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第十三章
任命の儀
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「では審議に移る」
王宮の北に構える大神殿。半円状に並んだ椅子に侍従達が座り、中心に立つ青年を注視していた。
そのうちのひとり──侍従長であるラティーク・タラン・ウル ヴェジールが前に出て、皆に告げる。
「私はこの者、ハムクール・シアンを王宮警備兵に推薦する。異議のある者は挙手を願います」
「侍従長様は本気なのか……!?」
ザワつく神殿。
不満と動揺を隠しきれない他の貴族達。
そうなるのも当たり前で、タラン侍従長が王宮警備兵にと推薦するこのシアンは、近衛隊のいち下級兵士……。ましてや《クルバン》としてクオーレ地区に連れてこられただけの賤人 だった 男である。
そんな生まれも卑しい者が、王の身辺を守る王宮警備兵の職を与えられるなど認められるわけがない。
だが──いや、さらに、と言うべきか
こいつは近衛隊将官ハムクール・スレマン・バシュに気に入られ、伯爵家に養子として迎えられたばかりであった。
異例どころの騒ぎではない。
「異議のある者は無し……。皆が賛成ということで宜しいか?」
「お、お待ちください侍従長様。その者はっ……ほんの数月前に隊にはいったばかりと聞くではありませんか」
「そうです!陛下のお傍に置くのは危険では……!?」
強引に審議を進めるタランへ、言いにくそうにしつつも声を上げる者がちらほらと現れた。
彼等はみな、シアンを蔑み、恐れている。
大神殿の中心で静かに顔を俯かせていたシアンは、徐々に大きくなる貴族たちの不満の中で、悠然と面をあげて声を発した。
「今は審議の刻です」
「なに…っ」
「静粛になさるべきかと。ただ侍従長様の決定に逆らいたいという御方だけ、どうぞ挙手をお願いします」
「──…っ」
シアンの言葉で、神殿は再び静かになった。
この状況に不満こそあれど、面と向かってタラン侍従長に反対する危険を犯すような貴族はいない。
彼等は悔しげに口をつむぎ、そして最後ののぞみと言いたげにサルジェ公爵に目を向けた。
タランと並ぶ唯一の公爵家──サルジェ家当主であるその侍従は、いつもはタランの意見に反発ばかりしているのに、何故か今日だけは逆らわずに黙っている。
それで結局、挙手をする者は現れなかった。
「全会一致、で間違いありませんかな?」
否応なしにタランが問いかけると、皆は渋々と頷くだけ。
「では──…このまま任命の儀を」
タランが右手をあげ、奥から現れた侍従がシアンの元に歩み寄った。
その場に膝をついた青年の頭に、新しい帽子と、頭巾飾りが付けられる。
「ハムクール・シアンをベイオルク(王宮警備兵)に任ずる!」
侍従へ向けて頭を垂れたまま、シアンは口角を上げふくみ笑った。
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