「そのキャラ設定適当でいいよ」と言われた悪徳領主、デバッグ用の【成長率10倍】で覚醒する~クソ運営ありがとう、おかげで勇者がゴミのようです〜

SAIKAI

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1章【領地編】悪徳領主の爆速レベリング

6. ワイバーン襲来

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 さらに時は流れ、俺が転生してから2年という月日が経過した。

 季節は夏から秋へ。屋敷の庭の木々が赤く色づき始める中、俺は鏡の前で自身の仕上がりを確認していた。

「……よし。準備は整ったな」

 鏡に映るのは、かつてのクリームパンのような肥満児ではない。引き締まった腹筋。鋼のように盛り上がった上腕二頭肌。無駄な贅肉は一切なく、かといってボディビルダーほど鈍重でもない、極限まで研ぎ澄まされた実戦的な細マッチョ。身長もこの二年で急激に伸び、顔つきも精悍になった。もちろん体をただ鍛えていただけではなく、領内に関する内政も着々と行っている。まぁこれが領民に理解されるのはまだ時間がかかるだろうけど。

 これが、今の俺、ヴェルト・フォン・アークライト(12歳)だ。

 ……12歳?嘘だろ。鏡の中の少年は、どう見ても歴戦の傭兵か、10代後半の戦士の体つきだ。本来なら成長期前の子供が到達できる肉体ではない。だが、俺の体にはそれが許される「設定」が残っている。

「あと数ヶ月で13歳……。ゲーム本編の開始、そして俺の処刑イベントまで、もう時間がないな」

 そう、タイムリミットは目前に迫っている。勇者アレクが旅立ち、この領地へやってくる運命の日まで、あとわずか。だが、今の俺に焦りはない。

【名前】ヴェルト・フォン・アークライト
【年齢】12歳
【レベル】28
【HP】8500
【MP】3200
【筋力】980
【防御】750
【敏捷】820
【知力】400
【運】250
【スキル】<忍耐 Lv9><帝王剣術 Lv.5><解体 Lv.9><料理 Lv.5>

 ステータス画面を見て、俺は不敵に笑った。レベル28。一見すると中盤レベルだが、ステータス数値が異常だ。筋力980。これはゲームの幹部クラスを素手で殴り倒せる数値に近い。この2年間、領地周辺の魔物を狩り尽くし、更なる高みを求めて鍛錬を続けた成果だ。スキルはあまり変わり映えはしていないが、剣術が進化して帝王剣術になったくらいか、料理はマリアにせがまれて手料理をごちそうしたときに獲得した。意外に楽しいんだよな。

 開発者がテストプレイ用に設定し、そのまま消し忘れた成長補正。その恩恵を骨の髄までしゃぶり尽くした結果、俺は勇者を迎撃するのに十分すぎる「怪物」へと成長していた。

「ヴェルト様、大変でございます!」

 俺が自身の仕上がりに満足していると、部屋のドアが乱暴に叩かれた。セバスチャンだ。この2年で俺の良き理解者となり、今では絶対の忠誠を誓ってくれている彼が、珍しく声を荒らげている。

「どうした、セバス。肉でも焦がしたか?」

「冗談を言っている場合ではありません!領地の北側、開拓村に『飛竜』が現れました!」

「飛竜……ワイバーンか?」

「左様でございます!しかも目撃情報によると『赤熱(レッド)ワイバーン』……。本来なら騎士団一個小隊で当たるべき相手です。今すぐ領民を避難させ、王都へ救援要請を……!」

 セバスチャンの顔には、隠しきれない焦燥の色が浮かんでいた。『赤熱ワイバーン』は、口から火炎を吐き、鋼鉄すら引き裂く爪を持つ中級上位のモンスター。ゲーム内推奨レベルは25前後。本編開始前のこの時期に出現するというのは記憶に無いが、これも俺が強くなりすぎた影響だろうか?

 だが。俺の口元は、自然と吊り上がっていた。丁度いい。本番(勇者戦)前の調整相手としては十分だ。

「……避難は不要だ。俺が出る」

「なっ!?お戯れを!いくらお強くなられたとはいえ、相手は空の王者ですよ!?」

「だからこそだ。いい経験値になりそうだ」

 俺は壁に掛けてあった剣――特注のミスリル合金製ロングソードを手に取った。父上のコレクションを勝手に拝借したものだ。

「セバス、馬を用意しろ。マリアは救護班の準備だ。……見せてやるよ。アークライト家の『力』ってやつをな」

         ◆  

 開拓村は、地獄絵図の一歩手前だった。上空を旋回する巨大な影。翼長10メートルはあろうかという、赤い鱗に覆われた飛竜が、金切り声を上げて急降下してくる。

 ギャアアアアアッ!!

 ワイバーンが吐き出した火球が、牧草地に着弾し、爆発する。村人たちは鍬(くわ)や鎌を握りしめ、逃げ惑っていた。

「おのれぇぇ……アークライト家めぇぇ!」

 燃え上がる納屋を前に、村長らしき男が血を吐くように叫んだ。

「税を納めるのが遅れたからといって、こんな真似をするなんて!保証金目当てで魔物をけしかけるとは、人の心がないのか!」

「ああ、終わりだ……俺たちは殺されるんだ……」

 村人たちの口から出るのは、恐怖よりも、領主への深い憎悪だった、税を納められないほど困窮している村人を魔物をけしかけて殺し、王都からの保証金をせしめようとしていると思われているのだろう。無理もない。父上の悪評に加え、2年前までの俺(ヴェルト)の素行も最悪だった。この2年、俺は屋敷に籠もって修行していたため、領民たちは俺が改心したことも、別人のように痩せたことも知らないのだ。

 そこへ、一頭の馬が砂塵を巻き上げて戦場に躍り出た。

「そこまでだ、トカゲ野郎ッ!!」

 馬上の俺は大声で叫び、ワイバーンを威嚇した。村人たちが一斉にこちらを見る。

「あ……?誰だ?」「アークライト家の紋章をつけているぞ」「まさか…領主様が救援を送ってくれたのか?」

 彼らは俺を見ても、それが誰なのか気づいていない様子だった。当然だ。彼らの記憶にある「領主の息子」は、丸々と太った、意地汚い肥満児だ。目の前にいる、鍛え上げられた金髪の少年剣士と同一人物だとは夢にも思うまい。

「おい、アンタ!ここは危険だ!相手は飛竜だぞ!」

「若いの、死にたいのか!?早く逃げろ!」

 何人かの村人が叫ぶ。へぇ、案外優しいところあるじゃん。アークライト家の人間だと分かっても、見知らぬ若者(俺)の身を案じてくれるとは。

「心配無用だ。……下がれ!!」

 グオオオオオッ!!

 その時、上空のワイバーンが大きく息を吸い込んだ。喉元が赤熱し、膨れ上がる。狙いは――逃げ遅れた子供たちがいる集会所だ。

「あ、ああ……!」「やめろぉぉぉ!」

 村人たちが絶望の悲鳴を上げる。灼熱のブレスが、全てを焼き尽くすべく吐き出された。

 ――瞬間。

 俺は馬の背を蹴り、爆発的な加速でブレスの射線上に割り込んだ。

「ヴェルト様ッ!お逃げくださいッ!!」

 遅れて到着したセバスチャンの悲鳴が響く。

「……え?」

 その場にいた全員の時間が止まった。今、あの執事はなんて言った?ヴェルト様?あの悪魔のようなドラ息子だって言うのか、この凛々しい少年が?

(【防御750】だぞ。こんなトカゲのゲップで、死んでたまるかよ!)

「ふんぬぁぁぁぁッ!!」

 俺はミスリルの剣を一閃させた。斬ったのは、ワイバーンではない。迫りくる『炎』そのものを、風圧と剣圧で真っ向から切り裂いたのだ。

 ズバァンッ!!

 轟音と共に、ブレスが左右に霧散する。集会所は無傷。焦げたのは、俺の前髪の先っちょだけだ。

「な……!?」

 村人たちが目を剥いて静まり返る。自分たちを殺そうとしていたはずの領主の息子(だと言われた少年)が、身を挺して子供たちを守ったのだ。それに、炎を剣で斬るなんて芸当、人間業じゃない。

「ぼさっとしてるな!まだ終わってないぞ!」

 俺は叫ぶと同時に、地面を蹴った。【敏捷820】。人間離れした脚力が生み出す、音速に近い踏み込み。一瞬で建物の屋根に飛び乗り、瓦を粉砕しながら、さらにそこから空中のワイバーン目掛けて再跳躍する。

 ギャッ!?

 ワイバーンが驚愕に目を見開いた。安全圏である高度にいたはずの獲物が、自分と同じ目線まで飛んできたのだ。

「ここは俺の領地だ。勝手なバーベキューは許可してねぇんだよ!!」

 俺は空中で剣を振りかぶる。渾身の力(筋力980)を込めて。

 ズガァァァァァァンッ!!

 手応えがあった――いや、ありすぎた。俺の斬撃はワイバーンの鋼鉄の鱗を紙のように引き裂き、その巨体を地面へと叩き落とした。隕石が落ちたような衝撃で、村全体が揺れる。

 俺はスタリと着地し、土煙の中へ歩み寄る。

「……ちっ、やっちまったか」

 そこには、首を跳ね飛ばされて絶命したワイバーンと、衝撃に耐え切れず、飴細工のようにグニャリとひん曲がったミスリルの剣があった。

「あーあ……父上のコレクション、高かったのになぁ」

 どうやら俺のステータスに、武器の耐久度が追いつかなかったらしい。これ、弁償とか言われないよな?

 静寂。嵐が過ぎ去ったような静けさの中、村人たちが恐る恐る顔を上げる。彼らが見たのは、黒焦げの死体となった魔物と、子供たちを背に守り立ち、剣を失った少年の姿だった。

「……本当に、ヴェルト様なのか?」「嘘だろ……あんな、豚みたいだったのに……」「それに、あの強さはなんだ?飛竜を一撃だぞ?」

 ざわめきが広がる。誰かがポツリと呟いた。

「助けて、くれたのか?」

 それは波紋のように広がり、やがて確信へと変わる。魔物をけしかけたなら、自ら飛び込んで炎を防ぐはずがない。あの剣を見ろ。ぐにゃぐにゃに曲がるほど、必死に戦ってくれた証拠じゃないか。それに、あの体つき。俺たちが知らない間に、どれほどの血の滲むような鍛錬を積めば、あそこまで変われるんだ?

「領主様が……俺たちを守ってくれたぞぉぉぉ!!」「ヴェルト様!ヴェルト様!」「疑って申し訳ありませんでしたぁぁ!!」

 ワッと歓声が爆発した。村人たちが涙を流しながら駆け寄ってくる。俺に向けられる視線は、恐怖や憎悪から、驚愕と、そして熱狂的な感謝へと変わっていた。

「よせ、俺は領主として当然のことを……って、おい、揉みくちゃにするな!暑苦しい!」

 おっさんたちに胴上げされそうになり、俺は慌てて逃げ出した。まあ、悪くない気分だ。これで死亡フラグもまた一つ、へし折れただろう。

 だが、俺は気づいていなかった。歓喜に湧く群衆の影、熱狂の蚊帳の外で――救急箱を抱えたマリアが、恍惚とした表情で俺だけを見つめていることに。

「……ああ、ヴェルト様。なんて、なんてお強い……」

 マリアは救急箱を胸に押し付け、自分の身体を抱きしめるようにして、熱っぽい吐息を漏らしていた。その頬は紅潮し、潤んだ瞳はとろんと濁っている。この2年で、彼女のヴェルトへの執着は、忠誠心という枠を超え、病的な『信仰』の域に達していた。

「あの愚民ども……。最初はヴェルト様だと気づきもしない節穴のくせに、助けられた途端に掌を返して……滑稽で、反吐が出ます」

 彼女の視線が、群衆に向けられた瞬間だけ氷のように冷え込む。だがすぐに、その視線はヴェルトへと戻り、再び熱を帯びる。

「でも、その醜い憎しみを一瞬で信頼に変えてしまうなんて、まさに王の資質。……ゾクゾクします。ああっ、身体の奥が痺れてしまいそう……♡」

 彼女は震える手で懐を探り、小さな小瓶を取り出した。大切に、まるで聖遺物でも扱うかのように取り出されたその瓶の中には――赤黒く変色した、古びたガーゼが封入されている。2年前、ヴェルトが初めて魔物と戦い、傷ついた時にその血を拭ったものだ。

 マリアは小瓶を愛おしそうに頬ずりし、ガラス越しに口づけを落とす。

「誰にも負けないでくださいね、ヴェルト様。貴方は私の全て、私の世界そのものですから」

 ふと、彼女の愛らしい唇が、三日月のような形に歪んだ。

「もし誰かが貴方を傷つけようとしたら……あるいは、貴方の清らかなお心を煩わせるような『害虫』が現れたら……」

 マリアの瞳の奥に、暗く、底知れない漆黒の炎が灯る。彼女は救急箱の底に隠し持っていた、鋭利なナイフの柄を、服の上からそっと撫でた。

「私が、この手で排除(おそうじ)しますから。……ええ、内臓の一片すら残さずに」

 それは、忠誠心というにはあまりにも重く、愛情というにはあまりにも歪で、狂気じみた感情だった。村人たちの歓声にかき消され、その危険な囁きがヴェルトの耳に届くことはなかった。

         ◆  

 その夜。俺は屋敷で、ワイバーンの肉(意外と美味い)のステーキを食べていた。

「……で、どうしたんだマリア。その肉は」

 俺の皿の横に、黒焦げになった謎の肉片が置かれている。

「はい。先ほどのワイバーンの心臓です。ヴェルト様に近づいた罪深き臓器ですので、私が念入りに叩いて、焼いて、呪って、浄化しておきました♡」

「……あ、そう」

 ニッコリと微笑むマリアの背後に、黒いオーラが見えた気がした。気のせいだと思いたい。うん、きっと彼女なりのジョークだろう。

 俺は黒焦げの心臓を口に運びながら、別の意味で震えた。モンスターより、人間のほうが怖いかもしれない。……あと数ヶ月で、ゲーム本編が始まる。その時、俺の隣にいる彼女がどうなっているのか、考えるだけで恐ろしい。
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