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第六巻
救出
しおりを挟む何故? 焔来がここに…!?
「──…リュウの声が…聞こえた…っ」
「……っ」
「俺を呼ぶ声が…!…聞こえた」
「どうし て…」
喘ぎに邪魔されたこんな声が、焔来にだけは届いたと言うのか。
こうして無事に現れてくれた焔来を前にして、リュウの瞼の裏には涙が滲む。
「一緒に逃げるぞ! リュウ」
焔来はリュウのもとへと駆け寄り、彼を縛る縄を切るために刀を鞘から抜いた。
抜いた刀の刀身には──べったりと、赤色の血が付いていた。
その血はまだ鮮やかで、新しい。
「焔来…平気なのかい? 狂骸湯、は…?」
「…っ…それは」
焔来はリュウの縄を切り、彼の身体を抱き起こしたが、咄嗟にリュウから目をそらした。
「飲んだけど……もう、なんともない」
「なんとも、ない?…っ…そんな、本当に…!?」
「あ、ああ。偽物だったんじゃねぇの?」
「……!」
焔来はわざとらしく誤魔化した。
まだ真実は話せない…。
「俺は死ななかった。…で、あの野郎を──俺が、この刀で」
「……」
「…殺した。斬ったんだ。そのあと、屋敷にいた別の男を脅してここにいると聞き出した」
ただこれだけは正直に話さなければと焔来は思った。
自分が初めて、この手で人間を殺したこと…。
「──…俺を信じろって、言ったろ?」
「……うん、ハァ、そう…だね‥‥!」
するとやっと…リュウが笑う。
だが、リュウが口の端に浮かべた笑みは実に余裕のないものだった。
「よし行くぞ、…立てるか? 怪我は痛むよなっ…」
先に腰をあげた焔来が腕を掴んで引っ張ると、リュウはよろけながら立ち上がる。
彼の乱れた着物を整えながら、部屋の隅で気絶している男を睨んだ。
「くそっ、こいつ……リュウに酷いことしやがって」
「いや……っ、ハァ、あんなの気にしなくていい、僕は…平気さ…!」
「ぜんぜん平気じゃないだろ!」
焔来から見てもわかるくらいにリュウの様子はおかしかった。
支えるために触れた背中は熱くて、目も虚ろ。全身から汗が噴き出していて、表情も険しい。
そんな、どう見ても大丈夫ではないリュウの顔を覗きこむ。
いったいこの部屋で何をされていたのか……!考えるだけで臓腑が煮えたぎる。
…そんな焔来の鼻に、ふと、甘い匂いが香った。
「…ンだ、これ…」
この部屋の中に充満している匂い。
それは花のように青さのある香りとは違い、もっと甘ったるくて……重たい。
この切迫した状況に、その甘さが腹立たしくて、焔来は乱暴に鼻をすすった。
「──吸わないで! 焔来」
「え……?」
「この煙‥を、嗅いではいけない……っ」
するとリュウが突然 態度を変えた。
慌てて声をあげた彼の──その瞳の力は弱々しく、睫毛(マツゲ)が細かく震えていた。
そんな目をリュウは部屋の隅へと流す。
そこには香炉が置かれており、細く揺れる煙が…途切れることなく立ち上っていた。
まさか、あれが……!?
「あれが毒なのか!?リュウお前っ…毒を吸わされたのか!?」
「少しなら吸っても影響ない…っ…!…だから早く…部屋を、出よう…っ」
そう言って歩き出したリュウは、もう嫌というほど煙を吸わされたに違いないのだ。
「…この煙は…っ…命に関わるようなものじゃ、ない…。ハァ、だから焔来は気にしなくて、いい」
「ほんとかよ…っ」
「それより速く!…逃げよう、ここから……!」
いまだ納得できていない焔来だが、リュウの言うとおりに部屋を出た。
うまく歩けないリュウに肩をかして廊下に出る。
「ハァ…」
焔来に支えられながら、リュウは申し訳なさそうに下唇を噛んだ。
「ごめんね焔来。…焔来だって…すごく、辛そうなのに」
「馬鹿。俺はもう心配いらない……っ」
両側を障子にはさまれた仄暗い廊下。
途中ですれ違った陰間(カゲマ)の少年が、二人を不思議そうに横目で見る。
何も知らないその少年は、自分の客取りのためにさっさと廊下を曲がっていった。
そして焔来たちは裏口から密かに抜け出し、音をたてぬように木戸を閉める。
...パタン
外は凍るような寒さだった。
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