タイムウェザー

秋十

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アミとラル

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ここはイアカインの中心にある島、ナハム。
 気候は温暖。豊かな自然で食べるものには困らない島である。
 そのため昔から他国の船の休憩所となっており、昔から貿易業が盛んである。
 家から歩いて数十分、俺はナハムの町に着く。
 町から海が近いおかげか、メイン通りには市が溢れるように立ち並び、ここで捕れた魚や動物の肉、もしくは異国の衣類や装飾品、食べ物が盛んに売っていた。
「安いよ! 安いよ! 本日捕れたばかりの魚だよ」
「これ400pelにまけてよ!」
「異国でしか手に入らないものだよ! この店でしか買えないよ!」
 俺は血気盛んに客呼びをしている市をすり抜け、メイン通りの末端の端っこにテントで店を構えている服売りに着いた。
「イラッシャイ。お久しぶりアル」
「よ、アミ」
 服売りの店主であるアミは深く頭に作業用の帽子を被り、地味な作業服に身を包み、派手な民族風な服と装飾品の数々だった。
「お前、売ってるもの自分で着ればもっと儲かるんじゃないか?」
「ワタシ、客の見世物になるのはゴメンね」
 小汚い作業服に身を包んでいても染み出してくる気品さ。少しきつく思われてしまうが美しいツリ目、凛とした態度、程よく膨らみがある胸。16とはいうが20代といっても何の遜色もない大人な少女だった。
 だけど、業績は上々というわけではない。
 他の人から見れば見た目が怖い女性。その上マニアックなものを売っている。
「もっと派手じゃないのあるか?」
 俺は売り物を見渡したが、生まれた国の民族衣装だというチャイナ服。さすがにこの町には目立ちすぎる。
「地味でいいなら私の服がアルよ」
 しかしサーシャは少し小さかったような……
「少し小さめの服あるか?」
「二年前の服があるアル」
「じゃあそれでいいアル」
「マネするなアル」
 調子に乗ったら怒られた。
 俺はアミか服を受け取り、途中の市で今晩の煮込みスープの材料を買い、森の中にある家に戻ることにした。



家に帰ると玄関に置手紙のようなものが刺さっていた。
『お前の彼女を預かった。返してほしけりゃ海岸の砂浜まで来い』
「はあ~ またあいつか」
 手紙の内容を見て思わずため息をつく。
「たぶんあいつだろうな」
 ここ最近何かと因縁つけられて勝負を着けてくるラルの仕業だろう。
 奴はもともと他国の軍に勤めていたが前の戦争で退位し落ち着けるここで暮らすことにしたようだ。
 勝負の時には戦争時代の頃の心を忘れたくないとかなんとか言って軍服で勝負する。
 なんか俺に因縁があるようだが、まあ覚えてないので関係ない話だ。
「まあだるいがいい運動になるな」
 俺は砂浜に向かうことにした。



 さざ波が漂う浜辺で仁王立ちして待っていたのは毎日勝負を挑んでくるうざい男と、きょとんとした顔で縛られているサーシャの姿だった。
 あ、シャツ一枚だから見えそう……
「彼女返してほしさにのこのことやって来たか。人との関わり欲しさに、哀れな男よ」
 勝手に哀れむなよ。
「いつもの勝負だろ。さっさと始めろ」
 うざい男は静かに一歩一歩俺の方へ近づいてくる。
 俺もあいつに近づく。
 そして二人とも腕が相手の体に届く距離まで歩いたところで止まり、メンチの切りあいが始まる。
「わが名はラル・フォトグレス! 元ビバレンス王国国軍! 軍人時代に形成されたこの肉体と何より誇りにかけて貴様を倒す!」
「俺の名はルーイ・アグナスその誇りとやらを叩き潰すためにお前を倒す!」
 両者腕を振り上げ、
「いっせので2!」
「いっせので0。よっしゃー」
「くっそ! だがまだ腕は二本ある! 勝負はこれからだ!!」
「いや2本あったら駄目だろうが」
 ゆびすまを始めた。サーシャのきょとんとした顔にあんぐり口が追加された。
「いっせので2!」
「いっせので1、はいおわり~」
 気怠そうに勝負をしてさっさとサーシャのところによる。
「何故だ何故だ何故なのだ!!」
 向こうでは思いっきり嘆いている。
「じゃあ俺、帰るわ」
「待て!」
 俺は帰ろうとした足を止める。
「わざわざこんな勝負をするために私は誘拐犯になったのではない!」
 心が熱い奴だからか一言一言が五月蠅い。軍人という人種はみんなこんな感じなのか?
「とにかく私とちゃんとした勝負をしろ! ルーイ!」
「ハア~ わかったよ。武器はどうする?」
「有り! と言いたいところだがお前の後ろに少女がいる。流れ弾を当てたくないんでな」
 そう言ったとたん、まず先手を取るために俺は目つぶしとして足元の砂を思いっきり蹴り上げる。
 その砂を思いっきり顔に被ったラルは一瞬怯んで目に左手を覆いかぶせる。
 ルーイの戦いのスタイルは超接近型。
 相手の間合いのさらに間合い。自身の体格が余り大きくないからか自然とそういうスタイルになった。
 相手の肌が密着するゼロ距離まで接近し、そこから身体のどこかの急所に打ち込むという格闘スタイル。
 対してラルは万能型近距離。ある程度の対応ができるスタイルである。
 普通ならルーイの間合いの外で戦うが、目を潰された今一瞬にいて懐に入られた。
そのままルーイは腕が上がったラルに鳩尾を一発。さらに怯んだ身体にサーシャを括り付けていた縄で雁字搦めに縛り、棒になった身体を仰向けに倒す。
「ハイ終了~」
 このまま海に流してやりたいところだが、少し情が移ってしまったのでほっとくことにした。
「おい! 今のは無効だ! 正々堂々と戦え!」
負け犬が戯言を吐いている。
 そんなことはお構いなしに俺はサーシャをつれてその場を退散しようとする。
「明日になったら迎えに来るからな~」
「敵の情けはいらん!」
「あ、じゃあこのまま海に放り投げておこうか」
 ルーイは踵を返してラルに近づく。
「すいませんでしたルーイさん。どうか私にご慈悲を」
 オイ、軍人としてのプライドはどうした。そんなことを言いたそうにサーシャはラルを睨んでいる。
 空には夕日が差し掛かってきた。
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