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掲げた使命
掲げた使命_2
しおりを挟む帰ろうと、セレナは何気なくそう言った。
しかしアルフォード侯は、彼女の手をとり握りしめながら微笑むだけだった。
「それはまだできないよセレナ」
「…っ…どうして?」
「……?」
セレナは声を荒げた。
彼女のその反応に少し驚いた様子の侯爵は、幼い子供をあやすように言って聞かせる。
「お前は先に家に戻っていい、私の部下に案内させよう」
「お父様は残るの?」
「…っ…そうだ。だが安心しなさい、お前がいつ帰ってきても良いよう、屋敷に着いたらすぐに食事もとれるように手配してある」
「ここで何をするつもり……!? 」
「……仕事だよセレナ。……ああ、着いたらその汚れたドレスも着替えるといい。お前の二十歳の誕生祝いに何着か新しいものを用意しておいたから」
「そんなこと…ッ」
違う……そんなことを聞きたいんじゃない。
食事もドレスも、今はそんな物どうだっていい。
「誰か、私の娘を屋敷へ送ってくれないか」
セレナの思いに気付かない侯爵は周りの部下に問いかけていた。
「──狼を…」
「……!」
「…殺しに行くの?」
話をそらす侯爵に、最も率直な問いが投げ掛けられる。
周りにいるのは銃を持った大勢の兵士達……。
でも、どうか思い過ごしであって欲しかった。
──しかし彼女の希望は打ち砕かれる。
ひとつ溜め息をついた侯爵は表情を固くした。
「……そう、私達には狼討伐の使命がある」
「……!! 」
「セレナは早く帰りなさい……。我々はまだ、残らなければ──」
「どうしてそんなことを!」
「どうして、だと?」
侯爵は顔をしかめた。
娘が何をそれほど動揺しているのかを理解できない。
そもそも討伐の理由など、今さら疑問に持つ事ではないのだから。
「狼をいくら殺してもきりがないって言っていたじゃない。なのにどうして急に…っ…こんな」
「私達が探しているのはただの狼ではないのだよ。奴等を裏で狡猾に操る…──化け物だ」
──化け物
「……化け物、…って…?」
「──…『銀狼』という狼だ。セレナも名前くらいは聞いたことがあるだろう」
「そんな」
ばれている、彼の存在が──
セレナの顔が青ざめた。
胃を固く締め付けられ、喉の奥を嫌な空気が抜ける音がした。
ローの存在が人間にばれている。それでこれほど大がかりな捜索が…!!
──なら、彼等の隠れ家のことは?
聖地の場所までばれているの?
「その銀狼が何処にいるのか……お父様は、わかっているの?」
脈打つ心臓は掻きむしられているようで、掌の汗をはっきり感じるほどセレナは切迫していた。
「お前の行方を追っている段階で、私達は銀狼に通ずる手掛かりを見つけた。恐らくこの周辺にいる。今日中には必ず見つけ出して討伐するつもりだ」
「……っ」
「噂に聞くには恐ろしい魔力を持った冷酷な怪物だ。こちらとて無傷ではすまないが……だが、皆その覚悟はできている」
「───駄目よそんなの! 彼はそんな怪物じゃないわ!
彼は───ッッ、………!! 」
気付いた時には叫んでいた。
「──…!」
取り戻せない瞬刻が、異様な静寂にゆっくりと滲んでいく。
いけないと思い口をつぐんだセレナだが既に遅い。
ザワッ...
目の前の父親、そして周りの部下達が彼女の言葉を聞き逃さなかった。
....
「──…今、" 彼 " と言ったか?セレナ」
「……っ…何でもない…」
「はっきり言いなさい!! お前は銀狼について何か知っているのか!? 」
アルフォード侯は、顔を背けたセレナの両肩をつかんで揺すりながら問いただす。聞き流せないことを彼女が言ったのだ。
「……!! 」
セレナは目をそらしたまま歯をギリリと喰い縛った。
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