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学園の入学式当日ーー
クローデットは遠目からステラを見かけた。まだ貴族になって日が浅いからだろう。ステラは少し戸惑ったり、あからさまではなく自然に周りを見渡しながら、様子を伺っていた。ステラの様子は概ねゲームの通りであり、特に目立つこともなかった。この様子なら、しばらくは何も起こらないだろうとクローデットは判断した。
入学して一年目のクラスは家格と入学前のテストの結果を基に振り分けられる。
王族や公爵家はAクラス、侯爵家や伯爵家はAクラスとBクラス、子爵家や男爵家はCクラスとDクラス、平民はDクラスとなっている。2年目以降は学園にも慣れているだろうとのことで成績順でクラスが分けられることになる。クローデット達はもちろんAクラスに在籍し、ステラはDクラスとなる。離れているため、関わることはない。
入学式が終わり、クローデットはエルネストと一緒に帰宅する。ルネとレーヌが待っており、早速サロンに向かって、4人でお茶とお菓子を楽しんだ。ルネとレーヌは来年の入学となるため、学園に興味津々である。
「義姉様、学園はどうでした?」
「今日は入学式だけだったのよ。だから、勉強についてもクラスメイトについてもまだどうかわからないわ。でも、マクシミリアン殿下がご入学されるから、全体的に皆さん浮き足だっていた印象よ。新入生を代表してご挨拶をされた時には、ご令嬢達がすごく騒がしかったわね。特に下位貴族のご令嬢方は殿下には滅多にお目にかかれないものね。マクシミリアン殿下に直接話しかける者はいなかったけれど、多くの人が殿下の周りに集まっていたわ」
「そうですか。それは僕たちが入学するときも同じ学園に殿下がいるということで騒がしくなりそうですね」
「それは間違いないだろう。王族が学園にいる間は、大体そのような感じらしい」
「できれば静かに過ごしたいですね。そういえば、エル義兄様はマクシミリアン殿下の側近では? そんなに人が集まってくるなら、エル義兄様も大変ではないですか?」
「いや、側近といっても俺は常に一緒にいるわけではないな。マクシミリアン殿下は第一王子ではあるが、立太子は学園卒業後だ。王弟のアルフレッド殿下が政務を手伝っているから、今はマクシミリアン殿下の公務も多くないしな。しばらくは一緒に生徒会をやるくらいだろう。俺とは違って、ロイドは殿下の護衛だから、常に一緒にいると思うぞ」
「へぇ、そうなんですね」
天星では、マクシミリアンとエルネストとロイドは常に一緒にいるイメージだった。ルネが入学するとそこに加わって4人での行動が多く、ステラが覚醒した後は、常に5人となっていた。
エルネストの真面目でしっかりしているところはゲームでも今でも変わらないが、雰囲気は全然違うとクローデットは思っている。几帳面でなにごともキッチリとしていて、人間味がないというか、アンドロイドっぽいイメージを持っていた。それがヒロインとの交流で人間らしさが出てくるようになったが、クローデットの目の前にいるエルネストは最初から、人間らしさしかなかった。ゲームでは見たことがなかった緩い感じがある。
「お昼だってクゥと一緒に食べたいし、クゥと過ごせる学園生活はたった4年しかないんだぞ? 必要であれば殿下とコミュニケーションは取るし、仕事もちゃんとするんだ。それ以外の時間をどう使おうが、俺の自由だろ」
これである。このような発言はゲームではなかった。もはや、ゲームとはかけ離れた人になっている。ゲームでもエルネストには婚約者は居たはずだが、典型的な政略結婚で最低限の関わりだけだったはずだ。クローデットは、なぜこうなっているのかは全くわからなかったが、これを現実として受け入れている。
「エル義兄様は、本当にブレませんねぇ」
「お邪魔かもしれませんが、来年入学したら、時々はクローディお義姉さまたちとお昼をご一緒したいです」
「全然邪魔じゃないわ。もちろん一緒に食べましょう! ね、エル?」
「あぁ、ルネとマドレーヌなら問題ないよ」
「約束ですよ? 義姉様、エル義兄様」
「楽しみですね。早く入学したいです」
楽しい時間が過ぎるのはあっという間だった。クローデットはこの先のことで僅かに不安は残っていたが、それを振り切るように学園のことを考えた。
今日は入学式のみで、他の令嬢達との交流はなかった。マクシミリアン殿下の婚約者であるためか、オデット・ロンサール侯爵令嬢の周りには令嬢が多く集まっていた。未来の王妃に取り入ろうと必死になっている人もいたようだ。
学園では知見を広げることを目的とし、身分を気にせず、同じ学園生として交流を持つことを推奨している。社交界で目下のものから話しかけるのは無礼とされるが、学園では許されることとなっている。
そのため、宰相を多く輩出しているジュリオ家の嫡男で、マクシミリアン殿下の側近となるエルネストにも権力を求めて繋がりを作ろうとする者も多く近づいてくると思われる。今までクローデットは目の当たりにしたことはないが、エルネストは他人の前では基本的に塩対応らしいということをルネから聞いたことがあった。これからの学園生活では、それを見ることがあるかもしれない。クローデット自身も友人となる人を見極める必要があるということを改めて考えながら、学園初日の夜が更けていった。
クローデットは遠目からステラを見かけた。まだ貴族になって日が浅いからだろう。ステラは少し戸惑ったり、あからさまではなく自然に周りを見渡しながら、様子を伺っていた。ステラの様子は概ねゲームの通りであり、特に目立つこともなかった。この様子なら、しばらくは何も起こらないだろうとクローデットは判断した。
入学して一年目のクラスは家格と入学前のテストの結果を基に振り分けられる。
王族や公爵家はAクラス、侯爵家や伯爵家はAクラスとBクラス、子爵家や男爵家はCクラスとDクラス、平民はDクラスとなっている。2年目以降は学園にも慣れているだろうとのことで成績順でクラスが分けられることになる。クローデット達はもちろんAクラスに在籍し、ステラはDクラスとなる。離れているため、関わることはない。
入学式が終わり、クローデットはエルネストと一緒に帰宅する。ルネとレーヌが待っており、早速サロンに向かって、4人でお茶とお菓子を楽しんだ。ルネとレーヌは来年の入学となるため、学園に興味津々である。
「義姉様、学園はどうでした?」
「今日は入学式だけだったのよ。だから、勉強についてもクラスメイトについてもまだどうかわからないわ。でも、マクシミリアン殿下がご入学されるから、全体的に皆さん浮き足だっていた印象よ。新入生を代表してご挨拶をされた時には、ご令嬢達がすごく騒がしかったわね。特に下位貴族のご令嬢方は殿下には滅多にお目にかかれないものね。マクシミリアン殿下に直接話しかける者はいなかったけれど、多くの人が殿下の周りに集まっていたわ」
「そうですか。それは僕たちが入学するときも同じ学園に殿下がいるということで騒がしくなりそうですね」
「それは間違いないだろう。王族が学園にいる間は、大体そのような感じらしい」
「できれば静かに過ごしたいですね。そういえば、エル義兄様はマクシミリアン殿下の側近では? そんなに人が集まってくるなら、エル義兄様も大変ではないですか?」
「いや、側近といっても俺は常に一緒にいるわけではないな。マクシミリアン殿下は第一王子ではあるが、立太子は学園卒業後だ。王弟のアルフレッド殿下が政務を手伝っているから、今はマクシミリアン殿下の公務も多くないしな。しばらくは一緒に生徒会をやるくらいだろう。俺とは違って、ロイドは殿下の護衛だから、常に一緒にいると思うぞ」
「へぇ、そうなんですね」
天星では、マクシミリアンとエルネストとロイドは常に一緒にいるイメージだった。ルネが入学するとそこに加わって4人での行動が多く、ステラが覚醒した後は、常に5人となっていた。
エルネストの真面目でしっかりしているところはゲームでも今でも変わらないが、雰囲気は全然違うとクローデットは思っている。几帳面でなにごともキッチリとしていて、人間味がないというか、アンドロイドっぽいイメージを持っていた。それがヒロインとの交流で人間らしさが出てくるようになったが、クローデットの目の前にいるエルネストは最初から、人間らしさしかなかった。ゲームでは見たことがなかった緩い感じがある。
「お昼だってクゥと一緒に食べたいし、クゥと過ごせる学園生活はたった4年しかないんだぞ? 必要であれば殿下とコミュニケーションは取るし、仕事もちゃんとするんだ。それ以外の時間をどう使おうが、俺の自由だろ」
これである。このような発言はゲームではなかった。もはや、ゲームとはかけ離れた人になっている。ゲームでもエルネストには婚約者は居たはずだが、典型的な政略結婚で最低限の関わりだけだったはずだ。クローデットは、なぜこうなっているのかは全くわからなかったが、これを現実として受け入れている。
「エル義兄様は、本当にブレませんねぇ」
「お邪魔かもしれませんが、来年入学したら、時々はクローディお義姉さまたちとお昼をご一緒したいです」
「全然邪魔じゃないわ。もちろん一緒に食べましょう! ね、エル?」
「あぁ、ルネとマドレーヌなら問題ないよ」
「約束ですよ? 義姉様、エル義兄様」
「楽しみですね。早く入学したいです」
楽しい時間が過ぎるのはあっという間だった。クローデットはこの先のことで僅かに不安は残っていたが、それを振り切るように学園のことを考えた。
今日は入学式のみで、他の令嬢達との交流はなかった。マクシミリアン殿下の婚約者であるためか、オデット・ロンサール侯爵令嬢の周りには令嬢が多く集まっていた。未来の王妃に取り入ろうと必死になっている人もいたようだ。
学園では知見を広げることを目的とし、身分を気にせず、同じ学園生として交流を持つことを推奨している。社交界で目下のものから話しかけるのは無礼とされるが、学園では許されることとなっている。
そのため、宰相を多く輩出しているジュリオ家の嫡男で、マクシミリアン殿下の側近となるエルネストにも権力を求めて繋がりを作ろうとする者も多く近づいてくると思われる。今までクローデットは目の当たりにしたことはないが、エルネストは他人の前では基本的に塩対応らしいということをルネから聞いたことがあった。これからの学園生活では、それを見ることがあるかもしれない。クローデット自身も友人となる人を見極める必要があるということを改めて考えながら、学園初日の夜が更けていった。
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