緋色ノ叉鬼

越子

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二十二、二人の父

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 あれから十年の時が経った今、松陰はあの頃の自分に後悔をしていた。

 それは、無責任な言葉を発してしまった事に対してではない。無責任な言葉を実行しなかったことに対してだった。

 大和は自分の息子だった。血の繋がった、本当の息子だった。

 ――だけど。

(大和くんは藤島さんどこの息子だ。今更、私が父親だと言っても大和くんが困るだけだべな)

 ふぅ、と小さい溜息を零し、松陰は目を細めて真っ直ぐに大和の背中に向けて語りかけた。

「大和くん、無理矢理、薬どこ飲ませた佐介くんどこ、嫌にうだでぐなったが? そんた薬で目どこ覚ました辰巳さんどこ、嫌にうだでぐなったが?」

 聞くまでもない、彼は大和の答えを知っている。だが、問わなければ大和の心の整理がつかないということも知っていた。

 大和は松陰の思惑通り、首を小さく横に振った。

「大和くん、他に許せねことでもあるんだか?」

 大和は松陰に背を向けたまま、黙ったままだった。

「大和くん、私はね、今まで生きてきて、後悔して許せねことが一つだけあるっけな」

「……先生が!?」

 振り向いた大和の目は丸かった。それを見た松陰は「やっとこっちゃこっちを見たな」と微笑んで彼に告げた。

「あの日、大和くんどこ私の息子さ出来ねがったこどだ」

「え? 先生、何言って……」

「私は自分自身どこ許せね。 今までも、――これからも!!」

 そう言うと、松陰は大和を強く抱き締めた。

「だども、これで良い。許せねぐても、これで良い!!」

 ――藤島さんを困らせるくらいなら、大和くんを困らせるくらいなら、私は死ぬまでこれで良い。私は弱い人間だ。だけど、これで良い。

「……大和、でけくなったなぁ」

「先生……? 良ぐ聞こえねがったども……」

 松陰は奥歯をグッと噛み締めて、大和から身体を離した。

つえぐなってけれな。つえぐなって、いつか自分自身どこ許せるようになってけれな」

 松陰の言葉に、大和は戸惑った。

(俺、先生さなんも言ってねのに……)

 本当は自分が使うべきだった、忌々しい鬼神草を佐介に使わせてしまった。そして、辰巳の目覚めに内心喜んでしまった。大和は何が良くて、何が悪い行いなのか分からなくなった。そして、感情が支離滅裂でやり場のない怒りに耐えきれなくなり、診療所を飛び出して行った。

 松陰の目は真っ直ぐに彼を見据えていた。全てを見られたような恥ずかしさよりも、全てを知ってくれたという安心感で、彼はゆっくりと頷いて言った。

「さすが先生だっけな、少しさっとこ気持ちが楽になったスけ。不思議だな、父さんが二人居るみたいだ」

 大和は松陰に向けて無防備に微笑んだ。松陰は溢れ出す感情を必死で耐えようと、顔を歪めて微笑み返した。

 そして、唇を震わせて言った。

「――藤島さんどこさけえるべ」
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