【完結】想いを忘れたフリを続けて生きると決めた僕の記録

わらいしなみだし

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離婚記念日  十二年目。「現実」後編 改

 互いの利害関係が一致したに過ぎない。

 社長は僕を首にしたかった筈だ。それを敢えてしなかったのは社長の温情だったと思う。会社がどうなるか気が気ではなかったと思うし、一代でここまで築き上げた自負からしても、社員をこよなく大切にしていたし、自ら去っていった社員もいたことはいたが、首にした社員はいなかった。僕の記憶が正しければだが。

「すまない......本当にすまない。君にこんなことをさせることになるだなんて......。君は特に有能な社員だったのでね。本来なら私が君に......」

 言葉を詰まらせる社長。
 それ以上、言わせてはいけない。

「お世話になりました。ご厚意に応えられなくて申し訳ありませんでした」

 縁談を断ったら、会社に居られなくなるのはわかっていた。
 この会社が好きだから、この仕事だ好きだから、伸ばし伸ばしにしてしまった。
 あの娘を好きになれたら、よかったのかもしれない。
 自分の想いを隠しながら過ごせられたら、よかったのかもしれない。
 あの娘が早く諦めてくれるだろうと勝手に決めつけてた浅はかさが僕の間違いだった。
 若い彼女の数年間は、貴重な年月だった。
 それを棒に振るような事をさせてしまったのだから。

「こんなに頑張っても振り向いてもらえないだなんて......」

 上目使いも、慣れた。

「落とす自信、あったのになぁ......」

 僕の首に両腕を回して耳元に囁かれるのも、慣れた。

「こんなに魅力的で若い女性......他にいないと思うよ?もったいなくない?」

 自分で言う、この自信。君らしくて、眩しくて......
 僕にはもったいないから......ね?

「わかってるでしょ?」

 否定も肯定も君を熱くさせると知っている。
 だから敢えて、この言葉。

「ねぇ......最後にするから......シよ?」

 したら、人生終わる。
 君に飼い殺しにされる運命しか、想像できないんだけど?

「もう、終わりにするんだ......」

 キスで誤魔化す。僕の勝手な行為だ。その行為でも彼女は応じてくる。舌との絡み合いに、僕を刺激させて、これ以上なく昂らせる。
 この先へは、絶対に踏み込むことはない。
 身体が反応しても生理現象だ。心が痛く拒絶する。

 これが僕の本能だから......。

「いいわ。今日で終わりにする。お祖父様にはなにもさせないから安心して」

 長いキスが終わって、彼女が僕に言ってくれた。
 会社が潰されない......そう思うと僕は安堵のため息が出た。 

「あーあ、お祖父様、本当にあなたのこと、気に入ってたのよ?「後継者に育てるんだ」って意気込んでたんだもの」

 そんな風に僕を思ってっくれてたとは知らなかった。
 僕自身を評価してくれてたのだろうか?俄に信じがたいんだけど。

「未練、ない?」
「ないよ」
「即答って、ありえなくない?」

 僕を見ながら、後ろにゆっくり歩き始めて、やがて軽く走り出した。
 笑いながら手を振って迎えの車に乗り込む。動き出した車の後方座席の窓を開けて僕に手を振りつつ、笑みが少し歪んだ。泣くのを堪えてるのがわかり、少し心が痛くなった。
 見えなくなる車にお辞儀をして、何事もなかったように僕は踵を返した。

 目的地は......あの公園。
 
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