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第一章[超天才の生き様]
第十八話、家族とお誕生日会
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その日、モードレンド家の屋敷には親族等が集まっていた。親族と言ってもモードレンドの名を持つ者と、コールの母方の祖父母等のみ。
病弱とされているコールの誕生日を祝う為に、伯爵家の屋敷へと招かれていた。
「……コールは大丈夫なのでしょうか」
デュエルとバトルの対面に座るドリンド夫妻は、いつまでも戻らないコールを案じてならない。
「アンドレさん、あいつだけは何があっても心配いりません」
「デュエル君の言葉は信じたいが、まだ十三歳だ。十歳から魔城攻略と聞いた時は気を失ったくらいだよ」
「でしたらご存知の筈です。あいつは未だ失敗はおろか、目立った負傷すらしていません」
頃合いを見て知らされていた。屋敷の者は別として祖父母にはデュエル自ら、コールが特別任務を受けていることを伝えてあった。
「それはそうだが……」
「がっはっはっは! たった一人の孫を心配になる気持ちは、痛いほど分かりますぞ!」
既に時刻は夜八時を過ぎている。デュエルの話では都市外にある魔城攻略へ遠征しているコールは、正午には帰還するであろうとされていた。
「……デュエルさん、コールのお仲間は信頼できる方々なの?」
祖母であるメアリー・ドリンドが万が一を考えてか、隊員の経歴を訊ねた。
「……仲間、ですか?」
「えぇ、コールの補佐をしてくださっているお仲間です」
「……」
義理堅くイリーナの親族へも、変わらずの親愛を持つデュエルだが、この度はばつが悪そうに眉間に皺を寄せている。
「……お伝えしていませんでしたが、あいつは単独で任務をこなしています」
「た、単独……? それは、一人で魔城へ挑んでいるという事ではないでしょう……?」
「いえ、単身で駆除して回っています」
それがどれだけ異常かなど、この世界に生きる者ならば常識として理解できる。ドリンド夫妻の顔が青褪めていく様が、それを物語っていた。
「……い、今すぐ代表に除隊を請うべきだっ! なんて事をっ!」
「そうですわっ! あまりに無茶です!」
通常ならば、この反応が適当だろう。無謀極まりなく、奇跡的に一度目が成功しようとも、いつかは死ぬ。
しかしバトルは落ち着き払って、デュエルへ助け舟を出した。
「儂等も優秀な……魔戦士の最高位である“滅士級”の部下を付けるつもりでした。だがコール本人が他人に周りにいられるとイライラすると言って聞かんのです」
「奴は何を考えているのか分かりませんが、私達から言わせるなら魔城で遊ばせているようなものなのです。ご心配は無用、無駄に終わるだけでしょう」
バトルへ追随して告げたデュエルだが、二人は玄関方面からの気配を察して自然と視線を向けた。
「遊ばせるなどとっ、そのような――」
「――ただいま戻りました」
外に控える執事が開けた扉から、年齢に不釣り合いな軍服姿をしたコールが現れる。いつもの眩しく思える神の造形で微笑み、衣服にも傷一つなくマイペースに歩んでいる。
「遅いぞ、何をしていた」
「纏まった休みが欲しかったので、近日中に駆除予定の魔城も終わらせて来ました」
「……予定にない作戦行動を取ったのか?」
「それが許されるのが、僕です」
軍務規則違反を公然と犯すコールに表情を険しくするも、本人は何食わぬ顔をして上座へ歩む。
「お祖父様お祖母様、お待たせして申し訳ありません」
「こんな時間まで働くなど、お前にはまだ早すぎる……」
安堵の溜め息混じりに苦言を呈するも、コールの姿からは疲労感を感じられない。
「僕にとっては娯楽のようなものです。それに悪質なものは担当していないので、危険もありません」
「せめてお仲間を連れて行ったらどう……?」
「……他の人を連れて行くくらいなら、任務はお断りします」
おろおろと狼狽える祖母にも、頑なに魔戦士の同行を拒絶していた。
「頑固な事だ……さっ、夕食としよう。コールの好物ばかりだ。戦った後は腹を満たさねばな」
手を叩いて発したバトルの合図を皮切りに、テーブルへ料理が運ばれる。
コールはある時を境に、肉だけでなく新鮮な魚や野菜も好んで食べるようになっていた。味付けも塩焼きや刺身などのシンプルなもので、米と共に食べることを好む。
「コール、今年の誕生日プレゼントだ」
「何でしょう……」
アンドレから贈られた小包を開けると、中には指輪があった。それは見覚えのあるもので、コールが購入しようとするも市場に出回った瞬間から先々と買い漁られる代物だ。
「“ダルタニアンの指輪”っ!」
「任務中、姿を偽りたい時もあるだろう。逃走にも使えるだろうし、これにしたらどうかと思ってな」
非常に高価で、要人や富豪が身分を偽る際に使用される事が殆どの指輪である。
「ありがとうございます! 欲しかったやつです!」
「そうかそうか、それは良かったっ」
夫婦揃って頬を緩め、無邪気に喜び指輪を翳す孫を眺める。
「これで入っちゃダメなところに入れるぅ!」
「は、入っちゃ駄目な所に入れる……?」
不穏な物言いをするコールを目にして、頭に疑問符を浮かべる。
「ほぉ……また大盤振る舞いですな」
「武人のあなた方と違い、このくらいしかしてやれませんからな」
「このくらい……人間の皮を被れる悪魔よりも高性能なダルタニアンの指輪は、このくらいと言っていいものではないですがな、はっはっは!」
既に一人前となり、ドリンド家から余りある贈り物がされる事もあって、デュエルやバトルからは何もない。
むしろ野放しの現状こそが最大の褒美であり、最も大きな危惧であった。
「……纏まった休暇と言っていたが、何をするつもりだ?」
「例の如く言いません。急に追ってきて任務を押し付けられても困りますから」
病弱とされているコールの誕生日を祝う為に、伯爵家の屋敷へと招かれていた。
「……コールは大丈夫なのでしょうか」
デュエルとバトルの対面に座るドリンド夫妻は、いつまでも戻らないコールを案じてならない。
「アンドレさん、あいつだけは何があっても心配いりません」
「デュエル君の言葉は信じたいが、まだ十三歳だ。十歳から魔城攻略と聞いた時は気を失ったくらいだよ」
「でしたらご存知の筈です。あいつは未だ失敗はおろか、目立った負傷すらしていません」
頃合いを見て知らされていた。屋敷の者は別として祖父母にはデュエル自ら、コールが特別任務を受けていることを伝えてあった。
「それはそうだが……」
「がっはっはっは! たった一人の孫を心配になる気持ちは、痛いほど分かりますぞ!」
既に時刻は夜八時を過ぎている。デュエルの話では都市外にある魔城攻略へ遠征しているコールは、正午には帰還するであろうとされていた。
「……デュエルさん、コールのお仲間は信頼できる方々なの?」
祖母であるメアリー・ドリンドが万が一を考えてか、隊員の経歴を訊ねた。
「……仲間、ですか?」
「えぇ、コールの補佐をしてくださっているお仲間です」
「……」
義理堅くイリーナの親族へも、変わらずの親愛を持つデュエルだが、この度はばつが悪そうに眉間に皺を寄せている。
「……お伝えしていませんでしたが、あいつは単独で任務をこなしています」
「た、単独……? それは、一人で魔城へ挑んでいるという事ではないでしょう……?」
「いえ、単身で駆除して回っています」
それがどれだけ異常かなど、この世界に生きる者ならば常識として理解できる。ドリンド夫妻の顔が青褪めていく様が、それを物語っていた。
「……い、今すぐ代表に除隊を請うべきだっ! なんて事をっ!」
「そうですわっ! あまりに無茶です!」
通常ならば、この反応が適当だろう。無謀極まりなく、奇跡的に一度目が成功しようとも、いつかは死ぬ。
しかしバトルは落ち着き払って、デュエルへ助け舟を出した。
「儂等も優秀な……魔戦士の最高位である“滅士級”の部下を付けるつもりでした。だがコール本人が他人に周りにいられるとイライラすると言って聞かんのです」
「奴は何を考えているのか分かりませんが、私達から言わせるなら魔城で遊ばせているようなものなのです。ご心配は無用、無駄に終わるだけでしょう」
バトルへ追随して告げたデュエルだが、二人は玄関方面からの気配を察して自然と視線を向けた。
「遊ばせるなどとっ、そのような――」
「――ただいま戻りました」
外に控える執事が開けた扉から、年齢に不釣り合いな軍服姿をしたコールが現れる。いつもの眩しく思える神の造形で微笑み、衣服にも傷一つなくマイペースに歩んでいる。
「遅いぞ、何をしていた」
「纏まった休みが欲しかったので、近日中に駆除予定の魔城も終わらせて来ました」
「……予定にない作戦行動を取ったのか?」
「それが許されるのが、僕です」
軍務規則違反を公然と犯すコールに表情を険しくするも、本人は何食わぬ顔をして上座へ歩む。
「お祖父様お祖母様、お待たせして申し訳ありません」
「こんな時間まで働くなど、お前にはまだ早すぎる……」
安堵の溜め息混じりに苦言を呈するも、コールの姿からは疲労感を感じられない。
「僕にとっては娯楽のようなものです。それに悪質なものは担当していないので、危険もありません」
「せめてお仲間を連れて行ったらどう……?」
「……他の人を連れて行くくらいなら、任務はお断りします」
おろおろと狼狽える祖母にも、頑なに魔戦士の同行を拒絶していた。
「頑固な事だ……さっ、夕食としよう。コールの好物ばかりだ。戦った後は腹を満たさねばな」
手を叩いて発したバトルの合図を皮切りに、テーブルへ料理が運ばれる。
コールはある時を境に、肉だけでなく新鮮な魚や野菜も好んで食べるようになっていた。味付けも塩焼きや刺身などのシンプルなもので、米と共に食べることを好む。
「コール、今年の誕生日プレゼントだ」
「何でしょう……」
アンドレから贈られた小包を開けると、中には指輪があった。それは見覚えのあるもので、コールが購入しようとするも市場に出回った瞬間から先々と買い漁られる代物だ。
「“ダルタニアンの指輪”っ!」
「任務中、姿を偽りたい時もあるだろう。逃走にも使えるだろうし、これにしたらどうかと思ってな」
非常に高価で、要人や富豪が身分を偽る際に使用される事が殆どの指輪である。
「ありがとうございます! 欲しかったやつです!」
「そうかそうか、それは良かったっ」
夫婦揃って頬を緩め、無邪気に喜び指輪を翳す孫を眺める。
「これで入っちゃダメなところに入れるぅ!」
「は、入っちゃ駄目な所に入れる……?」
不穏な物言いをするコールを目にして、頭に疑問符を浮かべる。
「ほぉ……また大盤振る舞いですな」
「武人のあなた方と違い、このくらいしかしてやれませんからな」
「このくらい……人間の皮を被れる悪魔よりも高性能なダルタニアンの指輪は、このくらいと言っていいものではないですがな、はっはっは!」
既に一人前となり、ドリンド家から余りある贈り物がされる事もあって、デュエルやバトルからは何もない。
むしろ野放しの現状こそが最大の褒美であり、最も大きな危惧であった。
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