【完結】想いを忘れたフリを続けて生きると決めた僕の記録

わらいしなみだし

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離婚記念日  五年目。 「現実」


 さすがに離婚して五年を過ぎると気にかける視線もなくなり合コンに誘ったりされることもなくなって職場はある程度平和になった。仕事はそれなりにこなしてるし、独身を謳歌してる。
 見せかけだけならね。
 言い寄ってくる女性は概ね減ったといっていい。それでも何人かは諦めずに誘ってくる。断らないけど、あくまでもデートまでだ。それ以上になるつもりはない。楽しく食事をして会話をしてアルコールを嗜んで、それでおしまい。
 僕がバツイチでも誘ってくる女性から見るとまだ優良物件らしい。
 会社ではそれなりのキャリアではある。両親は既に他界してるから同居はなし。祖父がいるけど父の兄の家系と暮らしているらしい。あまり付き合いがないから「らしい」という曖昧なレベルの親族だ。

 離婚当初の職場では「だからあんな女よせばいいと思ってた。彼、気の毒だわ......」聞こえるように口々に女性社員が井戸端会議で話してたなぁ。
 本当の事なんて、知らないものが語るなよって話だ。
 人の事を悪く言わない彼女だから僕は彼女がいいと思った。
 そういう中にいても同意することなく、反論することもなく、苦笑いで過ごしていた。
 職場だ。反論したら後々いろんな障害になるだろう。それでも同意はしたくない。苦肉の策なのだろうと感心したりもした。

 今日は同じ課に所属している五歳年下の部下の女性との食事、所謂デートだ。週に三、四回といえば多いのだろうか、誘われるがまま付き合っている。その後のベッドのお誘いは、すべてお断りしているが。彼女たちと飲んでお話をして彼女たちと楽しそうに過ごす。「結婚」の二文字をちらつかせられると、次のお誘いは断るようにしてる。恋人のように振る舞うことは厭わないが、それ以上先は、望んではない。

「未練があるからシナイのでしょ?」

 そう明け透けに聞かれたこともある。

「未練があったらこんな風に付き合わないよ」

 抱き寄せ、抱き締め、口付ける。

 自分の想いがバレないように、唇だけはくれてやる。
 それ以外は、決してどの女にも差し出さない。
 甘い言葉なら何度もくれてやる。
 嘘ならもう、手慣れてる。

「不能だと、噂してもいいよ。これっきりになってもいいのなら」
「......ばか」

 馬鹿はお互い様だ。

 部下の女性をタクシーに乗せ、見えなくなるまで手を振る。
 そして、周囲を確認する。知っている者がいないことを確認して、歩き出す。そして足早になって、とうとう僕は走り出した。  
 目的地はいつもの花屋。
 この時間なら、ギリギリ間に合うか?
 息を切らして到着したら、シャッターを閉めようとしてたところだった。
 
「今日は来ないかと思ったわ」

 シャッターを閉めようとする手を止めて、店主が店の中に手招きをした。
 そう言われて苦笑いをする。
 毎年、この日にバラを購入してるとさすがに覚えられたのか?
 花屋に毎年一度だけ通い続けて今日で五回、五年目だ。
 浅い、はずなのだが?

「五本ですよね?」
「......ああ、はい。そうです、赤いバラを五本ください」
「はーい」

 客商売とはそういうものなのか、完全に行動が読まれている。
 流石に恥ずかしい。

 受け取った花束を持って公園へ行く。
 バラを置いた最初の年は翌日にはベンチの下に落ちていた。
 毎日、バラを見るために通ったが、一週間後にはなくなっていた。ゴミとして処分されたのだろうと思い、それでもいい、僕がそこに置きたくて置いたのだからと、納得して去った。

 その一年後の翌日は、バラがなかった。
 二年後の翌日も、三年後の翌日も、四年後の翌日も、ベンチに置いたバラは、失くなっていた。

 綺麗な真っ赤なバラだ。
 きっと誰かが持って帰ったのだろう。

 誰かの部屋に飾られているのなら、それはそれで、本望だ。

 明日、仕事帰りに寄ったらまた失くなっているだろうか?
 僕はベンチにバラを置いて、花言葉を胸の奥で呟いた。
 君にはもう、届かない僕の想いを。

 あなたに出会えて本当によかったよ。
 
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