☆あ・み・だ・ん☆

わらいしなみだし

文字の大きさ
56 / 342
『編み物男子部』?ができるまで。

36 新しい部員 2

しおりを挟む
 昼休みになった。昼食をとるため、俺は机の上に真ん丸とした大きめのおむすび三個と最近購入した水筒を出した。
 俺の席の前の椅子をぶんどって神崎川が座るのはいつもの光景だ。
 前の席の生徒は別の場所にいるから問題はないのだけれど。
 椅子を俺の方に向きなおしてから座り俺の机の上に大きな二つの弁当箱を広げ始めた。
 ひとつはバランスのとれた色とりどりのおかず。もうひとつは日の丸弁当といわれるご飯の真ん中に大きな梅干しがひとつ。神崎川の定番弁当だ。

「鳴海、今日の具は何?」 俺のおむすびの具を聞いてきた。
「牛肉のしぐれ煮と高菜と梅干し」 梅干し以外は毎日違うローテーションだ。
「じゃあ、牛肉の方半分くれ」 
 牛肉のしぐれ煮は昨晩のおかずの残り。
 相変わらず図々しいけど、こうやって交換するのは結構好きだ。
「いいよ」
 ラップに包まれたおむすびをキレイに外し、不格好なりに両手で半分に割ったおむすびの大きい方を神崎川に渡す。
「サンキュー!」
 そう言って神崎川は受け取ったおむすびを美味しそうにご飯の方から齧りつく。
 齧り残ったおむすびを弁当の蓋に置いて、お箸でほうれん草の入った卵焼きを一つ摘まみ、俺の口許に持ってきて、
「お礼」と言って差し出した。
 俺はそれを半分パクッと食べる。あ、やっぱり美味しい!
「鳴海ぃ……いつもならそうやって食べるの嫌がるのに何かあった?」
 神崎川が不審がって半分残った食べかけの卵焼きをひょいっと取り上げる。
「あ。俺の!ちゃんと返してよね。え?神崎川、知らなかった?新入部員が入ったんだよ」
 嬉しそうに言う俺。
「全然知らねー」 少し不機嫌そうに言う神崎川。
 あ、その場にいなかったんだ……。
 その言葉を聞いて初めてその事実を知ってちょっと戸惑う。
「今日は何処にいたの?」
 気になって聞いてみたら
「……別に」
 教える気がないみたいに素っ気なく言われた。
 気になっても仕方がないので、ちょっと遠くなった卵焼きに向かって体を伸ばし口を開け頬張る。
 んーやっぱり美味しい。
「神崎川のお母さんって、いつも思うけど料理上手だよね!」
「努力って報われるってことを母から学んだ」
「そうなの?」 話が噛み合わない。
「ああ、母の料理は、食べられる代物じゃなかったからな」
 遠くを見るかのように神崎川が呟く。

 ああ、そういうことね。
 神崎川の努力はお母さんの影響なんだ……なんて思いながら中学時代、一位の座に君臨し続けた面影を追いながら神崎川を見つめた。



 放課後、いつものように職員室へ行き、鍵を貰って理科室へ向かう。その途中の渡り廊下で足を止め、サッカー部が練習してる箇所のグランドを見る。
 
 此処で神崎川の姿を探す……。
 これが俺の日課。

 今日はまだ神崎川はグランドにいないようだ。神崎川を見つけるのは得意だ。
 もちろん好きな相手だから当然のことだと思う。

 必ずここで神崎川を見てから気持ちを満たして部活に入るのが好きなのに……。
 心にふと寂しさを覚えながら理科室に足を進めた。

 今日は俺一人の予定だったから、名塚君が来てくれると思うと心が弾んだ。
 理科室の鍵を開け、扉をガラッとスライドさせ、そのままの状態にする。
 最近はそのようにすることが多い。少しでも部の活動が見られるように配慮した結果だ。気になって見に来てくれる生徒がいたらって期待しつつ、そんな思惑はずっと外れていた。

「鳴海くん、入っていいかな?」
 聞き覚えがある、名塚くんの声だ。
「どうぞ!『編み物部』へようこそ!……って、ごめん。まだ部じゃないけど」
 そういいながら名塚君を理科室へ誘い込み、好きな場所に座ってもらった。
 その一つ飛ばしの椅子に俺が座った。

「理科室なのは、部が成立したらここが部活場所になるからなんだ」
「理科室がねー。なんか変な感じするね」 

 慣れたけど実は俺もそう思ってる。

「家庭科室は『家庭科部』が使用するから俺たちは使えないんだ。顧問になる予定が俺の担任で、担任が科学の教師っていうのもあってここになったんだ。二年前までは科学部があったらしいんだけど廃部になったからここは自由に使用してもいいって担任が提案してくれたっていう訳」

「そんな経緯があったんだね。でも何故まだ『編み物部』はないの?」
「実は、俺が作ろうとしたんだ。『編み物部』を。出来れば『男子だけの編み物部』を。まだ部員が揃わなくて……名塚君を入れてやっと五名集まったんだ。でも、部として認可されるのは十名以上で新規認可は四月末までなんだ……だからまだ『編み物部』は存在しない……ごめん」
 
 そうなんだ。謝るしかない。

「もしかしたら……『部』としては成立しないかも……ってことなの?」
「うん、そうなんだ……。期待させてごめん」 
 項垂れてしまう。

 少し間を開けてから、名塚君が彼らしくきっぱりと話し出した。
「提案があるんだけど……部がなくても一緒に編み物してくれる?」
「もちろん!部員の一人もそう言ってくれてるんだ」
「じゃあ、真面目に編み物がしたいって男子が少なくても三人は居るってことですよね?」
 声が嬉しそうで顔も綻んでるのがわかる。

 同志がいるっていうのは心強い。
 俺はそれが欲しくて『編み物部』を作ろうとしたんだから。
 共感してくれることが何よりも嬉しかった。

 俺たちは例え部が成立しなくても一緒に編み物をすることを誓い合った。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

処理中です...