あみdan

わらいしなみだし

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『編み物男子部』?ができるまで。

★鳴海翔琉 2

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 あんなに眩しい笑顔を振り撒いていた翔琉が変わってしまった。
 それに気づいたのはゴールデンウィークの後だった。

 中学時代は同じクラスになることもなく、それどころか隣のクラスにもならなかったので殆ど接点がなかった。

 中学に上がって最初に会った時は、軽く声を掛けてくれて、お互い軽く手をあげた。
 その時は笑っていた。

 小学四年生の時に塾で一緒だった隣の小学校出身の奴が数人同じクラスメイトになった。俺はその時そいつ等と一緒にいた。

 翔琉が側にいなくても、普通にこうしていられることが何よりも俺を安心させた。

 なのにだ。

 次に廊下で会って挨拶した時も、その次の時もどんな時も二度と翔琉の笑顔を見ることはなかった。

 何故?

 俺にはわからなかった。
 気になっていても側に行くことは出来なかった。

 どうも俺に会う時だけでなく、教室でも笑わなくなっていたらしい。
 それどころか、友達さえ作ろうとしなくなっていた。
 ほとんどいつも独りでいたらしい。
 冷たい目。誰も見ない目。
 すべての色を失ったかのような、諦めのいろ。
 両の手をポッケに入れ、俯き加減に歩く。
 そんな姿を見る日が来るとは、俺は思わなかった。
 それでも翔琉は翔琉だった。
 その怠惰な所作でも絵になった。キレイだった。

 噂が出始めたのは、翔琉が笑顔を失っても美しかったからだ。
 知らない間に翔琉は『哀愁の貴公子』と呼ばれるようになっていて一部の女子から絶大な人気を誇っていた。
 腫れ物を触るかのようにただただ見つめるのみ。
 小学時代の翔琉を知ってる者たちでさえ、変わってしまった翔琉に声を掛けられずにいた。
 翔琉の側には、

 誰も来てはならぬ!

 そんな空気の壁が存在していたらしい。

 それでも……陰で翔琉の『親衛隊』まで出来てしまっていた。
 翔琉の人気は、ギャップだった。

 いつもは何に対しても無関心な感じで過ごしているのに、部活では違っていた。
 翔琉はバレー部に所属していた。
 俺は剣道部だったので、週に一度は同じ曜日に剣道部とバレー部が体育館を使用していた。

 俺が見る限り、先輩に一番しごかれていたのは翔琉だった。
 教える先輩に大声で反応し、何度も何度も食らいついていた。

 部活での翔琉は別人だった。
 誰よりも熱かった。
 笑顔はなくても、情熱だけは……そこにあった。
 そこにしかなかった。

 翔琉から飛び散る汗の粒がキレイで、色気を放っていた。

 翔琉の笑顔を見られるのは、試合に勝利した時。
 それしかなかった。

 翔琉の笑顔は、バレー部で活躍してる時だけ。
 試合で汗を流して……。
 それも、『勝利』の時だけ。

 翔琉は変わってしまった。
 誰も、理由は知らない。

 俺を変えてくれた翔琉はもういない。
 みんなを笑顔にした翔琉はもういない。

 翔琉?何があった?

 俺は翔琉に言葉を掛けられない。
 何もしてやれない。

 翔琉は心を失ったかのような中学時代を過ごしてしまっていた。
 バレーだけがすべてかのように……。




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