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十、夏祭り
三
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彼らが神社の鳥居をくぐると、そこは別世界のようだった。
鳥居から本殿まで狐火のように幻想的な行灯が列をなし、淡い光に照らされている屋台が沢山設けられていた。町の人々は笛と太鼓の音頭に合わせて陽気に踊り、酒を飲み交わしている。
「オミセ、タクサン! ネエチャン、ハヤク、ハヤク!」
ノアが興奮気味にアンナを急かすと、彼は一つの屋台に目が止まった。
「カオ、イッパイ!」
ノアが目を輝かせている先にあったのは、お面屋だった。
天狗、ひょっとこ、おかめ、といったお面だけではなく、猿、狐、狸、蛙などの動物のお面まで売っていた。
「ウルフ、イナイネ……」
ノアは少し残念そうだったが、猿のお面を指差して太一に言った。
「サル、ニイチャン!」
太一は目を大きくして「ワァが猿ーー!?」と眉を歪めて不満そうに叫んだ。右京は笑っていたが、次にノアは彼を指差した。
「キツネ、ニイチャン!」
不意を突かれた右京は、表情が固まった。
『右京、お前は狐みてえな野郎だな。いつまで経っても、お前の気持ちどこ掴めねえよ。こいつだば仕留めるのが難儀だで。……早ぐ俺さ捕まれってんだ!』
右京は地面に捨てるように言葉を吐いた男性の後ろ姿を思い出す。ぶっきらぼうだけど、その背中は少し寂しそうだった。
(俺は、狐か。昔、雪治にも散々言われたな……)
「……キツネ、ニイチャン、イヤ?」
苦い顔をした右京に気づき、心配するようにノアが見上げていた。
「いや、俺にぴったりだよ」
右京が目を細めると、ノアは満足そうに笑う。
「ワァは!? なしてワァさ嫌? って聞かねの!? ワァは猿嫌だで!」
そんな太一に向かって、ノアは「ジャア、ニイチャン、アレ」と言って、違うお面を指差した。
「ニイチャン、スキッパ」
そのお面はオコゼの顔をしていた。
前歯が無い太一は雷が落ちるような衝撃を受けてしまい、終いには項垂れてしまった。それを見た右京は、さすがに彼に同情し「子供の言うことだよ。気にしない、気にしない」と言って笑いながら彼の肩を叩いていた。
「なんも。オコゼ、良いねが。俺、このお面どこ買うど」
意外なことに、オコゼのお面に食いついたのは大和だった。彼は満足そうにオコゼのお面をお店の人から受け取ると、顔にはめて見せた。
「ニイチャン、カオ、オモシロイ!」
ノアはケタケタ笑い、アンナもクスクスと笑っていた。さっきまで項垂れていた太一までもが噴き出して笑っている。
(なるほど、彼女の為のお面ってわけね)
右京だけは大和の意図を読み取り、一人頷いていた。
その後、彼らは様々な屋台を周り歩いた。
射的屋では大和が全ての景品を撃ち倒してしまい、店主が慌てていた。輪投げ屋では右京が過去に無い高得点を出した為、周囲から驚きの歓声が聞こえていた。太一はというと、したり顔で金魚屋で一度に五匹の金魚を掬っていた。まだまだ掬えるぞ、と言って彼は再びポイを構えたが、「誰がこんなに沢山金魚の世話をするの?」と、右京に言われて渋々金魚掬いを諦めていた。
そんな彼らを見て、アンナとノアは始終楽しそうに笑っていた。
鳥居から本殿まで狐火のように幻想的な行灯が列をなし、淡い光に照らされている屋台が沢山設けられていた。町の人々は笛と太鼓の音頭に合わせて陽気に踊り、酒を飲み交わしている。
「オミセ、タクサン! ネエチャン、ハヤク、ハヤク!」
ノアが興奮気味にアンナを急かすと、彼は一つの屋台に目が止まった。
「カオ、イッパイ!」
ノアが目を輝かせている先にあったのは、お面屋だった。
天狗、ひょっとこ、おかめ、といったお面だけではなく、猿、狐、狸、蛙などの動物のお面まで売っていた。
「ウルフ、イナイネ……」
ノアは少し残念そうだったが、猿のお面を指差して太一に言った。
「サル、ニイチャン!」
太一は目を大きくして「ワァが猿ーー!?」と眉を歪めて不満そうに叫んだ。右京は笑っていたが、次にノアは彼を指差した。
「キツネ、ニイチャン!」
不意を突かれた右京は、表情が固まった。
『右京、お前は狐みてえな野郎だな。いつまで経っても、お前の気持ちどこ掴めねえよ。こいつだば仕留めるのが難儀だで。……早ぐ俺さ捕まれってんだ!』
右京は地面に捨てるように言葉を吐いた男性の後ろ姿を思い出す。ぶっきらぼうだけど、その背中は少し寂しそうだった。
(俺は、狐か。昔、雪治にも散々言われたな……)
「……キツネ、ニイチャン、イヤ?」
苦い顔をした右京に気づき、心配するようにノアが見上げていた。
「いや、俺にぴったりだよ」
右京が目を細めると、ノアは満足そうに笑う。
「ワァは!? なしてワァさ嫌? って聞かねの!? ワァは猿嫌だで!」
そんな太一に向かって、ノアは「ジャア、ニイチャン、アレ」と言って、違うお面を指差した。
「ニイチャン、スキッパ」
そのお面はオコゼの顔をしていた。
前歯が無い太一は雷が落ちるような衝撃を受けてしまい、終いには項垂れてしまった。それを見た右京は、さすがに彼に同情し「子供の言うことだよ。気にしない、気にしない」と言って笑いながら彼の肩を叩いていた。
「なんも。オコゼ、良いねが。俺、このお面どこ買うど」
意外なことに、オコゼのお面に食いついたのは大和だった。彼は満足そうにオコゼのお面をお店の人から受け取ると、顔にはめて見せた。
「ニイチャン、カオ、オモシロイ!」
ノアはケタケタ笑い、アンナもクスクスと笑っていた。さっきまで項垂れていた太一までもが噴き出して笑っている。
(なるほど、彼女の為のお面ってわけね)
右京だけは大和の意図を読み取り、一人頷いていた。
その後、彼らは様々な屋台を周り歩いた。
射的屋では大和が全ての景品を撃ち倒してしまい、店主が慌てていた。輪投げ屋では右京が過去に無い高得点を出した為、周囲から驚きの歓声が聞こえていた。太一はというと、したり顔で金魚屋で一度に五匹の金魚を掬っていた。まだまだ掬えるぞ、と言って彼は再びポイを構えたが、「誰がこんなに沢山金魚の世話をするの?」と、右京に言われて渋々金魚掬いを諦めていた。
そんな彼らを見て、アンナとノアは始終楽しそうに笑っていた。
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