1 / 3
カズキの匂い
しおりを挟む
梅雨が明け、深緑に木漏れ陽が差している。
従者カズキの主であるセツは、人の姿で彼の膝を枕にして昏々と眠りについていた。カズキの近くではハクが切株に腰を掛けていたが、二人は顔を合わせるどころか、一度も目を合わせない。
渓流と滝の流れ落ちる音が爽やかで耳心地良く、そんな時間がただ過ぎると思っていたが、
「なあ、お前、鬼の匂いが分かるんだろ?」
カズキの声が聞こえた。
「? ああ。分かる」
突然カズキに話しかけられたため、ハクは少し驚いたようだ。
「お前ら退治屋にとって、鬼は不快な匂いだと聞いたことがある」
カズキはハクに目を向けることなく、セツの頭を軽く撫でている。彼女は良い夢でもみているのか、気持ち良さそうだ。
「ああ。そうだな。鬼にも寄るが、大抵はカビのように不快な匂いが多い」
カズキと会話はするが、ハクの視線の先は常にセツだった。
「じゃあ、俺の匂いは不快なのか?」
ハクは視線をカズキの方に上げた。
「……いや、私は気にしない」
するとカズキは「そうだろう! そうだろう!」と、したり顔になった。
(俺は昔、ナツに言われたことがあるんだ! 俺の匂いは雨のようだと。雨も滴る良い男とはまさに俺のことだな!)
当時、ナツはセイに「晴れの匂い」と言い、カズキには「雨の匂い」と言っていた。
「おにいさんは洗濯物の生乾きの匂いがする」
「……は?」
カズキは耳を疑った。
「おにいさんは、洗濯物の生乾きの匂い」
「……」
◇ ◇ ◇
セツが目を覚ますと、彼女の目にハクの綺麗な顔が映った。いつの間にかハクが膝枕をしていたようだ。
「セツ、起きたか」
「あ、あれ!? カズキは!?」
「あそこにいる」
ハクが視線を向けた先に、カズキが目を閉じ無言で滝行をしていた。
「カズキ!? お前、何やってんだぁ!?」
セツがカズキに向かって叫ぶと、
「おにいさんは、洗濯物の生――」
「言うなああああああ!! セツには絶っ対に、言うなああああああああ!!」
滝に打たれながらカズキはカッと目を見開き、必死の形相で叫んだ。
その叫び声は、滝の音よりも大きく響き渡った。
従者カズキの主であるセツは、人の姿で彼の膝を枕にして昏々と眠りについていた。カズキの近くではハクが切株に腰を掛けていたが、二人は顔を合わせるどころか、一度も目を合わせない。
渓流と滝の流れ落ちる音が爽やかで耳心地良く、そんな時間がただ過ぎると思っていたが、
「なあ、お前、鬼の匂いが分かるんだろ?」
カズキの声が聞こえた。
「? ああ。分かる」
突然カズキに話しかけられたため、ハクは少し驚いたようだ。
「お前ら退治屋にとって、鬼は不快な匂いだと聞いたことがある」
カズキはハクに目を向けることなく、セツの頭を軽く撫でている。彼女は良い夢でもみているのか、気持ち良さそうだ。
「ああ。そうだな。鬼にも寄るが、大抵はカビのように不快な匂いが多い」
カズキと会話はするが、ハクの視線の先は常にセツだった。
「じゃあ、俺の匂いは不快なのか?」
ハクは視線をカズキの方に上げた。
「……いや、私は気にしない」
するとカズキは「そうだろう! そうだろう!」と、したり顔になった。
(俺は昔、ナツに言われたことがあるんだ! 俺の匂いは雨のようだと。雨も滴る良い男とはまさに俺のことだな!)
当時、ナツはセイに「晴れの匂い」と言い、カズキには「雨の匂い」と言っていた。
「おにいさんは洗濯物の生乾きの匂いがする」
「……は?」
カズキは耳を疑った。
「おにいさんは、洗濯物の生乾きの匂い」
「……」
◇ ◇ ◇
セツが目を覚ますと、彼女の目にハクの綺麗な顔が映った。いつの間にかハクが膝枕をしていたようだ。
「セツ、起きたか」
「あ、あれ!? カズキは!?」
「あそこにいる」
ハクが視線を向けた先に、カズキが目を閉じ無言で滝行をしていた。
「カズキ!? お前、何やってんだぁ!?」
セツがカズキに向かって叫ぶと、
「おにいさんは、洗濯物の生――」
「言うなああああああ!! セツには絶っ対に、言うなああああああああ!!」
滝に打たれながらカズキはカッと目を見開き、必死の形相で叫んだ。
その叫び声は、滝の音よりも大きく響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
雪嶺後宮と、狼王の花嫁
由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。
巫女として献上された少女セツナは、
封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。
人と妖、政と信仰の狭間で、
彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。
雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
妹の初恋は私の婚約者
あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、第一王子から婚約破棄を宣言されたカミーユ。王子が選んだのは、カミーユの妹ジョフロアだった。だが、ジョフロアには王子との婚約が許されない秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる