略奪貴公子 ~公爵令嬢は 怪盗に身も心も奪われる~ 【R18】

弓月

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第三章

花ヒラク乙女

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 ふわりとした若葉の感触を足に感じる。

 あたり一面の菫(スミレ)の花の上に座らされたレベッカは、クロードを見上げて問いかけた。

「これが…あなたの好きな春の花?」

「……」

 彼はゆっくりと目を瞬かせる。

 そして…その顔に笑みを浮かべた。

「公爵夫人の瞳は、この花と同じ色をしている」

「…え…?」

「綺麗に澄んだ紫色だ」

 クロードの手が彼女の頬に添えられ

「──ッ 」

 突然、互いの鼻が今にも付きそうな近さで、顔を覗きこまれた。

「…え…何、何ですか?? 突然」

「菫の花言葉をご存じですか」

「…花…言葉?」

「ご存じですか?」

「し…知りません…っ」

 近づく顔にたじろぎ身を引いても、彼は構わずせまってくる。

 座ったまま身体を後ろに引きすぎたせいで、彼女はバランスを崩し、コテりと背後に倒れた。

 クロードは彼女の顔の横に片手をつき、上から妖しい瞳で見下ろした。

 頬に添えた指が……愛おしそうに肌を滑る。

「菫の花言葉は……
 ──思慮、奥ゆかしさ、…控えた美しさ」

「──!」

 仰向けのレベッカは眉をひそめる。

「それっ…嫌味のつもりですか?」

「──まさか、まさか」

 しかしクロードは彼女の言葉を否定した。

「女の中の控えた美しさ…隠された魅力に、男は惹き付けられる」

 彼の身体が、被さるかたちで彼女にゆっくりと重なり始める。

「うそ…や、やめてください伯爵…!」

「──フッ、やめてとは今さらな」

「……っ」

 クロードの声色が変わった。

 彼女は直感的にそれを察した。

 おそらく…今の彼は伯爵ではない。

 今の彼は──

「クロード…っ」

 あの夜と同じ、怪盗に違いなかったのだ。



 今日の彼女の服装は正式なドレスじゃない。白地の薄いドレスは、パニエを履いていないストンとした型の質素なスカートだった。

 パニエを履いていないということは…腰の回りを男の手から遠ざけるものが無いということ──。

 もとより朝食をとるために外に出ただけの彼女にとって、こんな状況は予想の中になかったのだ。

「あなたは盗まれたのです公爵夫人」

「……っ」

「こんな悪い男に…」

「…ァ、ゃっ」

「──だから襲われる」

 クロードは彼女の胸元の布を抜き取った。

 抵抗するレベッカを片手間に押さえつけ、腰の両端で結ばれていたドレスの紐をほどいてしまう。

「いやだ!」

 レベッカは今度こそ、この男の顔を叩いてやろうと思った。──否、叩くなどと甘いことを言ってられない。

「こっ…の」

 殴ってやるわ

 レベッカが拳を握りしめた──その瞬間である。

「そうこなくては面白くないですね」

「ああ!」

 クロードは抜き取ったドレスの布で彼女の片腕を絡めとった。

 そして素早く、もう片方にも巻き付けられて、あっという間に両手首を拘束される──。

「これくらい強引な方がお好きですか?」

 巻き付けた布の上から、彼女の手首を優しくさすって彼は言った。


 この強引さ…ッ

 花の趣も奥ゆかしさも、なんの関係があるだろうか。


「──ッ」


 紳士ぶるだけ、ぶっておいて

 結局あなたなんか…!


「欲まみれの、卑怯な男に違いないわ…」

「……」

「結局抱ければ…女なら誰だっていいのでしょう!?」

 両手首を固定されたまま、レベッカは彼を強く睨み付けた。

 一時でもときめいたり、楽しいと感じてしまった自分自身が許せない。 

「早く離しっ…んッ」

 抗議で開きかけた彼女の口に、長い指が挿し込まれた。

「……黙って」

「んん…っ」

 口内の指が、熱くなるレベッカを落ち着かせようとするかのように、ゆっくり中を回る。

 舌を弄びながら…指先を軽く絡める。

「…ん…ふ、……ァッふ‥‥ん」

 苦しい…!

 レベッカの焦点が揺れ始め、口の端から唾液が一筋の線になって溢れた。

「‥‥ン‥んぁ‥っ…」

 レロ..

 息苦しさからか…諦めたように舌の方からクロードの指に絡まりだした。

 不器用なその動きに、クロードの頬が無意識にゆるむ。

「大丈夫…最後まで無理強いはしない」

「…っ…んー」

「──求めるのは貴女だ」

 その言葉と同時に、クロードは彼女の額に不意にキスを落とすと、素早く指を引き抜いた。

「……っぷは…、ァ…」

 クロードの顔がレベッカの視界から消える。

「そ…そっち は…//」

 さらなる危機を感じて、レベッカは自由に動く足を激しく動かして抵抗する。

 そんな彼女の足首をパシリと捕らえたのは、先ほどまで口内を犯していた彼の指だ。

 ドレスの腰ひもはすでに解かれている。

 ゆるんだそこから手を入れられて、中に履いた下着を剥ぎ取られてしまった。

「──//」

 覆うものが無くなってしまい、森の澄んだ空気を恥ずかしい場所に直接感じる。

 そして、男の視線も──

「いやぁ!いやです!クロード……っ」

 レベッカの悲鳴が響いた。

「…見ないで!…お願い…ッ…見ないで」

 布で結ばれた手を精一杯に伸ばして、レベッカはその場所を隠そうとした。

 こんな森のなかで…男の前に自分の秘所をさらけ出すなんて。

 耐えられない。

「見ては駄目です…!」

「何故です?これほど綺麗な色をしていながら」

 クロードは容赦なく彼女の脚を左右に広げた。

 そして、目の前の其処へ優しく舌を這わせる。

「──…っ、ア…ッ 」

 ビクッ

「…ふあ‥っ‥ダメ、‥あ‥…」

 彼女の身体が一瞬にしてこわばった。
  
 挙げた悲鳴を追いかけるように、喉の奥から鼻にかかった声が出てきてしまう。

「‥‥ア……そん、な‥‥‥ぃゃぁ……//」

 自分自身のそんな声に、何よりもレベッカが反応した。

 しかし、そんなことも考えられなくなるほどの感覚が腹底からジンジンと込み上がる。まぎれもなくそれは快感だった。

 レベッカはそれを信じたくない。

 信じたくないけれど…

「…ふ‥ああ‥‥っ…アっ…アっ‥‥!」

 クロードは、まだ濡れていない彼女のワレメに、上下にゆっくり舌を這わせた。

 彼女の脚は押さえつけたまま、何度もワレメを往復する…。

「…やぁッ‥めて‥、やめて‥‥っ」

 彼女の声にクロードはなかなか返事をしてやらない。言い換えれば…舌の動きを休めない。

 クロードはなぞっていた舌を尖らせて、奥の蜜口に浅く挿し込んだ。


 ..ドロッ


「……」

「…ぅ…‥‥!?」

「濡れてきたか」

「…嘘…!……ぅ そ…‥」

「──ならこれは何です?」

 入り口をこじ開けるように、挿し入れた舌で円を描く──。

 グチュリ....

「ア!…ハァ…そん な………//」

 同時に熱いものが溢れてきた。

 それは彼女自身にもわかるくらいに。

 なのに…。クロードはその事実を突きつけるように、えぐる舌でさらに責め立てた。

「わかりませんか…あなたの身体から…溢れて、くるものに」

「…ハァ、ハァ…っ、う、うそ、嘘です…」

「──フっ、…相も変わらず」

 強情だな……

 クロードは舌をゆっくり抜き取ると、代わってその場所に指を一本、挿し入れる。

 指ならば、舌よりも深く入ってしまう。

 蜜を掻き出すように動く彼の指は、その凌辱にいっそうの激しさをともなわさせた。

 クロードは右手で彼女の蜜口を責めたまま、左手の甲で口についた蜜を拭うと、身体をレベッカに重ねた。

 彼の左手は、彼女のドレスの首もとを引き下ろし、華奢な肩を露にした。

 ツツ──…

 うなじに手を滑らさて、彼女の頬に唇を近づける。

「…聞こえますか、この音が」

「……はぁ…ッ…は、…ぁ……ッ…あ…アっ」

「認めたほうがラクになる…」

「…‥‥っもう、む‥り‥‥です」

 意地悪くナカをまさぐられる。

 ──限界を告げる

 その感覚が、彼女の意識を覆いだした。

 それだけは……!

「…ハァ…いやだ……!」

 それだけは絶対に──

「‥‥は‥ぁ‥ハァ…ハァ、……もうやめて‥‥! もう、……わ、わたし……‥‥!!」

 レベッカの結ばれた両手が、クロードの胸を押し退けようとがむしゃらに叩いた。

 ──けれども男の身体は離れない。

「…んん…っ…ハァ…ぁ…!」

 瞼をぎゅっと閉じる。

 ぐちゅりという音だって本当は聞きたくないが、耳を塞ぐことはできない。だから責めて目を閉じた。

「…っ…苦しい…ッ」

「……」

 “ 熱い…っ、どうしようもないくらいに…身体が……熱いの…! ”

 弾けてしまう寸前で、なんとか堪えようとする苦しげな彼女。

 けれどクロードの親指が、蜜口の上の小さな突起に添えられた瞬間に

「ぁぁーー…っ」

 呆気なく解放されてしまった。





「…可愛いですね」

「ああぁッ…ああっ…ああっ‥‥止まっ…てぇ…//」

 果てた後も、蕾(ツボミ)を揺さぶる指は止まらない。

 レベッカはまたすぐに顔を歪めた。

 ナカに入った指が掻き出す蜜を掬(スク)いとり、それを蕾に擦り付ける…。

 上下に弾いたかと思えば、くるっ、くるっと、円を描いて弄ぶ。撫でる。優しくつまむ。ツルリと滑って…またつまむ。

 その度にレベッカは身体をビクつかせていた。

「……んんッ‥‥ン…ハァ、ハァ……あ!…アっ」

 首を左右に激しく動かす。

「来ますか…また」

「ああ…っ、また…ぁ」

 あんなに小さな肉の粒でも、それがもたらす快感は凄まじい。

 これほど好き放題に弄られたら…

 果ての余韻を味わう時間もない。

「ああっ…ああっ‥ん‥ァ、やぁぁ//…‥あああっ‥……や、ああああ」

 ビクッ、ビクッ...!

 立て続けの絶頂は、彼女から抵抗の力を確実に奪い取っていた。

「…ハァ…ハァ、…っ、ケホッ 」

 ぐったりと脱力したレベッカ。

「──まだわかりませんか?」

「……!」

 そんな彼女から、重ねた身体を一端離す

 …かと思えば、クロードは両手で彼女の脚を左右に割り、ぷっくりと膨れた蕾に口づけをほどこした──。

「アっ…それ…っ」

 クチュ......  コリッ

「……それ//‥だめぇ‥っ‥、‥‥それは駄目…//」

 悲鳴で応えたレベッカだけれど、彼は逆に唇をすぼめて口付けを強くする。

 唇の奥で、舌がねっとりと押し潰してきた。

「ああんっ…」

 なんてこと…っ

 こんなこと、あの夜だってされなかった

「こんなの…‥//‥た‥…えられ ない…‥!」

 耐えられるわけがない

「………なら降参しますか」

「…あああっ‥‥?‥っ、こうさ‥ン‥‥‥?」

 蕾を口に含んだまま尋ねたクロードの、その言葉の意味がレベッカには理解できない。

「‥‥どういう‥こ と、ですか?‥‥ハァ…わ、わたし…何をすれば…いいの…っ…!?」

「嫌でもわかる」

 レベッカが問い掛けても、クロードは答えなど教えなかった。

 降参って、何をすれば…?

「ハァ、ハァっ…あ…謝れって、こと…?」

「……、non」

「なら…!どうしたらいいの…っ…ハァ、あああっ」

 蕾を舌先でチロチロと擽られる。

 唇ではさんで吸われて、頭が真っ白になる。さらに吸い出したところを舌全体でザラりと舐められて、腰骨が痺れた。

「ぁ…//‥‥ゃめッ‥‥はぁぁ…っ」

 ナカも一緒に…彼の長い指に嬲られているから、腰をどこに逃がせばいいのかもわからず、くねらせた。

「ああっ‥‥待って、わかっ…たからぁ…!」

「……」

「…ハァ…あなたの…正体は、ッ…誰にもばらさないわ、だか らぁ…っ…//」

「non、違いますよ」

 彼女からはなかなか正解が出ないようだ。


 グチュ…ッ  チュッ

 ビクッ


「──…ああああっ」

 レベッカの喉から淫らな悲鳴が漏れ出る。

 クロードは溜め息をひとつつき、そして彼女に語りかけた。

  

 自分に素直になれば…

 答えはおのずと現れる



「──…!?」

「苦しいのでしょう?あとは貴方の心だけだ」

ヂュルルッ

「ひっ‥‥//」

「身体の準備は十分なのに」

「……! や…ああっ‥‥//」

 とめどなく溢れ出る蜜をすすられる。

 トロトロのその場所を、指と舌が同時に責める。

 “ もう……もう、限界…!! ”

 ──何が、限界?

 目尻から涙を溢しながら、レベッカは自身に問いかけた。

 彼の舌が…長い指が、与える快感。

 その快感が彼女の身体の自由を奪って、理性をどこかへ追いやろうとする。

 次から次へと襲ってくるその波は、快感を通り越してもはや拷問。

 弄られ、吸われ続けるアソコの疼きが、苦しくて仕方がない──。

 ……でも

「──っ、はぁ…ッ」

 もっと、疼く場所がある…

 乱れた呼吸と
 すっかり汗ばんだ身体。

 イカされる度に、ほんの一瞬だけ解放されるそのたぎる熱──。

 けれど、ある場所だけは解放されることがなくて、どんどんどんどん、熱くなっていく。

 それは身体の中心

 蜜路の奥の…中心部

 疼いて…疼いて…仕方がない

「…く‥‥苦しいの‥‥…クロード」

「……っ」

「…ハァ、ああ‥‥ああ‥‥ゆるし て…!」

「止めてほしいのですか?」

「…そう、です…っ…とめて‥‥お願い‥!」

「──…どちらを?」

 どちらを──止めてさしあげれば宜しいのか

 この行為か、それともその疼きなのか…。

「…ハァ…ハァ…っ…ケホッ…‥ぁ、ああ」

 どちら、を?

 この苦しさをとめてくれるなら、どちらでも…。

 この身体の疼きを沈めてくれるなら

 何でもいい──。

「……っ」

 わかった、降参の意味が。彼がわたしに何をさせたいのかを、理解した。

 “ でも…っ、そんなことできない…… ”

「──…大丈夫ですよ」

 彼の声は優しかった。

「言えま…せん…っ、あああ…ッ…//」

 しかし降参の意味を理解してもなお、レベッカは何もすることができなかった。

「こんなこと…許され、ない…」

「許される…。そのために、私はあなたを城からこの場所に連れ出したのだから」

 グチュ   ...ゴリッ

「…ああッ、アっ…//」

 蜜路の手前のある一点を強く押して揺さぶられ、彼女の身体が弓なりに反れる。

「ここが好きなのですね」

「……ぁん‥ハァ‥…ちが‥う…ッ」

 蜜があふれほうだいになっているソコを、巧みな動きで甘くほぐされる。

「ちがぅっ…だめぇ//‥‥ああ、ああっ…ああっ‥」

 途切れない絶頂は、かわいそうなレベッカを休みなく責め立てた。ただの女に、戻ればいいのだと。

 意識が蕩けて

 女の本能が、甘い至福を欲しがる。

 身体を満たすものを求める──。

「……っ…レベッカ」

「──…!」

 そして…彼に名を呼ばれた途端

 彼女の中の《レベッカ》という乙女の心は容赦なく掻き乱されてしまった。


「どうしてほしい…?」


「…クロー、ド…!」


 レベッカは、布で拘束されたままの腕で、その涙を流す顔を隠した。


 もう、我慢できない
 でも…そんなことを言えるわけがない


「……」


 クロードはそっと、責めの手の動きをストップさせた。


「…ケホッ…、ハァ…っ…、クロー…ド」


「望みを言いなさい」


「…‥//‥‥たす、けて」


「……」


「お願いです、助けて……」


「──…」


 助けて、それが

 彼女の本心から出てきた言葉──。

 その言葉は、今の彼女の全てを代弁していた。

 クロードからしてみれば、それはまだまだ不充分な言い方だっただろう。もっと淫らな、厭らしい言葉の方が男を喜ばす。


「──…っ」

 しかし、彼の忍耐も限界に近かった。

 クロードは指を引き抜く。

 そして口を拭うと、彼女の顔の横に手をついて顔を覗きこむ。

 顔を隠した腕をクロードが掴んでのけると、泣きはらした目でレベッカは彼を見上げた。

「…ヒクッ…っ、ふ…」

「──…」

「……ッ…、助け て…」

「…わかりました」

 クロードは彼女の栗色の髪を柔らかく撫でると、身体を重ねて、唇に触れるだけのキスをする。

 そしてパサリと布の落ちる音がレベッカの耳に届いた。

「──挿れますよ」

「…ぁぁ…ッ 」

 ヒクつくそこに彼の灼熱があてがわれた時……レベッカの身体は抗えぬ悦びで震えた。

 もう十二分に焦らされたのだ。

 どんなに気丈な女でも
 どんなに淑やかな女でも

 こうなってしまえばただ男に身を委ねるしかない…。

「──っふぁ…ぁ、あああ」

「……っ」

 先端が少し入ったところで、彼女の蕩けた肉壁が柔らかくまとわりついてきた。

 彼をさらに奥へいざなおうと無意識の内に激しく収縮する。

 クロードは彼女を傷付けぬよう、ゆっくりと身を沈めた。

 唇を閉じ微かに微笑んでいるものの──彼の瞳から余裕が少し無くなっているようにも見える。

 パサッ

 クロードが自身の右肩から金属ボタンをひとつずつ外していき、服の前をはだけさせる。細身ながらも引き締まった彼の肉体がレベッカの目に映った。

「…ハァ…、いい表情ですね」

「…‥ハァ…ぁ‥‥ぁ…」

 赤く染まった頬と唇

 彷彿(ホウフツ)の表情で胸を震わせたレベッカ。

 その感覚は、蕾に直接刺激を与えられた時のような強く激しいものではなかった。

 そうではなくて、じんじんと一定の疼きを繰り返しながら、奥からじわりと現れる痛みと……快感。

 それに彼女は浸っていた。

 だけれど……

「わたし…っ、公爵家を裏切ることに…!」

 恐ろしかった。

 呼吸を整え、受け入れた彼のモノを感じていたレベッカは、ふっとその顔に不安の色を滲ませる。

 公爵家に嫁いだ身でありながら、やはりこれは許されないことだから…。

「悪い女(ヒト)だな…」

「…!…アッ」

「まだそんなことを口にしますか」

 だがその不安の表情も、彼が腰を動かせば途端に崩れた。

「…‥ふァ‥ァ、ああ…ん、あっ…あっ」

「…っ…」

 ナカを前後する彼は、突くというより、掻き回す動き。熱くなった柔肉を掻き撫でる動きだった。

グチュ、グチュ....ッ  グチッ... !

「…‥ん…ん…// ぁぁ‥、あっ、あっ、あ…ッ」

 レベッカは小刻みに喉を震わせて喘ぐ。

 クロードは──そんな彼女を熱っぽく見下ろす。

「…アっ…ハァ、ぁぁん…あっ、あっ、あっ…!」

 もう、魔法にでもかかってしまったみたいだ。

 脳がクロードに支配されている。

 彼に貫かれるこの感覚が、凶悪なまでに心地いい。

 時おりついばんでくる彼の唇を、もっと欲しくて仕方がなかった。

 喘ぐレベッカは横を向いた。

 目の前でちらつくのは菫(スミレ)の花びらだった。

 “ わたしの瞳と同じ、薄紫の──… ”

サラサラ....

 揺れる花びらのその音。

 被さるクロードの乱れた金糸の髪が、同じ音をたてている。

「…はぁっ…アっ、はぁ、ああ、ああっ‥//」

 けれど、次第に激しくなる律動に比例して大きくなる女の媚声が、それらの音を掻き消し、二人の周りを包んでいった。



「…っ…その調子だ」


「……んぁっ」


「余計なことは…忘れていい。今の、貴方は…──公爵夫人では…ないのですから」


 その為に、城の外──此処へ連れてきたのです。


 だから今は、何に惑わされることもない。


 男と女が抱き合うならば 、その時間は、互いをひたすら求めるのみだ──。


「安心しなさい…ここは花畑」


「──ぁッ…、クロード‥‥//」


「恥ずかしがらす、あなたも…ッ…内なる花を咲かせればよいのです」








 ....





《 お願い…助けて……! 》

 彼女の懇願──

 それは、疼く身体の苦しみから、救い出してほしいという意味だった。

 しかしそれだけではない。

 レベッカはもっとずっと以前から、助けを待っていたのだから。

 そしてそれにいち早く気が付いたのは、皮肉なことに彼女自身ではなかったのだ。

 あの夜、クロードがレベッカを抱いた時──彼女は背負った何かに怯えていた。

 彼女が背負ったもの…公爵夫人という立場と、男に溺れる訳にはいかない、貴族の娘としてのプライドに。

 だがそれは、レベッカが生まれながらの貴族だからではない。

 むしろ貴族である自分に馴染めず、小さな頃から…なんとか貴族として振る舞わなければと自分を律して生きてきたからこそ──彼女は今、このように貴族の娘としての自覚を重く背負ってしまっているのだろう。



《 …ならば、私が盗もう 》



 ならば私があなたを奪い、連れだそう。


 公爵家の城から……政略的な婚姻の場から。


 それができるのはブルジェ伯爵ではなくクロードだ。


 無法者の怪盗が奪い取ろう。


 貴族とかいうくだらない牢獄の中で、助けを求める菫の瞳の乙女を──。









───





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