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ミーナ、にやにやする-セルジュ
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「ミーナさん」
セルジュは、廊下で腕を組む侍女に真剣な顔を向けた。
「ユース様は……どうやってアディル様を起こしていたんですか?」
ミーナは、ふっと目を細めた。
その笑みが――やけに含みのある、いやらしいニヤニヤ顔に見えるのは気のせいか。
「さあ……どうでしょうねぇ」
「どうでしょうねぇじゃ困るんです」
「起きるときは起きるし、起きないときは起きません」
「そんな……」
セルジュが食い下がると、ミーナは一歩近づき、声をひそめた。
「……ヒントは、“距離感”です」
「距離感?」
「ええ。ベッドと、その隣に腰掛ける人の距離」
セルジュは一瞬で顔が赤くなる。
「えっ、それって……」
「さあねぇ?」
ミーナはにっこり笑い、話題を切った。
しかしセルジュの頭の中には、勝手に映像が浮かび上がってしまう。
――ベッドの上、顔のすぐ近くで声をかけるユースと、
まぶたを半分だけ開けて見上げるアディル。
慌てて頭を振るセルジュ。
「いやいやいや、そんなわけが……」
「そんなわけが?」
「……っ」
ミーナはその反応を楽しむように、さらにニヤリと笑った。
「まあ、セルジュ様。三日もすればわかりますよ。
アディル様は……ああ見えて、とっても“慣れて”らっしゃいますから」
セルジュはその言葉の意味を、やっぱり理解できなかった――いや、理解したくなかった。
* * *
「アディル様……朝です。お目覚めください」
控えめなノックと声掛け。
返事は、ない。
(……やっぱり寝てる)
セルジュはそっと扉を開け、中へ足を踏み入れた。
薄いカーテン越しの朝の光が、寝台の上に横たわるアディルをやわらかく照らしている。
枕に半分顔を埋め、髪は少し乱れていて――呼吸はゆっくり。
(……距離感、って言ってたな、ミーナさん)
近づき方を考える。
ベッドの隣に腰掛けて、顔を覗き込み……なんて想像した途端、
脳裏に浮かんでしまうのは、ミーナが言っていた「慣れてますから」の言葉。
(慣れてるって、どういう意味だよ……)
頬がほんのり熱くなる。
いやいや、起こすだけだ、何もやましいことじゃ――と自分に言い聞かせ、
ベッドの端に腰を下ろそうとしたそのとき。
アディルが、寝返りを打った。
「……ん……」
低く、かすれた声。
そのまま、腕がシーツの外にゆるく伸びる。
(……うわ、近い)
あと少しで袖が触れそうな距離。
やけに静かな部屋の空気の中、セルジュの心臓だけがやたらと煩く響く。
「……っ、ア、アディル様!」
焦って声を張り上げた瞬間、アディルがうっすら目を開けた。
半分眠ったままの視線が、真っ直ぐセルジュをとらえる。
「……ユース……?」
「ちがいます!セルジュです!!」
「ああ……」
再び目を閉じ、完全に夢の世界へ戻っていくアディル。
(……無理だ。これ以上は無理だ)
セルジュはそっと立ち上がり、
「本日は……ご気分がすぐれないようです」とだけ報告することにした。
廊下に出ると、そこには腕を組んで待ち構えるミーナ。
「で、どうでした?」
「……っ、なんでもありません!」
逃げるように足早に立ち去るセルジュの背中を見送り、
ミーナは「ふふっ」と声を漏らした。
セルジュは、廊下で腕を組む侍女に真剣な顔を向けた。
「ユース様は……どうやってアディル様を起こしていたんですか?」
ミーナは、ふっと目を細めた。
その笑みが――やけに含みのある、いやらしいニヤニヤ顔に見えるのは気のせいか。
「さあ……どうでしょうねぇ」
「どうでしょうねぇじゃ困るんです」
「起きるときは起きるし、起きないときは起きません」
「そんな……」
セルジュが食い下がると、ミーナは一歩近づき、声をひそめた。
「……ヒントは、“距離感”です」
「距離感?」
「ええ。ベッドと、その隣に腰掛ける人の距離」
セルジュは一瞬で顔が赤くなる。
「えっ、それって……」
「さあねぇ?」
ミーナはにっこり笑い、話題を切った。
しかしセルジュの頭の中には、勝手に映像が浮かび上がってしまう。
――ベッドの上、顔のすぐ近くで声をかけるユースと、
まぶたを半分だけ開けて見上げるアディル。
慌てて頭を振るセルジュ。
「いやいやいや、そんなわけが……」
「そんなわけが?」
「……っ」
ミーナはその反応を楽しむように、さらにニヤリと笑った。
「まあ、セルジュ様。三日もすればわかりますよ。
アディル様は……ああ見えて、とっても“慣れて”らっしゃいますから」
セルジュはその言葉の意味を、やっぱり理解できなかった――いや、理解したくなかった。
* * *
「アディル様……朝です。お目覚めください」
控えめなノックと声掛け。
返事は、ない。
(……やっぱり寝てる)
セルジュはそっと扉を開け、中へ足を踏み入れた。
薄いカーテン越しの朝の光が、寝台の上に横たわるアディルをやわらかく照らしている。
枕に半分顔を埋め、髪は少し乱れていて――呼吸はゆっくり。
(……距離感、って言ってたな、ミーナさん)
近づき方を考える。
ベッドの隣に腰掛けて、顔を覗き込み……なんて想像した途端、
脳裏に浮かんでしまうのは、ミーナが言っていた「慣れてますから」の言葉。
(慣れてるって、どういう意味だよ……)
頬がほんのり熱くなる。
いやいや、起こすだけだ、何もやましいことじゃ――と自分に言い聞かせ、
ベッドの端に腰を下ろそうとしたそのとき。
アディルが、寝返りを打った。
「……ん……」
低く、かすれた声。
そのまま、腕がシーツの外にゆるく伸びる。
(……うわ、近い)
あと少しで袖が触れそうな距離。
やけに静かな部屋の空気の中、セルジュの心臓だけがやたらと煩く響く。
「……っ、ア、アディル様!」
焦って声を張り上げた瞬間、アディルがうっすら目を開けた。
半分眠ったままの視線が、真っ直ぐセルジュをとらえる。
「……ユース……?」
「ちがいます!セルジュです!!」
「ああ……」
再び目を閉じ、完全に夢の世界へ戻っていくアディル。
(……無理だ。これ以上は無理だ)
セルジュはそっと立ち上がり、
「本日は……ご気分がすぐれないようです」とだけ報告することにした。
廊下に出ると、そこには腕を組んで待ち構えるミーナ。
「で、どうでした?」
「……っ、なんでもありません!」
逃げるように足早に立ち去るセルジュの背中を見送り、
ミーナは「ふふっ」と声を漏らした。
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