1 / 42
定時に上がれる奇跡
しおりを挟む
その日は奇跡的に定時で上がれた。
……14ヶ月ぶり? いや、もう1年以上ぶりだ。
俺の職場は、ブラック……とまでは言わないが、少なくとも灰色寄りの企業だった。
しがない中間管理職として、上からも下からも圧がかかり、心身ともにすり減る日々を送っていた。
そんな中での定時退社。奇跡としか言いようがなかった。
しかも、今日は俺の誕生日。
「推しVtuber・ヨーカちゃんの配信を見ながらビールでも飲むか」
そう思ってコンビニに立ち寄った。
くたびれた身体にアルコールは危険だと、頭のどこかでブレーキがかかったが――
ホットスナックコーナーの塩焼き鳥を見た瞬間、そんな理性は吹っ飛んだ。
俺、塩焼き鳥、大好物なんだ!!!
カゴには、スナック菓子やつまみになりそうな惣菜を次々と放り込み、
缶ビール6本パックとノンアル酎ハイも追加。
レジで会計を済ませる頃には、袋は2つに膨れ上がっていた。
まるでスキップでもしそうな勢いで帰路をたどる。
軽い足取りのまま、アパートへ続く坂の階段を上がっていた――そのとき。
ドンッ!
誰かとぶつかってバランスを崩した。
そして――
「!?!」
顔に二度、衝撃を受け、そのまま転げ落ちた。
視界の端に、白いビニール袋が舞う。
誰かの叫び声が聞こえる。
ぶつかってきた人間だろうか?
ああ、俺のビール……俺の……
俺の、塩焼き鳥ーーーー!!!
――そして俺は、享年43歳・独身にて、よくある異世界転生を果たした。
***
ドヴィル侯爵家・長男、アディル。
それが今世の俺の名前だ。
現在14歳。貴族だけが通う学園への入学を控え、
王城で開かれた子供たち限定のパーティーに招かれている。
絢爛豪華な大広間には、保護者や護衛に付き添われた子供たちが、
それぞれ談笑したり、牽制しあったり。
ある一角には、まるで猛禽類のような目をした令嬢・令息たちが並んでいる。
どうやら、これはこの国の第一王子の婚約者を選ぶ名目のパーティーらしい。
順番に王子へ挨拶をする流れの中で、俺の番が来た。
そして、目の前に立った王子の顔を見た瞬間――
俺は確信した。
(……どこかで見た顔だ。いや、違う。知ってる。これは……)
推しの、そう、俺の推しVtuber・ヨーカちゃんの配信で見た……
(ああ……まさか……こいつ、エルーク王子!?)
エルーク・オルデス。
オルデス王国の第一王子にして、BL小説『腹黒王子に愛されすぎて困ってます❤︎』のヒーロー。
そして、ヒロインと共に“悪役令息アディル”を断罪する、張本人。
――アディル。
俺の名前じゃんか。
(なんでだよ!なんで俺、よりによって“あの”悪役に転生してんだ!?)
『今日のおすすめはコレ!同じ事務所のVtuberちゃんがモブ役で声優初挑戦したアニメ化したBL小説「腹黒王子に愛されすぎて困ってます❤︎」!これはね~』
ヨーカちゃんが事務所案件で紹介してた、あのBLアニメ化作品……!
その悪役令息アディルに俺、転生してる……!??
王子の視線が俺をじっと射抜く。笑ってはいるが、その目はまったく笑っていない。
(あっ……この目、完全に“あのシーン”のやつだ……)
背筋が凍る。
流れ出す記憶の断片、ヨーカちゃんの配信の断片。
その中に確かにあった、断罪のセリフと、あの冷たい眼差し。
「……だ、大丈夫ですか?」
誰かの声が遠くから聞こえた。
でも、心臓がぎゅっと痛む。リアルな痛み。
(えっ……まじで、痛いんだけど……)
視界がぐらりと揺れ、俺はそのまま意識を手放した。
……14ヶ月ぶり? いや、もう1年以上ぶりだ。
俺の職場は、ブラック……とまでは言わないが、少なくとも灰色寄りの企業だった。
しがない中間管理職として、上からも下からも圧がかかり、心身ともにすり減る日々を送っていた。
そんな中での定時退社。奇跡としか言いようがなかった。
しかも、今日は俺の誕生日。
「推しVtuber・ヨーカちゃんの配信を見ながらビールでも飲むか」
そう思ってコンビニに立ち寄った。
くたびれた身体にアルコールは危険だと、頭のどこかでブレーキがかかったが――
ホットスナックコーナーの塩焼き鳥を見た瞬間、そんな理性は吹っ飛んだ。
俺、塩焼き鳥、大好物なんだ!!!
カゴには、スナック菓子やつまみになりそうな惣菜を次々と放り込み、
缶ビール6本パックとノンアル酎ハイも追加。
レジで会計を済ませる頃には、袋は2つに膨れ上がっていた。
まるでスキップでもしそうな勢いで帰路をたどる。
軽い足取りのまま、アパートへ続く坂の階段を上がっていた――そのとき。
ドンッ!
誰かとぶつかってバランスを崩した。
そして――
「!?!」
顔に二度、衝撃を受け、そのまま転げ落ちた。
視界の端に、白いビニール袋が舞う。
誰かの叫び声が聞こえる。
ぶつかってきた人間だろうか?
ああ、俺のビール……俺の……
俺の、塩焼き鳥ーーーー!!!
――そして俺は、享年43歳・独身にて、よくある異世界転生を果たした。
***
ドヴィル侯爵家・長男、アディル。
それが今世の俺の名前だ。
現在14歳。貴族だけが通う学園への入学を控え、
王城で開かれた子供たち限定のパーティーに招かれている。
絢爛豪華な大広間には、保護者や護衛に付き添われた子供たちが、
それぞれ談笑したり、牽制しあったり。
ある一角には、まるで猛禽類のような目をした令嬢・令息たちが並んでいる。
どうやら、これはこの国の第一王子の婚約者を選ぶ名目のパーティーらしい。
順番に王子へ挨拶をする流れの中で、俺の番が来た。
そして、目の前に立った王子の顔を見た瞬間――
俺は確信した。
(……どこかで見た顔だ。いや、違う。知ってる。これは……)
推しの、そう、俺の推しVtuber・ヨーカちゃんの配信で見た……
(ああ……まさか……こいつ、エルーク王子!?)
エルーク・オルデス。
オルデス王国の第一王子にして、BL小説『腹黒王子に愛されすぎて困ってます❤︎』のヒーロー。
そして、ヒロインと共に“悪役令息アディル”を断罪する、張本人。
――アディル。
俺の名前じゃんか。
(なんでだよ!なんで俺、よりによって“あの”悪役に転生してんだ!?)
『今日のおすすめはコレ!同じ事務所のVtuberちゃんがモブ役で声優初挑戦したアニメ化したBL小説「腹黒王子に愛されすぎて困ってます❤︎」!これはね~』
ヨーカちゃんが事務所案件で紹介してた、あのBLアニメ化作品……!
その悪役令息アディルに俺、転生してる……!??
王子の視線が俺をじっと射抜く。笑ってはいるが、その目はまったく笑っていない。
(あっ……この目、完全に“あのシーン”のやつだ……)
背筋が凍る。
流れ出す記憶の断片、ヨーカちゃんの配信の断片。
その中に確かにあった、断罪のセリフと、あの冷たい眼差し。
「……だ、大丈夫ですか?」
誰かの声が遠くから聞こえた。
でも、心臓がぎゅっと痛む。リアルな痛み。
(えっ……まじで、痛いんだけど……)
視界がぐらりと揺れ、俺はそのまま意識を手放した。
10
あなたにおすすめの小説
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
ひみつのモデルくん
おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。
高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎
主人公総受け、総愛され予定です。
思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。
後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
従者は知らない間に外堀を埋められていた
SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL
転生先は悪役令息の従者でした
でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません
だから知らんけど精神で人生歩みます
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる