従者、カズキの憂鬱 【無色の男と、半端モノ 番外編】

越子

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カズキの匂い

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 梅雨が明け、深緑に木漏れ陽が差している。

 従者カズキの主であるセツは、人の姿で彼の膝を枕にして昏々と眠りについていた。カズキの近くではハクが切株に腰を掛けていたが、二人は顔を合わせるどころか、一度も目を合わせない。

 渓流と滝の流れ落ちる音が爽やかで耳心地良く、そんな時間がただ過ぎると思っていたが、

「なあ、お前、鬼の匂いが分かるんだろ?」

 カズキの声が聞こえた。

「? ああ。分かる」

 突然カズキに話しかけられたため、ハクは少し驚いたようだ。

「お前ら退治屋ひとにとって、鬼は不快な匂いだと聞いたことがある」

 カズキはハクに目を向けることなく、セツの頭を軽く撫でている。彼女は良い夢でもみているのか、気持ち良さそうだ。

「ああ。そうだな。鬼にも寄るが、大抵はカビのように不快な匂いが多い」

 カズキと会話はするが、ハクの視線の先は常にセツだった。

「じゃあ、俺の匂いは不快なのか?」

 ハクは視線をカズキの方に上げた。

「……いや、私は気にしない」

 するとカズキは「そうだろう! そうだろう!」と、したり顔になった。

(俺は昔、ナツに言われたことがあるんだ! 俺の匂いは雨のようだと。みずも滴る良い男とはまさに俺のことだな!)

 当時、ナツはセイに「晴れの匂い」と言い、カズキには「雨の匂い」と言っていた。

「おにいさんは洗濯物の生乾きの匂いがする」

「……は?」

 カズキは耳を疑った。

「おにいさんは、洗濯物の生乾きの匂い」

「……」


   ◇ ◇ ◇


 セツが目を覚ますと、彼女の目にハクの綺麗な顔が映った。いつの間にかハクが膝枕をしていたようだ。

「セツ、起きたか」

「あ、あれ!? カズキは!?」

「あそこにいる」

 ハクが視線を向けた先に、カズキが目を閉じ無言で滝行をしていた。

「カズキ!? お前、何やってんだぁ!?」

 セツがカズキに向かって叫ぶと、

「おにいさんは、洗濯物の生――」

「言うなああああああ!! セツには絶っ対に、言うなああああああああ!!」

 滝に打たれながらカズキはカッと目を見開き、必死の形相で叫んだ。

 その叫び声は、滝の音よりも大きく響き渡った。
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