緋色ノ叉鬼

越子

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二十二、二人の父

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「松陰のやつ、本当に大丈夫なんじゃろうか。ちゃんと大和を連れて帰ってこられるんじゃろうか」

 その頃、山神は忙しなく病室の中をうろうろと歩き回っていた。

「彼だば大丈夫だべ。大和どこ良ぐ知ってらすべがら」

 久しぶりの白湯を口に含み、ゆっくりと喉仏を動かしながら辰巳は落ち着いた声で言った。

「辰巳がそう言うなら……うむ。そうなんじゃろうな」

「あれ? おかっぱ様、辰巳さんには素直なんだね?」

 右京が腕を組んで首を傾げると、山神は彼を睨見つけた。

「儂は、いつも素直じゃ!!」

「ハハッ。違いねぇ」

 そんな彼女を見て、佐介が鬱血した右腕を軽く擦りながらカラカラと笑う。

 ガラガラっと、外から音がした。

「大和じゃ!!」

 いの一番に山神が病室を飛び出して出迎えると、彼女の顔色が変わった。

「……あ、あんた、咲希さんでねが!? なして生きてらの!?」

 山神が出迎えた先には、大和と松陰の姿ではなく、同じ打当集落に住む若い女性の姿であった。

(あ、しまった。今日はお面つけてなかったんじゃ……)

 咲希の姿を集落の人達に晒すと面倒なことになる、そして辰巳さんと過ごせなくなる、と大和に口酸っぱく言われていた山神は青褪めたが、女性の方も顔色が悪かった。

「おや、患者さんですか? 熱どこ上げて幻覚でも見てるんスけ」

 女性の背後から穏やかな声色で尋ねたのは松陰だった。

「あら先生? なしてオラの背後に? ……ああ、んだかもしれねす。今朝から身体が怠くて……」

 女性が急にふらふらとしだし、倒れそうなところで松陰の隣に居た大和が彼女を支えた。

「大丈夫だか?」

「や、大和さん!? ああ、これも幻覚だべか? 村どこ救った英雄さ抱かれて、オラ幸せだ……」

 そう言うと、頬を染めたまま女性は意識を失ってしまった。

「……ふぅ。山神様、危ねがったスな。山神......様!?」

 松陰は山神の表情に目を丸くした。彼女はオコゼのように頬を膨らまし、しゃくれたような顔で大和と女性を見ていた。

(これはこれは......)

 松陰はフフッと笑って大和から女性を離してあげた。

「へば、私はこの人どこ看るスけ。大和くんと山神様は、先に藤島さんどこさ行っててけれ」

 山神と二人きりになった大和は、ちらりと彼女を見ると、彼女は膨れっ面で彼を睨み返した。

「儂は気分が悪い。このままの姿で集落を走り回ってもいいんじゃぞ!? 止めたければ――」

 まだ話の途中であったが、慌てて大和は山神を抱き上げた。

「このまま外さ出して走らせるわけにはいかねス。これからも辰巳さんと三人で過ごスっけな」

「そうじゃろう、そうじゃろう!! よし、大和! このまま辰巳の部屋まで行くぞ!!」

 大和に抱えられた山神は満面の笑顔を彼に見せた。
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