【完結】想いを忘れたフリを続けて生きると決めた僕の記録

わらいしなみだし

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離婚記念日  十三年目。「回想」

 公園、僕の中ではあの小さな公園しか浮かばない。

 会社帰りにいつもの喫茶店に行き、その後少しだけ近くの公園によって他愛ない話をしたあの公園。

 離婚届を役所に提出後、ふらふらと立ちよった場所だ。
 喫茶店ではなく、小さな公園だった。
 いつものベンチでいつも座っていた反対の場所に座る。
 彼女が座っていた場所......彼女から見た景色を僕は今、見ている。

 いろんな高さのビルがある中で、小さなオアシス的な喫茶店と昔は子供たちが遊んでいたのだろうと思える、ほとんど使われていないような小さな公園。

 喫茶店からは公園の入口付近しか見えないので公園からは一切死角になっている。僕はいつも彼女を見て話していたから気がつかなかったが、彼女から僕を見た視界には小さなお店があった。よく見ると食堂らしい。
 いつからあったのだろう?全然気がつかなかった......ということは、はじめてそんなに経っていないのかもしれない。
 気になったのでお店を見に行った。開店時間は平日の十二時から十四時までの二時間と書かれていた。二時間だけ?食堂なのに?時間的に行ける気がしないな、と思った。駅の方角とは違うとはいえ、会社の人にはこの近辺は知られたくなかったから、用心に用心を重ねてこの地へ足を踏み入れたから。
 此処へ来るときは、仕事終わりがほとんどだ。昼飯時は、ありえない時間なのである。

 バラを一本、二本と、年々一本ずつ増えてく。
 バラの花言葉を検索して、その言葉に僕の想いを添えてベンチに置いて来た。

 会社を辞めたとき、学生時代からの友達から声をかけてもらって仕事にありついた。隣の隣の県だったが、即答した。この際だから、辞めた会社からなるべく離れた場所で仕事がしたかった。仕事ができるのなら、なんでもよかった。
 離婚してからはアパート暮らしをしていた。
 給料的にはローンを支払っても賃貸マンションに住もうと思えば住めたが、ギリギリに近い生活はいろんな意味で病みそうだと思い、お金の余裕は心の余裕に繋がるだろうと決めた暮らしだった。
 独りであっても二人であっても、生活の基盤は大切。
 それを疎かにしたら心も身体もいずれ疲弊する。
 祖父から叩き込まれた生活観だ。
 それがあるから、今も普通に暮らしていける。
 こういうとき、いつも祖父の愛情を身に染みる、今さらだが。

 今日もバラをベンチに置く。
 十二本の赤いバラ。

 僕はもう、此処から遠くに行ってしまうけど、記念日だけはこの日だけは......此処に来るからね。

 夜空を仰いでそっと囁く。
 もう一度、言えたらと君を思い出しながら。
 もう二度と、逢えない君へ。これはいつまでも残る、僕の未練。

「私の妻になってください」

 いつか......また、いえるだろうか?
 
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