な顔を向けた。
「ユース様は……どうやってアディル様を起こしていたんですか?」

 ミーナは、ふっと目を細めた。
 その笑みが――やけに含みのある、いやらしいニヤニヤ顔に見えるのは気のせいか。

「さあ……どうでしょうねぇ」
「どうでしょうねぇじゃ困るんです」
「起きるときは起きるし、起きないときは起きません」
「そんな……」

 セルジュが食い下がると、ミーナは一歩近づき、声をひそめた。
「……ヒントは、“距離感”です」
「距離感?」
「ええ。ベッドと、その隣に腰掛ける人の距離」

 セルジュは一瞬で顔が赤くなる。
「えっ、それって……」
「さあねぇ?」

 ミーナはにっこり笑い、話題を切った。
 しかしセルジュの頭の中には、勝手に映像が浮かび上がってしまう。
 ――ベッドの上、顔のすぐ近くで声をかけるユースと、
 まぶたを半分だけ開けて見上げるアディル。

 慌てて頭を振るセルジュ。
「いやいやいや、そんなわけが……」
「そんなわけが?」
「……っ」

 ミーナはその反応を楽しむように、さらにニヤリと笑った。

「まあ、セルジュ様。三日もすればわかりますよ。
 アディル様は……ああ見えて、とっても“慣れて”らっしゃいますから」

 セルジュはその言葉の意味を、やっぱり理解できなかった――いや、理解したくなかった。


* * *


「アディル様……朝です。お目覚めください」

 控えめなノックと声掛け。
 返事は、ない。

(……やっぱり寝てる)

 セルジュはそっと扉を開け、中へ足を踏み入れた。
 薄いカーテン越しの朝の光が、寝台の上に横たわるアディルをやわらかく照らしている。
 枕に半分顔を埋め、髪は少し乱れていて――呼吸はゆっくり。

(……距離感、って言ってたな、ミーナさん)

 近づき方を考える。
 ベッドの隣に腰掛けて、顔を覗き込み……なんて想像した途端、
 脳裏に浮かんでしまうのは、ミーナが言っていた「慣れてますから」の言葉。

(慣れてるって、どういう意味だよ……)

 頬がほんのり熱くなる。
 いやいや、起こすだけだ、何もやましいことじゃ――と自分に言い聞かせ、
 ベッドの端に腰を下ろそうとしたそのとき。

 アディルが、寝返りを打った。

「……ん……」

 低く、かすれた声。
 そのまま、腕がシーツの外にゆるく伸びる。

(……うわ、近い)

 あと少しで袖が触れそうな距離。
 やけに静かな部屋の空気の中、セルジュの心臓だけがやたらと煩く響く。

「……っ、ア、アディル様!」

 焦って声を張り上げた瞬間、アディルがうっすら目を開けた。
 半分眠ったままの視線が、真っ直ぐセルジュをとらえる。

「……ユース……?」

「ちがいます!セルジュです!!」

「ああ……」
 再び目を閉じ、完全に夢の世界へ戻っていくアディル。

(……無理だ。これ以上は無理だ)

 セルジュはそっと立ち上がり、
「本日は……ご気分がすぐれないようです」とだけ報告することにした。

廊下に出ると、そこには腕を組んで待ち構えるミーナ。
「で、どうでした?」
「……っ、なんでもありません!」

 逃げるように足早に立ち去るセルジュの背中を見送り、
ミーナは「ふふっ」と声を漏らした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

美女のおっさんと護衛騎士

琉斗六
BL
◎あらすじ  佐藤英里緒、37歳。中小企業のIT部門の係長。独身。だが、実は彼には前世の記憶がある。  完容姿端麗、才色兼備。完璧な令嬢と呼ばれたエリザベートだった記憶である。  そしてエリザベートはずっと考えていた「コルセットのない生活がしてみたいですわ」。  現在の英里緒は、休みの日はトレパンでダラダラしながら、昼間からビールを嗜む生活に満足していた。  だが、ある日。  中途採用で部に配属された若い男は、英里緒に言った。  「あの晩、バルコニーで僕に抱かれたあなたの、愛に蕩けた心も体も、全て僕は覚えてます!」  田中玲央、22歳。彼もまた、前世の記憶を持っていた。 ◎その他  この物語は、複数のサイトに投稿されています。

処理中です...