☆あ・み・だ・ん☆

わらいしなみだし

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『編み物男子部』?ができるまで。

16 とっても久々の編み物

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 自宅に帰って部屋に入ると真っ先に本棚に向かう。自分の目の位置の一番右側にあるそれに手を伸ばした。

『基本の編み物』

 かなりボロボロになったそれを大切に取り出した。
 色はまだちゃんとしているけど、何度も見たページは強い折り目があってその場所を何度も見たのがわかる。
 『かぎ針編み』『棒針編み』『アフガン編み』の三種類の編み針の基本の編み方が掲載されているその本は、かぎ針編みの部分だけがボロボロだった。

 編み物を始めたのは五歳だった。
 あの日の公園で遊んでいた時、近所のお兄ちゃんに出会ったあの日……。

 俺は母に「まふらーをつくりたい」と言った。
 母が困った顔をしながら俺に詳細を聞くと、それは『編み物』だということを教えてくれた。

 それをしたい!といった。どうしてもしたかったから。
 滅多に我が儘を言わない俺に、
「私もしたことがないし、でもお教室には通わせてあげられないわ」
 悲しそうに言った母の顔を覚えている。
 その当時俺の弟が二歳だったし、両親は共働きで母はパートで仕事をしていた。
 その頃はまだアパート暮らしでそんなに余裕があったわけではない。

 俺は俯いて諦める努力をしようとしたら、母が助言してくれた。

「編み物の本を買って一緒にする?それなら出来るかも……ね!」

 俺はその案に飛び付いた。母に抱きついた。
「おかあさんありがとう!でも、いいの?おかあさんいそがしいでしょ?おしごとしてるもん。そうただっているし」
 母は俺に目線を合わせて言ってくれた。
「冬の間、三十分だけね!その約束でなら母さん頑張るから。大丈夫大丈夫。心配しないで」

 本とにらめっこしながら不器用な母に俺は編み物を教えてもらった。
 五歳の俺にはその絵図を見てもさっぱりわからなかったから。
 本を買ってきて、毛糸を買って、二人で一緒に作りあいっこをした。
 かぎ針編みしかしなかったのは、棒針は危ないから駄目だと言われたのと、いろんな編み方ねだると母が苦労しそうだったから。
 母と一緒に編み物をするのは最初の五分ぐらいで、残りの時間は一人でしていた。
 時々、弟の颯汰が俺が編んでいる毛糸玉にじゃれついて遊んでいた。
 その光景はまるで猫が毛糸にじゃれて遊んでるようだった。
 作っている最中のものを引っ張って編み目をほどかれたこともあるけど、俺は怒ることもなくそれさえも楽しかった。
 ホントに母は不器用で僕の方がそのうち教える方になっていた。
 僕が出来たのは鎖あみと細あみ長あみ、最後のとじ方だけだった。
 毎年毎年、楽しい三ヶ月だった。
 小学生になった時、毎年十二月の初日にマフラーをプレゼント交換することにした。
 かぎ針だけでつくったマフラー。
 俺のクローゼットのネクタイ掛けには不格好なマフラーらしきものが六つ掛けられている。母と作り合いっこして交換した数。
 俺は小学六年生まで編み物をしていた。
 約束通り、三ヶ月三十分だけ。母が俺がしているのを見られる場所でだけ。

 中学に入学してからは一切編み物から遠ざかった。
 理由は……変な話だけど編み物の存在自体忘れていた。
 それほど中学時代はいろんなものに背を向けていたんだと思う。

「懐かしい……」思わず声に出る。

 最初は母にだけ、翌年は父にも、その翌年には颯汰にも、三人分のマフラーを作ってプレゼントした。
 最初に作ったのは不格好だったけど、弟にあげる頃には編み目も揃って見映えはよくなっていった。

 俺は昨日購入した五玉詰めの毛糸の袋を取り出した。
 一番端の赤い毛糸を出した。

「昔のじょうちゃんなら迷わず青い毛糸を取るんだけどな……」

 そう、小学時代のじょうちゃんはきっと青色が似合っていた。真っ青な空の色。
 中学時代、何度も隠れて剣道の試合の観戦に行った。
 そこで観たじょうちゃんは、静寂な中に強さがあった。熱い何かを感じた。

 今のじょうちゃんはわからない。 
 けど、きっと内に秘めてるものは一緒の筈……。

 確信じゃないけど、そう思った。
 だから、赤い毛糸を手にした。

 今のじょうちゃんの色……。

 机の上の小さな引き出し三段の一番下を引っ張り出し、何種類かのかぎ編み針の中から一本を取り出した。

 毛糸の真ん中から毛糸の端っこを引っ張り出す。小さな毛糸玉が出てくる。
 その真ん中からちゃんとした端を手に取り、左指で器用に形を作る。
 右手に持ったかぎ針で左手に掛かっている毛糸を素早く引っ掻け、輪を作って引っこ抜く。引っ掻けて輪を作って引っこ抜くことを繰り返して、鎖あみが何段も出来る。

 ブランクはあるけど、体が覚えている……。
 安堵して、ただただ鎖あみを作っていった。
 そう、編み物は何もかも忘れて無心になれる。
 心地いい時間だった。

 子供の頃も、今も……。

 弟がノックをして夕食の時間を伝えてくれるまで、やめられなかった。




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