【完結】想いを忘れたフリを続けて生きると決めた僕の記録

わらいしなみだし

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離婚記念日  二十年目。「現実」

 今年でローンが完済。
 やっとというかなんというか、感慨深い気持ちになるのかと思えばならなかった。もう住んでいないマンションのローン。彼女が住んでいるのなら、一緒に住んでたら感慨深げに二人でローン完済できたことを笑って喜びあってたに違いない。
 それが、彼女はそのマンションにはいない。何処にいるのかもわからない。興信所を使って探そうかと一時は頭を過ったこともある。それをしなかったのは、彼女から離婚届を渡されたという事実。僕と一緒にいることを拒絶したのだ。離婚届が事実を物語っている。未練がましく興信所を使って彼女を探すのは間違ってる気がして、それでも彼女がしあわせなのか知りたくて使ってもいいのではないかと天使と悪魔が戦ってるような気持ちになったりもした。

 僕の選択は、結局「探さない」ということだ。

 それでも毎年彼女との思い出の場所に来てしまう。
 喫茶店よりもあの小さな公園にまっすぐ来てしまうのは、いつも此処では二人だけで過ごしていたからだろう。
 短い時間だけ。他愛のない話。なにも話さなくても心地いい空間。
 それが彼女と僕だった。

 バラの花束はとうとう二十本になってしまった。
 二十年かぁ......。
 いつものベンチに座って彼女を思う。
 毎年毎年、年々過ぎていくのに思い出す彼女は若いまま。僕はあれから二十年も年を取った。彼女はしあわせに過ごしていてくれているのだろうか?しあわせであることを祈りながら、彼女の両親のことを考えるとあれからずっと苦労しているのかもしれないと結論付いてしまった。考えないようにしていた。
 彼女の表情が曇るのはいつも彼女の母が絡んでいた。あれから二十年。生存してるかどうかわからないが、彼女は両親のことでずっと苦労し続けていたのかもしれないし、もしかしたら......母親のお目にかなう男性と再婚しているかもしれない。
 どっちにしても、僕は彼女にとっては過去の夫であり過去の男なのだろう。
 そんなことを思うと気持ちが沈んでくる。想像を避けていたのに、ローンを完済してしまった緩みなのか、嫌なことばかりぐるぐる頭に過ってく。
 それを遮るように、ふと目線を横にした。
 小さな食堂らしき店が暖簾をだしていた。

 あ、開いてる。

 珍しく、今日という日は昼頃に到着していた。会社が休みというわけではない。休暇を取って此処に来た。「二十年」という節目がそうさせた。僕にとっては二十年はかなりの重みになる。
 十年以上前に見つけてはいたが、開いているのを見るのははじめてだ。それもそのはず。店はお昼の時間帯にしか開いていなかったのだから。二十本になったバラの花束が邪魔にならないか不安になったがお店にはいることにした。ちょうどお腹もすいてきたし。
 
「いらっしゃーい。あ、オジさん?」

 あの時の少女......といってももう少女の面影もなく女性っぽくなってきている。どうして此処に?頭にはてなが広がる中、女性はいつものように話しかけてきた。

「私ね、実は高校の時からココでバイトしてるんだよねー」

 あ、なるほどね。だから店にいるのか。

「オジさんオジさん。ココの料理はどれも美味しいよー。私の太鼓判!」
「しゃべってないで、仕事しろよなー」
「はーい。ゴメンね」

 メニューを女性から受け取り、『本日の定食』の三つのうちのひとつ「アジフライ定食」を注文した。唐揚げ定食もだし巻き玉子定食も捨てがたかったけど。
 定食には小鉢が二つついていて、それはひじきの煮物ときんぴらごぼうだった。
 自炊しても簡単な料理しか作って食べていない。定食でもご飯と味噌汁と一品と漬け物くらいで、煮物なんてほとんど食べていなかったから嬉しさに拍車がかかった。小鉢へ箸を、一口。あ、懐かしい味がする。もう一口。もう一口。
 ゆっくり味を噛み締めながら、食べ進んでいく。
 店は繁盛していて、女性は大忙しで注文を聞き、料理を運んでいる。
 なかなかいいお店だなぁ......。
 食べ終わったのでおあいそする。

「オジさん、先にバラの花1本もらっていい?」
「ああ......構わないよ」
「来年......ヨロシクね!」

 ウインクする女性は、口を『や・く・そ・く』と動かした。
 なるほどね。

「ああ......そうだね」

 来年のプロポーズが成就しますように......。
 女性はバラの花束から一輪、抜き取った。

「仕事中になにをしてるんだ?」
「ごめんなさーい」

 そんな言葉を背に聞こえながら、来年を楽しみに過ごせそうだと、いつものベンチに戻った。
 
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