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第二部 建白書

第十九話 2

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 建白書……

 この訴状が京都守護職の会津藩松平容保様に届いたとしても無事に戻れる保証はない。
 だが、これ以上黙認すれば新撰組は遅かれ早かれ内部から崩壊する。

 わしが揺らいでは……な。

 永倉は何度も自分に言い聞かせた言葉をこれで最後にすると誓い、心を入れ換えた。

 場違いな男、呼んでもいない新参者に声を掛ける。
 一から聞いているので此処にいる理由はわかってはいるものの、永倉は彼を胡散臭げに見た。

永倉「葛山殿、山南殿から預かってきた書状をわしに寄越してくれるか?」

葛山「はっ!」 

 恭しく預かってきた書状を差し出されそれを受け取る。

 永倉はそれを一気に広げて黙読し、読み終わると安堵の息を吐いた。

永倉(流石山南殿じゃ。解りやすく皆の思いまで代弁して書きしたためておる)

 満足気に口許を綻ばせる。

 もう一度、ゆっくり皆を見据える。
 真剣な眼。
 まるで今から出陣するかのような、熱い眼差しである。

永倉「わしと共に京都守護職の会津藩の本陣へ赴いてくれるのじゃな?」

皆 「はっ!」

 静寂な空間にピリリと緊張が走る。

永倉(覚悟はしてきた……そういう顔じゃのう……)

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