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運命?

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「葉月先輩。社食行きませんか?」

 その声で壁の方を見て時間を確認する。
 十二時半は過ぎてしまっていた。
 声をかけてくれたのは、二年下の長谷部美樹。総務一のほんわかユルユル可愛い癒し系ナンバーワン。
 私と一緒に並ぶとかなりの身長差になって、萌え度が上昇しちゃうってことを知らない天然さんである。
 全然気にならないのは、可愛い系が大好きだから。
 間近で愛でられるのは役得でしょ?

 あ。その気は全然ないです。
 私は至ってノーマルで、私みたいな大きさでも包み込んでくれるような包容力のあるプラス身長が私より十センチ以上背が高い人が理想の恋人なんだから。

……はっきり言って、私の周辺には何処にもいませんが。

「私、そんなにゆっくり出来ないけど、美樹ちゃんはいいの?」
「全然!ノープロブレムです!ところで葉月先輩……今日、残業になりそうですよね?でもあれって、営業の今川先輩のミスのせいでしょ?珍しいですよね?あんなミス……」

 そう言いながら社食へ向かうためにエレベーターに乗る。

「んーそうかな」

 断定したいところだけど、曖昧にしておく。今川さんは営業課第一のエースだ。
 評判は落としたくない。

「今川先輩って、いつも私に仕事降ってくるのに、時間ギリギリのものは全部葉月先輩に回すんだから!他の営業の人もだけど……」

 ぶつぶつ言いながら社食の階まで来た。相づちは打たないでおく。
 二人してメニューを眺める。

 ランチはA・B・C・D・本日のおすすめと五種類。
 Aは肉メイン。Bは魚メイン。Cは肉と魚。Dは野菜中心……になっている。もちろん日替わり。だからランチはかなりの競争率である。
 他にもいろんなメニューがあって比較的お値段はリーズナブル。
 あまり混まないのは社食は朝九時から定時より遅い七時まで営業していて、どの時間に食事をしてもいいという社風だから。
 このシステムは営業課には非常に重宝されている。

 美樹ちゃんはDランチを、私はCランチを注文した。

「なんか今日、絶対今川先輩変でしたよ……」

 美樹ちゃん、まだ言ってる。

「私の勘です!絶対何かあります!先輩ー!何かわかったら教えてくださいね!」
「わかった、わかったから……さっさと食べよ、ね?」

 曖昧に返事をして私はいつもより急ピッチで食事を済ませた。



 窓の外はもう暗くなってきている。雨の音が社内にいてもわかる程度。
 会社の仕事は九時五時という有り難い職場なのに、今日は残業。

 もう既に六時半を越えている。

 今川さんが私の席までやって来て「今日は本当にすまなかった」と両手を顔の前に合わせて謝罪してくれた。

「すごく助かったよ。お礼に仕事終わりでこれから飲まない?」

 嬉しいお誘いだけど、まだ残っている書類……どう見積もってもあと三十分は軽くかかる。

「今日はまだ仕事があるので、後日お願いしてもいいですか?」
「んー、そうだね!じゃあ、今度誘うから、二人で行こう。じゃあ、お先に失礼するね。お疲れ!」

 んんん?
 二人?
 もしかしてもしかして……?

 顔の頬が緩くなるのを止められないまま仕事をさっさと終わらせるようにスイッチを切り替えた。


 やっと今日の仕事分が終わった。漸く自宅に帰れる。会社を出て折り畳み傘を広げた。
 雨の中、歩くのはちょっと憂鬱。
 折り畳み傘だと、どおしても少し濡れちゃうから。
 雨が降るってわかっていたら、普通の傘を持ってきてたのに……なんて思いつつ。
 公園を通る頃に、朝通勤途中で見つけた子猫を思い出した。

 たぶん……大丈夫。

 勝手な思い込みであの場所を通りすぎようとしたけど……やっぱり気になる!
 踵を返してあの段ボールがあった場所へ向かう。段ボールはもちろん思っていた通りぐちゃぐちゃに濡れて雨水を一杯吸っていた。

 恐る恐る中を覗く……どうか貰われていますように!

 朝、見たより縮こまっているずぶ濡れの子猫が震えるのを堪え忍んで丸まっていた……。

 持っていた傘を放り投げて、弱ってる子猫を掬い上げる。

 泣きそう……!

 自分の浅はかな押し付けの願いをこれほど悔やんだことはない!

 よかった!
 まだ……生きてる!

「ゴメンね!ゴメンね!……うちに来る?」

 私の中ではそれ以外に選択肢はなかった。

 こんな可愛い子猫を忘れていただなんて……。
 雨をあんなにも気にしていた筈なのに……!

 私の言葉がわかったのか、こっちをゆっくり見つめてか細く「ニャー」と泣いてくれた。

 私は濡れるのも汚れるのも構わずブラウスとスーツの間に子猫を温めるかのように抱き込み、傘を拾い上げ鞄を持ち直し自宅へゆっくり歩いていった。

子猫を優しく包みながら……。

 
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