緋色ノ叉鬼

越子

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十、夏祭り

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 彼らが神社の鳥居をくぐると、そこは別世界のようだった。

 鳥居から本殿まで狐火のように幻想的な行灯が列をなし、淡い光に照らされている屋台が沢山設けられていた。町の人々は笛と太鼓の音頭に合わせて陽気に踊り、酒を飲み交わしている。

「オミセ、タクサン! ネエチャン、ハヤク、ハヤク!」

 ノアが興奮気味にアンナを急かすと、彼は一つの屋台に目が止まった。

「カオ、イッパイ!」

 ノアが目を輝かせている先にあったのは、お面屋だった。

 天狗、ひょっとこ、おかめ、といったお面だけではなく、猿、狐、狸、蛙などの動物のお面まで売っていた。

「ウルフ、イナイネ……」

 ノアは少し残念そうだったが、猿のお面を指差して太一に言った。

「サル、ニイチャン!」

 太一は目を大きくして「ワァが猿ーー!?」と眉を歪めて不満そうに叫んだ。右京は笑っていたが、次にノアは彼を指差した。

「キツネ、ニイチャン!」

 不意を突かれた右京は、表情が固まった。

『右京、おは狐みてえな野郎だな。いつまで経っても、おの気持ちどこ掴めねえよ。こいつだば仕留めるのが難儀だで。……はえぐ俺さ捕まれってんだ!』

 右京は地面に捨てるように言葉を吐いた男性の後ろ姿を思い出す。ぶっきらぼうだけど、その背中は少し寂しそうだった。

(俺は、狐か。昔、雪治にも散々言われたな……)

「……キツネ、ニイチャン、イヤ?」

 苦い顔をした右京に気づき、心配するようにノアが見上げていた。

「いや、俺にぴったりだよ」

 右京が目を細めると、ノアは満足そうに笑う。

「ワァは!? なしてワァさ嫌? って聞かねの!? ワァは猿嫌だで!」

 そんな太一に向かって、ノアは「ジャア、ニイチャン、アレ」と言って、違うお面を指差した。

「ニイチャン、スキッパ」

 そのお面はオコゼの顔をしていた。

 前歯が無い太一は雷が落ちるような衝撃を受けてしまい、終いには項垂れてしまった。それを見た右京は、さすがに彼に同情し「子供の言うことだよ。気にしない、気にしない」と言って笑いながら彼の肩を叩いていた。

「なんも。オコゼ、いねが。俺、このお面どこ買うど」

 意外なことに、オコゼのお面に食いついたのは大和だった。彼は満足そうにオコゼのお面をお店の人から受け取ると、顔にはめて見せた。

「ニイチャン、カオ、オモシロイ!」

 ノアはケタケタ笑い、アンナもクスクスと笑っていた。さっきまで項垂れていた太一までもが噴き出して笑っている。

(なるほど、彼女の為のお面ってわけね)

 右京だけは大和の意図を読み取り、一人頷いていた。

 その後、彼らは様々な屋台を周り歩いた。

 射的屋では大和が全ての景品を撃ち倒してしまい、店主が慌てていた。輪投げ屋では右京が過去に無い高得点を出した為、周囲から驚きの歓声が聞こえていた。太一はというと、したり顔で金魚屋で一度に五匹の金魚を掬っていた。まだまだ掬えるぞ、と言って彼は再びポイを構えたが、「誰がこんなに沢山金魚の世話をするの?」と、右京に言われて渋々金魚掬いを諦めていた。

 そんな彼らを見て、アンナとノアは始終楽しそうに笑っていた。
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