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掲げた使命
掲げた使命_3
しおりを挟む「やはりお前は、銀狼に囚われていたのだね」
「…ち、違うの」
「嘘はやめなさいセレナ」
侯爵はセレナの頭に手を置く。
そしてじわじわと赤くなっていく彼女の目を覗き込んだ。
「なら銀狼の居場所も知っているだろう。我々に教えてくれ」
「……嫌です」
「何故だい?」
不可解な娘の返事を受けてなお、彼は柔らかく尋ねた。
「心配しなくていい。知っている事を何でもいいから話してくれ」
「……殺さないで」
「…ッ…自分が何を言っているのかわかっているのか?」
「彼を殺してはいけないわ……っ」
「……セレナ」
侯爵は溜め息をついた。
いつになく強情なセレナを不審に思う。
まるで今の彼女は幼い頃に戻ってしまったようだ…。
『 殺さないで!ラーイを殺さないで!』
あの日の幼きセレナの姿が侯爵の脳裏に浮かぶ。
「──…」
もう何を言っても説得は難しい。この子はそういう子だ…。
アルフォード侯は、列の後方にいる二人の部下の名を大声で叫び呼び寄せた。
恐らくまだ二十歳未満……セレナより年下だと思われる若い二人は、いきなり上官に呼ばれたことで慌てて駆け寄ってきた。
「な、なんでしょうか長官!」
「……君達二人にはセレナを任せる」
駆けつけた彼等に向かって、掴んだセレナの肩をぐっと押す。
「そんなっ…約束が違います、長官!僕も討伐に」
二人の内、ひとりの部下が侯爵の命令に反抗した。
見ればその青年は他の兵士と違い、まだ銃を持っていないようだ。
不満を上げる彼を侯爵が静かに諭した。
「……君達はまだ若い。焦らなくていいのだ。何事にも、受け継ぐ者が必要なのだからな」
「しかし…っ」
「その覚悟は我々が無駄にしない。どうか……セレナを任されてくれないか」
「長官殿……!! 」
上官としてのアルフォード侯の言葉が、部下である青年の不満の口を塞ぐ。
……しかし、何も皆が納得したわけではない。
「娘を無事に送り届けてくれ」
「…っ…嫌よわたしは帰らないわ!お父様聞いて! 狼たちは──ッ」
「セレナ!狼を野放しにするという選択肢は我々に無いのだ」
「……っ」
依然として、隊を止めようと叫ぶセレナ。
侯爵は彼女に背を向けて、再び馬の背に跨がる。
もう……その顔を振り向かせることはない。
「狼を野放しにするとは即ち…──苦しむ街の人々を見棄てるという事だ」
そんな事はできない。
その為に、我が命を危険に晒す覚悟もできている。
「──隊を止めて悪かった!今となっては日も折り返し……早くしなければ夜になると分が悪い。急いで捜索を続ける──セレナの来た道をたどれ!」
長官の掛け声に従い列は進む。
その向きをセレナが現れた方向に変え、何事もなかったかのように捜索を再開する。
猟犬がセレナの匂いを覚えたのか、地面に鼻を付けながら隊を先導し始めた。
──叫ぶ彼女の声は無視された。
制止の声に耳を貸す者はいなかった。
兵達にも……とっくに覚悟はできていたのだ。
それぞれの家で彼等の帰りを待っている、愛する者を守るために───。
───…
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