6 / 28
離婚記念日 五年目。 「現実」
さすがに離婚して五年を過ぎると気にかける視線もなくなり合コンに誘ったりされることもなくなって職場はある程度平和になった。仕事はそれなりにこなしてるし、独身を謳歌してる。
見せかけだけならね。
言い寄ってくる女性は概ね減ったといっていい。それでも何人かは諦めずに誘ってくる。断らないけど、あくまでもデートまでだ。それ以上になるつもりはない。楽しく食事をして会話をしてアルコールを嗜んで、それでおしまい。
僕がバツイチでも誘ってくる女性から見るとまだ優良物件らしい。
会社ではそれなりのキャリアではある。両親は既に他界してるから同居はなし。祖父がいるけど父の兄の家系と暮らしているらしい。あまり付き合いがないから「らしい」という曖昧なレベルの親族だ。
離婚当初の職場では「だからあんな女よせばいいと思ってた。彼、気の毒だわ......」聞こえるように口々に女性社員が井戸端会議で話してたなぁ。
本当の事なんて、知らないものが語るなよって話だ。
人の事を悪く言わない彼女だから僕は彼女がいいと思った。
そういう中にいても同意することなく、反論することもなく、苦笑いで過ごしていた。
職場だ。反論したら後々いろんな障害になるだろう。それでも同意はしたくない。苦肉の策なのだろうと感心したりもした。
今日は同じ課に所属している五歳年下の部下の女性との食事、所謂デートだ。週に三、四回といえば多いのだろうか、誘われるがまま付き合っている。その後のベッドのお誘いは、すべてお断りしているが。彼女たちと飲んでお話をして彼女たちと楽しそうに過ごす。「結婚」の二文字をちらつかせられると、次のお誘いは断るようにしてる。恋人のように振る舞うことは厭わないが、それ以上先は、望んではない。
「未練があるからシナイのでしょ?」
そう明け透けに聞かれたこともある。
「未練があったらこんな風に付き合わないよ」
抱き寄せ、抱き締め、口付ける。
自分の想いがバレないように、唇だけはくれてやる。
それ以外は、決してどの女にも差し出さない。
甘い言葉なら何度もくれてやる。
嘘ならもう、手慣れてる。
「不能だと、噂してもいいよ。これっきりになってもいいのなら」
「......ばか」
馬鹿はお互い様だ。
部下の女性をタクシーに乗せ、見えなくなるまで手を振る。
そして、周囲を確認する。知っている者がいないことを確認して、歩き出す。そして足早になって、とうとう僕は走り出した。
目的地はいつもの花屋。
この時間なら、ギリギリ間に合うか?
息を切らして到着したら、シャッターを閉めようとしてたところだった。
「今日は来ないかと思ったわ」
シャッターを閉めようとする手を止めて、店主が店の中に手招きをした。
そう言われて苦笑いをする。
毎年、この日にバラを購入してるとさすがに覚えられたのか?
花屋に毎年一度だけ通い続けて今日で五回、五年目だ。
浅い、はずなのだが?
「五本ですよね?」
「......ああ、はい。そうです、赤いバラを五本ください」
「はーい」
客商売とはそういうものなのか、完全に行動が読まれている。
流石に恥ずかしい。
受け取った花束を持って公園へ行く。
バラを置いた最初の年は翌日にはベンチの下に落ちていた。
毎日、バラを見るために通ったが、一週間後にはなくなっていた。ゴミとして処分されたのだろうと思い、それでもいい、僕がそこに置きたくて置いたのだからと、納得して去った。
その一年後の翌日は、バラがなかった。
二年後の翌日も、三年後の翌日も、四年後の翌日も、ベンチに置いたバラは、失くなっていた。
綺麗な真っ赤なバラだ。
きっと誰かが持って帰ったのだろう。
誰かの部屋に飾られているのなら、それはそれで、本望だ。
明日、仕事帰りに寄ったらまた失くなっているだろうか?
僕はベンチにバラを置いて、花言葉を胸の奥で呟いた。
君にはもう、届かない僕の想いを。
あなたに出会えて本当によかったよ。
あなたにおすすめの小説
『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい
歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、
裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会
ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った
全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。
辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
『お前の絵は壁の染みだ』と塗り潰した婚約者が、3年後に国宝を壊した罪で裁かれた件
歩人
ファンタジー
宮廷画師として王城の壁画修復を担ったエレオノーラは、婚約者の公爵子息に「お前の絵は壁の染みだ」と蔑まれ追放された。彼女の去った後、公爵は壁画を白く塗り潰した。辺境に流れたエレオノーラは、崩れかけた教会の壁に聖女の絵を描いた。旅人が涙し、病人が癒され、やがてその絵は「辺境の奇跡」と呼ばれるようになる。3年後、王立美術院が彼女の絵を国宝候補に推薦。同時に、公爵家が塗り潰した壁画の下から、エレオノーラが密かに描いた建国王の肖像が発見される。建国王の唯一の肖像画——それを「壁の染み」と呼んだ男の顔を、社交界は忘れなかった。
「お遊戯で子を育てるな」と追放された宮廷養育係——前世の保育士が作った遊びの教育を、王立学院が丸ごと導入した
歩人
ファンタジー
「子供に歌を教え、絵を描かせ、庭で走り回らせる——それが教育だと? ふざけるな」
侯爵令嬢マリカは婚約者にそう嘲笑され、宮廷養育係の職を解かれた。
前世で保育士だった彼女が行っていたのは、遊びに見せかけた発達支援プログラム。数を数える鬼ごっこ、言葉を覚える歌遊び、協調性を育む共同制作——子供たちは「楽しい」と笑いながら、同年代の二年先を進んでいた。
マリカが去り、旧来の家庭教師が戻った途端、子供たちは勉強を拒否し始めた。
王立学院の入学試験で辺境の子供たちが首席を独占したとき——「お遊戯」の本当の意味が明かされる。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。
ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。
ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。