君に捧げる物語 ......サイカイ篇

＃００７「届けられないラブレター」

　突然。

　深夜に鳴る不気味な電話音。
　それも非通知。切れたとすぐに鳴る。
　こんな時間に、非常識極まりない。
　本当、やめてくれ......。

　流石に我慢の限界......。
　うっとおしいからやめてくれ、と文句を言おうと通話ボタンを押した。

　信じられない声だった。何度も何度も聴いた声。
　嘘だ......そう思った。
　嘘じゃない、嘘じゃない、でも、そんな筈ない。
　でも、この声......忘れる筈がない。

　僕が君の声を忘れる筈がないだろう？
　夢みたいだった。また君の声を聴くことができるだなんて！
　頬をつねる。うん、痛い
　現実のようだ。本当に？
　頬を擦りながら思考が渦のようにこんがらがる。
　実際には有り得ないことだということは、僕がいちばん理解している。
　そう、誰よりもね。

　君はもう「オソラノヒト」
　そう、君はお空になった人だから。
　もう僕の手には届かない、空の人だから。

　切れないで、消えないで、こんなキセキ、失いたくない。
　もうすぐ夜が明ける。声が少しずつ、遠くなる。
　
　嫌だ......。

　君の、幽かに聴こえる声を聴きながら。嗚咽をこらえた。
　言えない言葉を噛み締める。
　涙が溢れて、どうしようもなかった。　
　思い出にならない、思い出にできない君への想い。　


　僕は......ごめん、まだ愛してるんだ......。