【完結】想いを忘れたフリを続けて生きると決めた僕の記録

わらいしなみだし

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離婚記念日  八年目。 「現実」 改


「もう離婚して八年じゃないか。そろそろ再婚してみないか」

 離婚してから五年が過ぎた頃からチラホラと上司からそういう話が上がってくる。

「離婚した心の傷が......」

 なんて苦笑いしてお断りしていたが、そういう訳にもいかなくなってきた。
 部長クラスならああいうあやふやな言葉でも「そうか」と一言で笑い飛ばしながら返してくれる。僕の背中ひとつ大きく叩いて。
 だが、重役になるとそうもいかない。言葉を濁しているととうとう社長から鶴の一声が上がった。

「懇意にしている老舗の会社の社長が孫娘に是非君を結婚相手にほしいそうだ。君がバツイチなのは話してある。それでも構わないとの事だ。とりあえず、見合いだけでも行ってくれないだろうか」

 この縁談は断れないやつだろう。
 行ったら最後、どうなるかなんて先が見えてる。
 悩んでも結果は見えてるが、「見合いだけなら」と念を押し、「それでもいい」という言質を取り渋々首を縦に振った。

 一般人が入るような場所ではない、立派な日本庭園がある屋敷での見合い。畏まった服装なんて冠婚葬祭用しか持っていないと言い、社長には遠回りにお断りしたいという合図を送ったが読み取っては貰えなかったが、もしかしたらわかってて素知らぬ顔をしていたのかもしれない。

「いつものスーツ姿で構わないと先方からの話だ。それともいっそラフな格好で行くかい?」

 大胆な笑い声を背にそんなことが許されて破談になったらその高笑いが怒鳴り声に変わるのだろうと想像できて、しなかった。もし、ラフな服装で見合いに行ったら、破談になるだろう。僕的にはもちろんその方がありがたい。でも、会社と会社との付き合いが存在する見合いとなると話が違う。懇意にしてるとはいえ、かなりやり手の会社だという認識がある。僕が把握しているのは片手ほど潰された会社があるということだ。この縁談で懇意から敵になるかもしれない会社。そういうイメージが沸々わいてきて、身動きがとれない、そんな心持ち。

 社長と自分、机の向かい側に見合い相手の社長と孫娘。

 社長はまだ五十代半ばで一代で築いた会社である。少し背が低く小太りではあるが愛嬌がある。
 それとは正反対に相手側の会社は何代も続いた老舗で中堅の会社。大人の孫娘がいるとは思えないほど年齢が若々しく見えるし、背が高くしっかりした体格の割にスラッとして見える。 
 隣にいる孫娘は黒髪ストレートが腰ほどまであり、ぱっつん前髪。
 かなりの美人だ。
 
 僕がまじまじ見ていると、彼女と目が合い、僕を見て微かに笑ってた。

 何を挨拶したか覚えてない。彼女と何処で会ったのだろうかと僕が思考に飛んでいるうちに話はどんどん進んでいったようで。

「そろそろ二人だけにして我々は別行動といたしましょうか」

 相手社長の言葉で僕たちは二人きりになった。

「私、何年も前からあなたの事知っていましたわ。会社の創設記念祝賀パーティに毎年数名の会社の人とお祝いに来てくれてましたよね。私もあの場所にいたんですよ」

 そういえば......社長一人でいいのに、箔をつけたいとか訳のわからない言い訳をして数名引き連れてのパーティに必ず僕も同伴させられていた。顔とスタイルだけがいいという理由のパンダ役としてだが。

「私がはじめてあなたにお会いしたのは未だ学生だったから」

 照れ臭そうにいいながら笑顔を向けた彼女は、あの会社の孫娘だけあってやり手だと感じた。僕の両手首を掴んだと思えば、背伸びして......僕の唇を簡単に奪ってった。

 僕の困惑とはお構いなしに十歳以上年下の孫娘はしてやったり顔をしてその場でくるりを一回りし、僕の顔を覗き込んで言い放った。
 有無を言わせない瞳が僕の目を離してくれなかった。

「お付き合いしましょうね。私、自分の審美眼に自信があるの」
 
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