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第三章[裏社会の辿る道]
第七十九話、悪女Bを手に入れた
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まだ諸々の状況を整理できていない内から、コールはアグラヴェインを容赦なくバイクに乗せた。
これまでと違い、頼むのではなく強制的に。
「この震える手に、よくもハンドルを任せられますねっ」
「黙れ、貧弱小娘。体質的に前を任せるしかないんだよ。人肌に触れるとまた体調が悪くなる」
帝都キャメロットを背にして、川沿いの舗装された街道を疾走する二人。
抜け出た林道の寒風を切り裂き、速度を上げて直線を突っ切る。
「大体、叔父が何処へ向かっているのか、本当に分かるのですかっ?」
「当たり前じゃ。じゃないと頭おかしい奴だろ」
「……あなたは、そちらの方が素敵ですね」
「え、マジ……? 物好きだと思うけど、ありがとよ」
風に紛れて搔き消え、届くと思っていなかった独り言を聞かれ、ヘルメットの中で密かに赤面しながらアクセルを回す。
喧しい鼓動が胸を締め付け、不思議な一目惚れはアグラヴェインを乙女へ様変わりさせた。
「お前、覚悟しておけよ。またさっきみたいに尋問するんだからな? マフィアなんだったら、裏切り者へ落とし前を付けなきゃな」
「……思っていたより早く、心は決まりそうです」
カルロスに感謝すべき唯一の理由は、彼が実際にこの目の前で本性を表したお陰で、デイビス達に対する迷いが消せた事だろう。
「それで、私達は何処に向かっているんですか?」
「一番近い港、クエール港」
「港……どうしてですか?」
「無線で軍に連絡したから、もう既に奴等は指名手配をかけられてた。外国への検問所は通れない。その程度は奴も計算してるだろうから、国外脱出の選択肢は限られるだろ? じゃ、貨物船だよね」
デイビス出発から二人が帝都を発つまで、時間差は四十五分。
車とバイクでは容易に追い越せるだけ、こちらが有利だろう。貨物船が出発するよりも早く到着できる筈だ。
「あ、そうだ。明日からちゃんと学校に行くんだぞ。他のルーラーより遅れて来てるから、きちんと成果を出さないと」
「……分かりましたよ。元々、サニーの件が落ち着けば戻るつもりでしたから」
「俺はまた病気になるから休んで遊ぶけど、言われたことをやってるかローズ辺りに見張らせるからな」
「あなたの何処が病弱なのですかっ、とんだ詐欺師もいたものですね……!」
「脱走兵に言われたくねぇよ」
この後、「暇だからしりとりしようや」という耳を疑う提案も受け、会話は途絶えることなく矢の如く時は過ぎた。
「……今度、お礼をさせてください。とても大きな恩が出来ましたから」
「俺のデートコースは基本的に悪魔がいるけど大丈夫そう? 確実に二回は血を見ると思うけど」
「デート……。だ、大丈夫です、殺人でも何処でも付き合いますよ」
場違いに浮かれる気分をそのままに、クエール港は目前となる。
海が見えた頃には、弟達の元へ一刻も早くとバイクを加速させ、港まで猛追を披露した。
「あ、いたなぁ」
「……! 何処ですかっ?」
「ほら、右奥の車から出て来てるぞ」
陽光を照り返す大海原を臨む港に着くなり、吹き付ける風から塩の香りを感じるよりも早く、標的を目視にて確認する。
積み上げられたコンテナの列を横目にする道路上で、車体を斜めに半端な駐車をするオールドカー。
下車した一向が一隻だけ停泊する貨物船へ向けて、アタッシュケースを抱えながら走っている。
「このまま突っ込みます!!」
「潰すなら脇役だけにしておけよ」
アグラヴェインは減速するどころかアクセルを全開に回し、粛清の口火とした。
先頭を走るデイビスの妻と次男へ狙いを定め、ハンドルの照準を合わせて――飛び降りた。
「へ――?」
「ギッ――」
車体は横転しながら滑り、二人を撥ね飛ばして宙へ上げた。そのまま海へ落ち、続けて身体中の歪んだ二人が空から着水する。
水飛沫は高々と上がり、残されたデイビスと長女夫婦は唖然とするばかりだ。
「デイビス」
「っ……」
彼女から呼びかけられる声音は、初めて聞く殺意の込められた低音。呼びかけの言葉にも一切の情がなく、屋敷で対話した先程までと一変していた。
いつの間にか、行手の方向。真正面に立っていたアグラヴェインへ視線を向ける。
一族の証である白髪を海風に揺らし、彼女らしい凛々しい様と……暗い瞳でデイビス等を糾弾する。
「……ニコラス、マリン。マイケル達を使え」
「ウン、ワカッタヨ」
「――!?」
声に邪悪さが乗る事があるだろうか。デイビスは自身を弄ぶべく大きな悪意を向けられていると察し、反射的に振り返った。
振り返る過程で、瞬時の間に視界を埋める愛娘の顔面と目を合わす。
「……はあっ、ハァ、ハァっ」
生首のみとなった娘を眼前にして、呼吸が乱れて汗が噴き出る。
刀の刃に乗せられた頭から、一歩、一歩と離れながら、悪夢で終わってくれと神に願う。
だが離れるに連れて、現実がデイビスの視界に入り込んだ。
「……おい、まだか! 姉さんもいるんだろ!? なんで目を閉じないといけないんだよ!」
「もうちょっとだから。今いい所なんだよ……でもお前らは見ちゃダメ。絶叫系のアトラクションしてるから、大人になるまで見たらダメ」
互いの目に手を当てて凄惨な死を隠す子供達と……マリンの頭を刀に乗せるアグラヴェインの上司という男。左手には首から血の滴るニコラスの生首を掴んで持ち、足元にある胴体を今し方に蹴り飛ばして海へ捨てた。
「そんなっ……!? やめてくれ、嘘だ!! そんなわけがない! これからなんだっ、これから始まるんだ! 始まるんだあああああ!!」
「あなたにサニーを出荷したのは誰ですか? 最後くらいはファミリーの役に立ちなさい」
尋問の間に二つの頭部を海へ放り捨てられ、デイビスの悪夢は絶頂に達する。
アタッシュケースには金がある。行く先には夢がある。
だが、たった今……本当の意味で“家族”を失った。家族を捨ててでも手に入れたかった“家族”の栄光は、もはや叶わなくなった。
「……何故、ブルファミリーは父にもドラッグの話を持ち掛けたんですか?」
「アアアアアア!? ああああぁぁ!!」
ふと疑問に思った。
どうしてルカ・ブルはデイビスが仕入れ元であるのに、ビアンコにも話を持ちかけたのか。
正気を失った今のデイビスを見れば、おそらくはビアンコファミリーやグリージョファミリーですら裏で意のままに操れるのだと、全能感と優越感に浸りたかったからだろうと漠然と推察した。
「オマエ等ぁぁ!!」
「……人質を残しておくべきだったのでは?」
錯乱するデイビスを前に、コールへと嘆息混じりに苦言を呈した。
当のコールは依然として飄々としており、楽観的に見ているのか欠伸をしてから退屈そうに返した。
この様が酷くアグラヴェインの琴線に触れる。いちいち仕草や言動が彼女の好感を呼び込む。跳ねる鼓動を思えば、既に手遅れなのは明らかだった。
「いいんだよ、コイツなんか。どうせコイツの証言だけじゃ、罰しようにも罰せないさ。さっさと終わらせて帰ろうぜ」
「っ! 待て、カルロスはどうした!! 捕まったのか!?」
「え? カルロス君も……ちょっと名前が合ってるか分からないけど、侵蝕の芽を持ってた奴なら死んだよ。あいつを逮捕すると生きちゃうでしょ? だから俺が殺したの」
「アアアア!!」
生きる希望を一縷も残すつもりもなく、コールによって最後の望みは打ち砕かれる。
毛の少ない頭を掻きむしり、デイビスは完全に崩れ落ちた。
また喚き散らすのではないかと、進まない尋問を前に拷問へと切り替えようとアグラヴェインが歩み出る。その一歩目だった。
唐突に静かになり、動きをなくしたデイビス。その口元から、予想通りの恨み言が溢れた。
「……てやる」
「言っておきますが、自業自得です。何を言うのかは知りませんが、ファミリーを裏切っておいてタダで済むわけがないでしょう。これは血の掟なのだから」
「ダマレぇぇ!! キサマ等も道連れにして、ラックのクソ野郎にも思い知らせてやるッ!!」
デイビスが懐から取り出したのは、三つ目の侵蝕の芽だ。
発言からも、自らに使用しようとしているのは目に見えていた。
「――このドブネズミがっ」
往生際の悪いデイビスに、溜まりに溜まった憤然な感情が爆発した。こめかみに青筋を浮かべ、銃剣付き対物狙撃銃を“内”から取り出しながら暴力的に振り抜いた。
アグラヴェインの怪力により重量のあるライフルが振られ、風圧を撒き散らしながら――デイビスの右手首を切り飛ばした。
「ああ……あ、アア、ぎゃあああああ!?」
「【加重】」
手の平を失った手首の断面を眺め、直後に訪れた脳を焼く激痛に喚き散らすデイビスを、紫色のオーラが恐ろしい重力魔法により平伏させて制圧した。
やがて到着した軍にデイビスは引き渡され、アグラヴェインは課された任務を無事に達成する。意外にも文句無しという結果に、ペンドラゴンは思わず舌を巻いたという。
「そういえば、グリージョの逃走者はどうなりましたか?」
帝都キャメロットへ帰投する軍の車内で、コールと遊び疲れた子供達を寝かし付け、頭の片隅に長くあった疑問を投げかけた。
「拘束される間際に侵蝕の芽を使用したらしく、待機していた父の部隊に討伐されました。流石ですね」
「……ちっ、気持ちが悪いっ。もう喋らなくていいので、黙ってもらえます?」
「……」
他にも隊員が同席しており、平時のコールへ戻ってしまう。
アグラヴェインとしては受け入れ難く、素の彼を理想的と思う程、不必要に思えてならなかった。
「モードレンド様に向かって、貴様っ……!」
「構いませんよ。彼女の歯に衣着せぬ物言いにも慣れてしまいましたから。これもまた彼女の長所なんですよ」
「も、モードレンド様がそう仰るなら、良いのですが……」
魔城攻略の英雄と知る隊員もコールの穏やかな笑みを前にしては、怒りの矛先を彼女へ向けるわけにはいかなかった。完全には納得できていないようだが、おずおずと居住まいを正して座席へ戻る。
「最後のお楽しみもある事だしな」
悪魔の笑みへと変えて発した呟きは、誰の耳にも届く事なく車内へ消える。
コールが本当に心待ちにしている人物は、その夜に現れる……筈だった。
これまでと違い、頼むのではなく強制的に。
「この震える手に、よくもハンドルを任せられますねっ」
「黙れ、貧弱小娘。体質的に前を任せるしかないんだよ。人肌に触れるとまた体調が悪くなる」
帝都キャメロットを背にして、川沿いの舗装された街道を疾走する二人。
抜け出た林道の寒風を切り裂き、速度を上げて直線を突っ切る。
「大体、叔父が何処へ向かっているのか、本当に分かるのですかっ?」
「当たり前じゃ。じゃないと頭おかしい奴だろ」
「……あなたは、そちらの方が素敵ですね」
「え、マジ……? 物好きだと思うけど、ありがとよ」
風に紛れて搔き消え、届くと思っていなかった独り言を聞かれ、ヘルメットの中で密かに赤面しながらアクセルを回す。
喧しい鼓動が胸を締め付け、不思議な一目惚れはアグラヴェインを乙女へ様変わりさせた。
「お前、覚悟しておけよ。またさっきみたいに尋問するんだからな? マフィアなんだったら、裏切り者へ落とし前を付けなきゃな」
「……思っていたより早く、心は決まりそうです」
カルロスに感謝すべき唯一の理由は、彼が実際にこの目の前で本性を表したお陰で、デイビス達に対する迷いが消せた事だろう。
「それで、私達は何処に向かっているんですか?」
「一番近い港、クエール港」
「港……どうしてですか?」
「無線で軍に連絡したから、もう既に奴等は指名手配をかけられてた。外国への検問所は通れない。その程度は奴も計算してるだろうから、国外脱出の選択肢は限られるだろ? じゃ、貨物船だよね」
デイビス出発から二人が帝都を発つまで、時間差は四十五分。
車とバイクでは容易に追い越せるだけ、こちらが有利だろう。貨物船が出発するよりも早く到着できる筈だ。
「あ、そうだ。明日からちゃんと学校に行くんだぞ。他のルーラーより遅れて来てるから、きちんと成果を出さないと」
「……分かりましたよ。元々、サニーの件が落ち着けば戻るつもりでしたから」
「俺はまた病気になるから休んで遊ぶけど、言われたことをやってるかローズ辺りに見張らせるからな」
「あなたの何処が病弱なのですかっ、とんだ詐欺師もいたものですね……!」
「脱走兵に言われたくねぇよ」
この後、「暇だからしりとりしようや」という耳を疑う提案も受け、会話は途絶えることなく矢の如く時は過ぎた。
「……今度、お礼をさせてください。とても大きな恩が出来ましたから」
「俺のデートコースは基本的に悪魔がいるけど大丈夫そう? 確実に二回は血を見ると思うけど」
「デート……。だ、大丈夫です、殺人でも何処でも付き合いますよ」
場違いに浮かれる気分をそのままに、クエール港は目前となる。
海が見えた頃には、弟達の元へ一刻も早くとバイクを加速させ、港まで猛追を披露した。
「あ、いたなぁ」
「……! 何処ですかっ?」
「ほら、右奥の車から出て来てるぞ」
陽光を照り返す大海原を臨む港に着くなり、吹き付ける風から塩の香りを感じるよりも早く、標的を目視にて確認する。
積み上げられたコンテナの列を横目にする道路上で、車体を斜めに半端な駐車をするオールドカー。
下車した一向が一隻だけ停泊する貨物船へ向けて、アタッシュケースを抱えながら走っている。
「このまま突っ込みます!!」
「潰すなら脇役だけにしておけよ」
アグラヴェインは減速するどころかアクセルを全開に回し、粛清の口火とした。
先頭を走るデイビスの妻と次男へ狙いを定め、ハンドルの照準を合わせて――飛び降りた。
「へ――?」
「ギッ――」
車体は横転しながら滑り、二人を撥ね飛ばして宙へ上げた。そのまま海へ落ち、続けて身体中の歪んだ二人が空から着水する。
水飛沫は高々と上がり、残されたデイビスと長女夫婦は唖然とするばかりだ。
「デイビス」
「っ……」
彼女から呼びかけられる声音は、初めて聞く殺意の込められた低音。呼びかけの言葉にも一切の情がなく、屋敷で対話した先程までと一変していた。
いつの間にか、行手の方向。真正面に立っていたアグラヴェインへ視線を向ける。
一族の証である白髪を海風に揺らし、彼女らしい凛々しい様と……暗い瞳でデイビス等を糾弾する。
「……ニコラス、マリン。マイケル達を使え」
「ウン、ワカッタヨ」
「――!?」
声に邪悪さが乗る事があるだろうか。デイビスは自身を弄ぶべく大きな悪意を向けられていると察し、反射的に振り返った。
振り返る過程で、瞬時の間に視界を埋める愛娘の顔面と目を合わす。
「……はあっ、ハァ、ハァっ」
生首のみとなった娘を眼前にして、呼吸が乱れて汗が噴き出る。
刀の刃に乗せられた頭から、一歩、一歩と離れながら、悪夢で終わってくれと神に願う。
だが離れるに連れて、現実がデイビスの視界に入り込んだ。
「……おい、まだか! 姉さんもいるんだろ!? なんで目を閉じないといけないんだよ!」
「もうちょっとだから。今いい所なんだよ……でもお前らは見ちゃダメ。絶叫系のアトラクションしてるから、大人になるまで見たらダメ」
互いの目に手を当てて凄惨な死を隠す子供達と……マリンの頭を刀に乗せるアグラヴェインの上司という男。左手には首から血の滴るニコラスの生首を掴んで持ち、足元にある胴体を今し方に蹴り飛ばして海へ捨てた。
「そんなっ……!? やめてくれ、嘘だ!! そんなわけがない! これからなんだっ、これから始まるんだ! 始まるんだあああああ!!」
「あなたにサニーを出荷したのは誰ですか? 最後くらいはファミリーの役に立ちなさい」
尋問の間に二つの頭部を海へ放り捨てられ、デイビスの悪夢は絶頂に達する。
アタッシュケースには金がある。行く先には夢がある。
だが、たった今……本当の意味で“家族”を失った。家族を捨ててでも手に入れたかった“家族”の栄光は、もはや叶わなくなった。
「……何故、ブルファミリーは父にもドラッグの話を持ち掛けたんですか?」
「アアアアアア!? ああああぁぁ!!」
ふと疑問に思った。
どうしてルカ・ブルはデイビスが仕入れ元であるのに、ビアンコにも話を持ちかけたのか。
正気を失った今のデイビスを見れば、おそらくはビアンコファミリーやグリージョファミリーですら裏で意のままに操れるのだと、全能感と優越感に浸りたかったからだろうと漠然と推察した。
「オマエ等ぁぁ!!」
「……人質を残しておくべきだったのでは?」
錯乱するデイビスを前に、コールへと嘆息混じりに苦言を呈した。
当のコールは依然として飄々としており、楽観的に見ているのか欠伸をしてから退屈そうに返した。
この様が酷くアグラヴェインの琴線に触れる。いちいち仕草や言動が彼女の好感を呼び込む。跳ねる鼓動を思えば、既に手遅れなのは明らかだった。
「いいんだよ、コイツなんか。どうせコイツの証言だけじゃ、罰しようにも罰せないさ。さっさと終わらせて帰ろうぜ」
「っ! 待て、カルロスはどうした!! 捕まったのか!?」
「え? カルロス君も……ちょっと名前が合ってるか分からないけど、侵蝕の芽を持ってた奴なら死んだよ。あいつを逮捕すると生きちゃうでしょ? だから俺が殺したの」
「アアアア!!」
生きる希望を一縷も残すつもりもなく、コールによって最後の望みは打ち砕かれる。
毛の少ない頭を掻きむしり、デイビスは完全に崩れ落ちた。
また喚き散らすのではないかと、進まない尋問を前に拷問へと切り替えようとアグラヴェインが歩み出る。その一歩目だった。
唐突に静かになり、動きをなくしたデイビス。その口元から、予想通りの恨み言が溢れた。
「……てやる」
「言っておきますが、自業自得です。何を言うのかは知りませんが、ファミリーを裏切っておいてタダで済むわけがないでしょう。これは血の掟なのだから」
「ダマレぇぇ!! キサマ等も道連れにして、ラックのクソ野郎にも思い知らせてやるッ!!」
デイビスが懐から取り出したのは、三つ目の侵蝕の芽だ。
発言からも、自らに使用しようとしているのは目に見えていた。
「――このドブネズミがっ」
往生際の悪いデイビスに、溜まりに溜まった憤然な感情が爆発した。こめかみに青筋を浮かべ、銃剣付き対物狙撃銃を“内”から取り出しながら暴力的に振り抜いた。
アグラヴェインの怪力により重量のあるライフルが振られ、風圧を撒き散らしながら――デイビスの右手首を切り飛ばした。
「ああ……あ、アア、ぎゃあああああ!?」
「【加重】」
手の平を失った手首の断面を眺め、直後に訪れた脳を焼く激痛に喚き散らすデイビスを、紫色のオーラが恐ろしい重力魔法により平伏させて制圧した。
やがて到着した軍にデイビスは引き渡され、アグラヴェインは課された任務を無事に達成する。意外にも文句無しという結果に、ペンドラゴンは思わず舌を巻いたという。
「そういえば、グリージョの逃走者はどうなりましたか?」
帝都キャメロットへ帰投する軍の車内で、コールと遊び疲れた子供達を寝かし付け、頭の片隅に長くあった疑問を投げかけた。
「拘束される間際に侵蝕の芽を使用したらしく、待機していた父の部隊に討伐されました。流石ですね」
「……ちっ、気持ちが悪いっ。もう喋らなくていいので、黙ってもらえます?」
「……」
他にも隊員が同席しており、平時のコールへ戻ってしまう。
アグラヴェインとしては受け入れ難く、素の彼を理想的と思う程、不必要に思えてならなかった。
「モードレンド様に向かって、貴様っ……!」
「構いませんよ。彼女の歯に衣着せぬ物言いにも慣れてしまいましたから。これもまた彼女の長所なんですよ」
「も、モードレンド様がそう仰るなら、良いのですが……」
魔城攻略の英雄と知る隊員もコールの穏やかな笑みを前にしては、怒りの矛先を彼女へ向けるわけにはいかなかった。完全には納得できていないようだが、おずおずと居住まいを正して座席へ戻る。
「最後のお楽しみもある事だしな」
悪魔の笑みへと変えて発した呟きは、誰の耳にも届く事なく車内へ消える。
コールが本当に心待ちにしている人物は、その夜に現れる……筈だった。
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