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第二章
キケンな訪問者
しおりを挟むどうしてこの人が…?
それ以前に、いったいどこから侵入したの…!?
「…っ…部屋のドアには鍵が掛かっていたはずです」
「私は招かれざる者ですので、ドアから入ることはありませんよ」
「……?」
「これからは窓の戸締まりにも気を配るべきですね」
彼がバルコニーに目をやる。
レベッカはまさかと息を呑み──そんな筈はないと声を荒げた。
「でも…っ、ここは2階です」
「──…フ」
そんなこと、どうとでもなる。
そう言いたげに鼻で笑った彼は、マスケラを取りながら彼女に近づき、そっとテーブルに置いた。
レベッカはそれに合わせて数歩後退り、仮面を外した彼の顔を睨み付けた。
その顔はまさしくブルジェ伯爵。
だがその装束は貴族のものではない。
「…泥棒が何の用ですか」
仮面もマントも、あの夜、花壇に身を隠していた怪盗のものだった。
「泥棒に用を尋ねるとは、あなたも変わった御方ですね」
「今度はこの城のものを盗もうというの!?」
「さぁ?それもいいですが……。ただひとつ、問題が」
男の切れ長の目が鋭く細まる。
「困ったことにどうしても、先に済ませておかなければならない仕事があるのですよ……」
「──ッ」
ハッとした彼女が逃げる前に、素早く伸びた伯爵の手に腰を捕らえられ、口をふさぐようにあごを鷲掴みにされた。
抵抗するレベッカだが男の力には敵わず、グッと力を込めて顔を覗きこまれる。
「この城の物に手をつけるには──
その前に……口封じが必要なのです」
艶めく声が、僅かに低くなり、口許から笑みが消える──。
ふさがれた口の奥で、彼女の歯が震えて音を立てた。
「──…」
「……ッ」
「怖いのですか?」
「ん……!」
彼の雰囲気は冷たかった。
これは冗談ではない…。そんな目でレベッカを脅す。
声も出せないレベッカはすっかり縮こまり、ただ怯えるしかなかった。
「私の正体を知った時点で、あなたはそれを公爵に伝えるべきだった」
「─ッ…」
「…何故伝えなかったのですか?」
伯爵は微かに笑ってみせた。
しかしそれは微笑みではない。
もっと、もっと危険な何か──。
“ 殺され る……? ”
怪盗の正体を知ってしまったから、わたしは殺される?
口封じに殺されてしまうの…!?
「あの夜も…衛兵に私の居場所を教えることができただろうに」
痛いところをつかれる。その理由は彼女自身にすらわからないのだから。
あの時の自分を後悔するレベッカが、恐怖のあまり目に涙を浮かべていた。だが──
「──しかしあなたは運がいい」
「……!?」
「私は血が嫌いだ」
その言葉を合図に顎を掴んでいた力が緩み、腰は捕らえられたまま、突然、口だけを解放された。
口を解放されたものの、出す声のないレベッカ。
──クッ
「…なっ」
場を支配していたその鋭い緊張感は、伯爵の噛み殺した笑いによって砕かれた。
「……」
「何が可笑しいの…!?」
彼の態度がレベッカにとっては不気味でしかたがない…。
動けない彼女の頬に伯爵は手を添えて言った。
「いや──ただ、怯えるあなたの姿が意外にも可愛いらしくて」
「…っ…な、んですって」
「強がりはもうやめてはいかがですか。その刺のある口調も…あなたに似つかわしくありません」
「──っ」
“ 何が言いたいの?いったい…… ”
何者だというのだろうか、この男は…。
夜中に勝手に人の寝室に忍びこみ。そして脅しをかけておいて…。まだ会って間もない自分のこの姿を
" 強がり " だと、そう言うのだ──。
朱い光が薄暗く灯る寝室で──。まだ内に残る恐怖と戦いながら、レベッカは懸命に声を絞り出した。
「…ふざけないでください」
惑わされてはいけないわ…!
「どういうつもりか知りませんが…わたしは強がってなどいないし、第一にあなたは…っ」
「──強情ですね。私がお手伝いしましょうか?あなたがこもる何重(イクエ)にも重なった繭(マユ)を、一枚ずつ……剥ぎとるお手伝いを」
「──…伯爵!?」
「クロード」
「……っ」
「──今宵の私は伯爵ではない。
どうぞ、クロードと御呼び下さい公爵夫人」
レベッカの頬に添えられていた指が顎のラインを辿って下降し、顎を支えるようにして、下からクイッと持ち上げた。
上を向かされた彼女の顔に、男の影が近づく。
「──ッ 」
「……私はただの、怪盗ですから」
怪盗の仕事は《 奪うこと 》です
たとえ獲物が抵抗しようともね──。
接近したクロードからふわりと良い香が漂った時には、彼女の唇には男のそれが重ねられていた──。
「──ッ 」
蓋をされた口のせいで彼女の悲鳴が籠ってしまう。
突きはなそうと咄嗟に出した両手は、いとも容易くクロードに絡め捕られた。
「…っ…んん…」
顎も固定されているために顔を背けることすらできない。レベッカはただきつく唇を閉じて抵抗した。
「口を開けてください…」
「……!」
至近距離で甘く囁かれると、ぞくりとした感覚が彼女の心臓を鷲掴む。
胸の前で固定された両手首はどんなに抗っても男の力から逃れられない──。
それどころか、激しい動揺のせいで、上手く鼻で息ができず、彼女の意に反して、その唇から力が抜けていってしまうのは時間の問題だった。
「…んんっ//」
それを待ち構えていたクロードが、緩んだ上下の唇をついばむようにキスをくり返す。
そのキスはレベッカに休息など与えない。
一貫して呼吸のままならない彼女の息が荒くなるにつれ…身体から力が抜ける。立っているのがやっとの状態だ。
「……ハァ‥‥ッ‥ハァ」
....チュッ
「……ンあ‥…ッ‥‥ハァ‥ハァ…!」
頭がクラクラする……
息が上手くできないから?
どうにか…しないと、このまま……!
「…はぁ……ぁっ、ハァ……ぅ……//」
クロードはキスを続けたまま、彼女をじりじりと壁の方へ押しやる。
レベッカの背が壁に付き、彼女は完全に逃げ道を失ってしまった。
「……は ぁ…、ゃ……ぃや!」
追いつめられる焦燥感。
気づいた時には、レベッカは男の足を力いっぱいに踏みつけていた。
ガツッ──!
「…ッッ」
痛みに顔を歪めたクロードは彼女から顔を離した。
「ハァ……ハァ……いい加減に、して」
「……」
「何のつもりですか、こん な…っ」
「──っ、これは面白い…。公爵があなたを遠ざける理由がわかりましたよ」
「……っ」
何故この人が、その事を…!?
「あなたが初夜に、公爵に爪を立てたという噂は本当のようですね?」
「それは…」
「可憐な貴婦人かと思いきや、とんだおてんば娘だったというわけですか」
顎を掴んでいた手が離れる。
小馬鹿にするクロードの目から逃げるように、レベッカは顔を俯かせた。
彼の話は事実だった。あの日……
初めての痛みに堪えられなかったレベッカは、公爵の身体に爪を立てて引っ掻き、傷を負わせてしまった。
公爵に怪我をさせるなど、普通なら簡単に牢獄行き…。
しかし公爵は彼女を咎めず、それどころか、このことが外部に漏れないように気を配った。
しかしいったい何処から嗅ぎ付けるのか。数日後には、城中にこの事実が広まっていたのだ。
『 初夜で夫に傷を負わせるなんて、娼婦にもなれない憐れな女… 』
口の悪い第二夫人のこの言葉は、偶然か必然か、レベッカの耳に入ってしまう。
『 痛いのが嫌だと先に教えてくれれば、俺が手ほどきしてさしあげたのに 』
馬鹿にしてくるエドガーにこんな侮辱を言われたのは、つい昨日のことだった。
「…………いいから早く離して」
「──…」
「お願いします…」
レベッカは俯いたまま、手を離すようクロードに願う。
それきり口を閉ざした彼女の胸には、重苦しい塊(カタマリ)が沈んでいた。
「──…」
クロードはそんな彼女の頬に、そっと指をそえた。
「──…手入れの行き届いた薔薇(バラ)も良いですが、野に咲く花のたくましさもまた…人を惹き付ける」
「……?」
「そうは思いませんか、ヴィオレーヌ」
「…!?…誰ですか、それ」
「あなたのことです。…菫(スミレ)の瞳の乙女よ」
そして唇を再び重ねた。
「む……っ、く…」
そのキスは、彼女を壁に押し付けて強引に始まる。
レベッカの油断の隙をついたまま、試しとばかりに軽く舌が差し込まれた。
くちゅくちゅと音をたてながら舌を弄ばれる。
「…ッ……ハッ…ん…」
ヌル・・・
「……んん…っ…ァ…ん」
「ハッ……あなたに怯んだ……公爵は……、その後……優しくあつかってくださいましたか?」
「……ハァ……ハァ…ァ‥っ‥‥んん…!」
「……です が……私は、違い ます……」
──私はそんな男ではない
抵抗されればされる程に
益々、奪いたくなるだけだ
「…?‥‥ァ…っ」
「……私には……優しさなどありませんよ」
舌を引き抜き唇を離したクロードは、微かに赤らんだ彼女の耳に囁いた。
ぱさりと音を立ててレベッカの肩からガウンが滑り落ちる。
脱がされたガウンの下には、絹製の薄いシュミーズを着ているだけだ。
「舌を噛み切られまいかと心配したが」
その必要はなかったようですね?
クロードはなおも囁きながら、薄い夜着越しに彼女の身体に指を這わせた。
「…っァ……ゃ……ッ!」
「抵抗するならそれで結構。私も、そのつもりでやりますから──」
戸惑うレベッカは、震える声で彼を制し、震える手で彼の腕を掴む。
しかし男の指が布越しに身体を滑る感覚に、彼女の肌はぞくりと栗立ち熱を帯びる。
これは恐怖か嫌悪か……。それすらも分からないけれど、早く逃げないとこのままでは……。
「……ひゃ…ア…っ//」
...チュッ
ぐずぐずしている内にシュミーズの肩紐を外され、露にされた肩の肌に彼の唇が吸い付いた。
「い…や…」
許さない
こんなこと……
「…ハァ…っ……許さない……からぁッ……ん、ん」
レベッカは悔しげに唇を噛む。
しかし乱れた呼吸がその隙間から漏れてしまうのを防ぐことはできなかった。
男の手は躊躇(チュウチョ)なく、彼女の胸にかかり、柔らかな膨らみを包み込みながら優しく揉んだ。
「……ぁぁッ…やめて……、お願、い……!」
悲鳴にも似た声で彼女は懇願する。
「…お願い、です……クロード……!」
“ 嫌なのに、こんなこと許せないのに、わたしの身体──っ ”
身体の奥から沸き上がる得たいの知れぬ感覚に、レベッカは戸惑い…そして怯えた。
「可愛らしいですね、若き公爵夫人。…随分と初々しい反応を見せてくれる」
肩紐をはずされ緩んだ胸元の布をずり下ろし、片方の乳房を露にすると、彼はそこに舌を這わせた。
「──!…アッ…//」
それに合わせて彼女の身体がビクンと跳ねる。
押し返そうとしていた腕が怯えたように引っ込む。
──その反応を男は楽しんでいるようだ。
《 このまま連れ去ってしまおうか… 》
その言葉を最後に、男の囁きは途絶えてしまう。
クチュリクチュリと突起を啄む。彼はその動きに集中した。
それに比例してレベッカの思考は削がれるばかり──。苦しげに眉間に皺(シワ)を寄せて、熱く声を震わせて。
しかし弄ぶ動きは止まらない。
彼の指は彼女の身体を伝い下り……そのまま湿り気を帯びた下半身へとたどった。
「……!?…ぁぁ……//」
溢れてしまった蜜をまとい、浅瀬を泳ぐ。
胸と蜜口……両方をいっぺんに責められたら、もうたまらない。快感がたまらなくて、意にそわず喘いだ。
ぐちゅりと潜り込ませた長い指で、媚肉をなまめかしくかき混ぜられ、小刻みな刺激で追い立てられる。
感じてしまう弱点を的確に責めぬきながら、時おり…ナカの狭さを味わうようにバラバラと動かされる。
「…ぁぁ‥ぁぁ‥ッ‥‥はぁん…!‥ああ‥」
息が止まるほどの強い快感に、身体が勝手に仰け反る。そして淫蕩(イントウ)な快楽の花火に細かく揺さぶられた。
隠れていられなくなった淫芽も絶え間なく嬲(ナブ)られ、大きく跳ねる声は、再び手で蓋をされる。
肌を上気させ、薄桃色に染めながら……レベッカは何度も絶頂に押し上げられた。
……
彼女はこの夜、忍び込んだ怪盗に襲われたのだ。
それは屈辱的な甘い美酒…。
そんな酒、飲みたくなどなかったのに。
嫌がる彼女に微笑みながら、怪盗はゆっくりと飲ませ、酔わせる──。
彼女はこの時、はたして想像できたであろうか。
この男の真の姿を──
自らの運命を大きく変えてしまう、その荒波の正体を。
───
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