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十九、白い熊
三
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「山神様、今回の全身が白い熊って『ミナジロ』なんだか?」
右京が立山の町に向かっている間、掃除を終えた大和たちは「お疲れ様です。ちょっと休憩しませんか」と清兵衛が煎れてくれた熱い茶を飲んでいた。
山神は茶を冷まそうと、フゥフゥ息を吹きかけていたが、大和の言葉に息を止めた。
「……大和、よくミナジロを知っていたな。あの熊は空気のようなものじゃ。人前に現れる事は絶対に無いはずだが」
「昔、辰巳さんが教えてけだんだ。ミナグロ同様に山神様の熊だどって言っでらったスけ」
一緒に茶を飲んでいた佐介と清兵衛も気になるようで山神に目を向けている。
山神は恐る恐るゆっくりと茶を啜り、コクンと飲み込んだ。
「半分正解で、半分不正解じゃな」
「半分?」
大和が聞き返す。
「そう、半分じゃ。確かに『ミナジロ』は儂の熊じゃが、今回の『白い熊』は儂の熊ではない」
「違いが分がらねな」
「そうですね」
思わず佐介と清兵衛が口を挟む。
「なに、儂にとっては簡単なことじゃ。その白い熊と儂は繋がっていない。もし神の使いだとすれば、白い熊は立山の神と繋がっているんじゃろう」
すると、大和は考え込んでしまった。
「大和? 急になした? 何か問題でもあらんだか?」
「ああ。佐介、俺らはマタギだ。マタギは神の熊どこ撃つことは許されね」
「あ……」
そこで佐介も理解した。美弥子は彼らに「白い熊を殺して欲しい」とお願いをしていたのだ。現に、白い熊に襲われ、行方不明になった被害者もでている。だが、本当に神の熊だとすれば彼らは熊を撃つことが出来ない。
たとえ立山の神だとしても、男の神だとしても、マタギにとっては同じ『山神様』なのだ。
大和は辰巳の真剣で厳しい顔と言葉を思い出していた。
『――どんたことがあっても絶対に殺すでね』
(辰巳さん、だども人を守る為にはどうすれば……)
「ほ、ほら。本当に私たちの前に姿を現すかどうかも分かりませんし、神の熊とは限りませんし、考えても仕方ないですよ」
考え倦ねている大和と佐介を見兼ねた清兵衛が、気を紛らわそうと明るい声を出したが、
「姿といえば、右京と、あの女はどうした? 姿が見えんな」
ようやく丁度いい温度になったのか、ズズッと茶を啜りながら山神が言った時、旅館の庭先から女性の悲鳴が響いてきた。
いち早く反応した大和が庭へと駆け出し、佐介もその後を追った。
右京が立山の町に向かっている間、掃除を終えた大和たちは「お疲れ様です。ちょっと休憩しませんか」と清兵衛が煎れてくれた熱い茶を飲んでいた。
山神は茶を冷まそうと、フゥフゥ息を吹きかけていたが、大和の言葉に息を止めた。
「……大和、よくミナジロを知っていたな。あの熊は空気のようなものじゃ。人前に現れる事は絶対に無いはずだが」
「昔、辰巳さんが教えてけだんだ。ミナグロ同様に山神様の熊だどって言っでらったスけ」
一緒に茶を飲んでいた佐介と清兵衛も気になるようで山神に目を向けている。
山神は恐る恐るゆっくりと茶を啜り、コクンと飲み込んだ。
「半分正解で、半分不正解じゃな」
「半分?」
大和が聞き返す。
「そう、半分じゃ。確かに『ミナジロ』は儂の熊じゃが、今回の『白い熊』は儂の熊ではない」
「違いが分がらねな」
「そうですね」
思わず佐介と清兵衛が口を挟む。
「なに、儂にとっては簡単なことじゃ。その白い熊と儂は繋がっていない。もし神の使いだとすれば、白い熊は立山の神と繋がっているんじゃろう」
すると、大和は考え込んでしまった。
「大和? 急になした? 何か問題でもあらんだか?」
「ああ。佐介、俺らはマタギだ。マタギは神の熊どこ撃つことは許されね」
「あ……」
そこで佐介も理解した。美弥子は彼らに「白い熊を殺して欲しい」とお願いをしていたのだ。現に、白い熊に襲われ、行方不明になった被害者もでている。だが、本当に神の熊だとすれば彼らは熊を撃つことが出来ない。
たとえ立山の神だとしても、男の神だとしても、マタギにとっては同じ『山神様』なのだ。
大和は辰巳の真剣で厳しい顔と言葉を思い出していた。
『――どんたことがあっても絶対に殺すでね』
(辰巳さん、だども人を守る為にはどうすれば……)
「ほ、ほら。本当に私たちの前に姿を現すかどうかも分かりませんし、神の熊とは限りませんし、考えても仕方ないですよ」
考え倦ねている大和と佐介を見兼ねた清兵衛が、気を紛らわそうと明るい声を出したが、
「姿といえば、右京と、あの女はどうした? 姿が見えんな」
ようやく丁度いい温度になったのか、ズズッと茶を啜りながら山神が言った時、旅館の庭先から女性の悲鳴が響いてきた。
いち早く反応した大和が庭へと駆け出し、佐介もその後を追った。
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