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子猫の雨月と男の子の雨月

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 基本的にひそひそ話が出来ない渡辺さんと美樹ちゃんの話が注文しているカウンターの場所にいる私の耳に駄々漏れで入ってくる。

「ね、ね、渡辺さん。この黒い子猫……名前は『うーちゃん』って言うんですかー?」

 早速美樹ちゃんが『うーちゃん』って呼んでいた渡辺さんに食いつく。
 噂好きの美樹ちゃんらしい。

「そうだよ。直ぐに教えてもらったんだ!」

 今にもケージを開けそうな渡辺さんの手を柴田君が払い除ける。

「渡辺さん……でしたよね?葉月さんと仲良かったんですか?」

 ちょっと拗ね口調で年上の渡辺さんに食って掛かる柴田君。

「よく伝票持って来ている割りに全然気づいてないんだね……。俺、星野の隣の席だけどー」

 おどけ口調で返す余裕の渡辺さん。手を払われたのが気に入らないみたい。

「ええー!な、なんて羨ましいポジション……」

 羨望の眼差し。それ、要らないから!

「そんなこと言うの、絶対お前だけだからな」

 嫌そうに言葉返してるの、聞こえてるんですけど?

「え? 長谷部は思わないの?」

 柴田君と美樹ちゃんは、同期なのです。

「そうですねー。もちろん、全っ然、思わないです」

 ちょっと偉ぶって柴犬に言い渡す。

「えー!」

 信じられないとでもいうような……雄叫び?

「二人してなに私のこと言ってるのかしら?」

 ランチセットは直ぐに出来ちゃうのでさっさと自分の席に戻ってみたら、ちょっとしまったというような顔をしている同僚のお二人さんです。

「は、葉月先輩?」

「いやぁー星野の隣の席はいい席だよーって、柴犬に教えてあげてたんだよ、な?な?」

 渡辺さん、何取り繕ってるんですか。私に通用しないってわかってる筈なのに。

「僕にとっては楽園でしかないんですけどね!」

 好きに言ってたらいいわよ、もう。
 私はこの話には完全に無視しちゃうんだからね。
 失礼にも程があるんだから!

 柴田君は論外だけど。


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