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第1章 到達確率0.00001%の未来
解明されない疑問の群れ
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「……俊さん。頼むから教えてくれ。本当に、何が起こってるんだ?」
13年間、慌ただしい仕事の合間を縫ってどれだけ探し続けても見つけることの出来なかった長男、蓮夜。
あんな力を持っていることなんて、父親の自分でも知らなかったのに、何故、あの金髪の少年 ── 希叶 祀刕 ── はそれを知っていたのだろう?
ここへ息子を連れて来た方法だって、目の前で見たにも関わらず信じられないような代物だった。
彼は一体? ……本当は、何者なのだろうか?
「ごめん、葉いっちゃん。それ、私も聞きたいくらいだから、答えてあげられない」
申し訳なさそうにして答える彼の、言葉にも表情にも嘘や隠し事の臭いはしない。
そもそもこの藤峰 俊哉という男は、致命的にそれが苦手な人間であったし。
「お父さん。お母さん……大丈夫なんだよね? 藤峰おじさん、あの男の子、本当に信用できる人なの⁈」
「蓮兄ちゃんとあの暴言野郎が何してんのか知らねぇけど、医者の邪魔して母さんが余計、危なくなったりしないよな⁈」
娘の瑠璃華と次男の翔舞が、焦燥と心配とが綯交ぜになったような顔をして問いかけて来たことにも藤峰と円出は、是も非も唱えることが出来なくて口を閉ざした。
それに更なる憤りを感じたのだろう。
2人を見上げていた翔舞が、急に身を翻したと思ったら、病室の脇からそっと中を伺っている少年……伍耶の肩を乱暴に掴み、力づくで無理矢理、自分の方へと振り返らせた。
「おい、お前っ!」
「わっ!」
「その制服、守護者高等学校の、普通科だろ⁈ アイツのこと知ってるのか⁈」
完全に怒っている表情と声音で、肩を揺さぶられながらそう問いかけられた伍耶は、少し戸惑っているような顔を翔舞へと向けてから俯いた。
「さーくんのことは、ちっちゃい時から知ってるよ?」
「なら教えろっ! アイツは……!」
「知ってる! ……筈、なんだけど……ついさっき、病室で目が覚めてから……僕の知らない人になっちゃったみたくなってて……」
「?」
ずっと俯いたままで、途切れ途切れな答えを返す伍耶に翔舞の表情が怒りと憤りから疑問符に変わった。
「何、意味分かんねぇこと言ってんだよ! 少しでもアイツのこと知ってるって言うなら教えろ! アイツ、誰なんだよ⁈」
「キミと同じ、守護者高等学校の生徒だよ、翔舞君」
翔舞のした問いかけに答えたのは、伍耶ではなく藤峰だった。
「やっぱり、藤峰おじさんも知ってるヤツなのか⁈」
「ああ。どうやらキミとはクラスが違うようだが〈戦士〉科の生徒で、名前は希叶 祀刕。ついさっき街中で起こった妖魔人関連の事件に巻き込まれて、この病院に緊急搬送されたんだ。現場には、たまたま私と彼……キミが今、掴みかかってる子が一緒に居てね。敵自体は私が何とか始末出来たし、彼も無事だったんだけれど、祀刕君だけは……」
「僕のこと庇って、それで……」
藤峰と伍耶によって今、好き勝手している少年、祀刕がこの病院に居る理由なのだろう事柄の概要を聞いた翔舞は、入口の隙間から中の様子を垣間見て、確かに祀刕が着ているのは、母親と同じ緊急処置服であるのを確認した。
「それで? お前を庇ってここに運ばれて来た筈のヤツが、何でこんなピンピンしてて、見ず知らずの母さんを助けるとか言い出した上に、あんな無茶苦茶やってんだよ?」
「分かんない。病室で目が覚めてから、さーくん変なんだもん! 藤峰先生のこと見て、急に蒼い固まりをどっかから出したと思ったら、それを藤峰先生の身体の中に無理矢理捩じ込んで」
「⁈」
身体の中に無理矢理捩じ込む。
決して穏やかではないその単語に円出ファミリーは3人揃って驚愕の視線を藤峰に注ぎ、彼はその視線に、ヘラっとした笑いと後ろ頭を掻く仕草だけで応えて、微塵も否を返さなかった。
どうやら事実であるらしい、と頭の片隅がボンヤリ感想を浮かべている間も伍耶の吐露は続く。
「変な呪文みたいの言ってたと思ったら藤峰先生元気になって若返っちゃうし! 僕だって! ずっとお医者さんに診断された通り〈無発現症〉なんだって信じて13年生きて来たのに、急に僕は〈英雄〉遺伝子持ちだとか言い出して、検査には影響ないからとか言って、それ封印するとか言い出して僕の話しも聞かずにすぐやっちゃったし! 何か本当に身体の中でカチッて音したし!」
「ああ、そうだった。再検査の依頼出さないとな。キミ。検査科に連絡取って至急の対応を……」
これまで感じていたモヤモヤだの憤りだの解明されない謎の群れだのに色々と感情を溜め込んでいたらしい伍耶の言葉尻から再検査のことを思い出したらしい医師が、傍に居た看護士の1人に指示を出し始めた。
「あ! そうだ! さーくんが変になったの、あの光る本が出てきてからだよ! 藤峰先生! パワー・タイガー! あの光る本を出す能力って、何の〈戦士〉能力なんですか⁈」
「知らん」
俺に振るな、とばかりに即答で返したのは〈戦士〉ネームで呼ばれた円出だった。
祀刕が本当は何者なのか最初に聞いたのは自分なのに知る訳ない、と相貌へ浮かべた渋面がありありと心情を物語っている。
「何だろうねぇ? 私も初めて見たから……ワールド、何とか、レコード、とか言って出してたような気がしたけど」
記憶の片隅に存在していた、たった1度だけ耳にした曖昧な単語を口にした藤峰もその能力に関しては、全く心当たりがなかったようだった。
13年間、慌ただしい仕事の合間を縫ってどれだけ探し続けても見つけることの出来なかった長男、蓮夜。
あんな力を持っていることなんて、父親の自分でも知らなかったのに、何故、あの金髪の少年 ── 希叶 祀刕 ── はそれを知っていたのだろう?
ここへ息子を連れて来た方法だって、目の前で見たにも関わらず信じられないような代物だった。
彼は一体? ……本当は、何者なのだろうか?
「ごめん、葉いっちゃん。それ、私も聞きたいくらいだから、答えてあげられない」
申し訳なさそうにして答える彼の、言葉にも表情にも嘘や隠し事の臭いはしない。
そもそもこの藤峰 俊哉という男は、致命的にそれが苦手な人間であったし。
「お父さん。お母さん……大丈夫なんだよね? 藤峰おじさん、あの男の子、本当に信用できる人なの⁈」
「蓮兄ちゃんとあの暴言野郎が何してんのか知らねぇけど、医者の邪魔して母さんが余計、危なくなったりしないよな⁈」
娘の瑠璃華と次男の翔舞が、焦燥と心配とが綯交ぜになったような顔をして問いかけて来たことにも藤峰と円出は、是も非も唱えることが出来なくて口を閉ざした。
それに更なる憤りを感じたのだろう。
2人を見上げていた翔舞が、急に身を翻したと思ったら、病室の脇からそっと中を伺っている少年……伍耶の肩を乱暴に掴み、力づくで無理矢理、自分の方へと振り返らせた。
「おい、お前っ!」
「わっ!」
「その制服、守護者高等学校の、普通科だろ⁈ アイツのこと知ってるのか⁈」
完全に怒っている表情と声音で、肩を揺さぶられながらそう問いかけられた伍耶は、少し戸惑っているような顔を翔舞へと向けてから俯いた。
「さーくんのことは、ちっちゃい時から知ってるよ?」
「なら教えろっ! アイツは……!」
「知ってる! ……筈、なんだけど……ついさっき、病室で目が覚めてから……僕の知らない人になっちゃったみたくなってて……」
「?」
ずっと俯いたままで、途切れ途切れな答えを返す伍耶に翔舞の表情が怒りと憤りから疑問符に変わった。
「何、意味分かんねぇこと言ってんだよ! 少しでもアイツのこと知ってるって言うなら教えろ! アイツ、誰なんだよ⁈」
「キミと同じ、守護者高等学校の生徒だよ、翔舞君」
翔舞のした問いかけに答えたのは、伍耶ではなく藤峰だった。
「やっぱり、藤峰おじさんも知ってるヤツなのか⁈」
「ああ。どうやらキミとはクラスが違うようだが〈戦士〉科の生徒で、名前は希叶 祀刕。ついさっき街中で起こった妖魔人関連の事件に巻き込まれて、この病院に緊急搬送されたんだ。現場には、たまたま私と彼……キミが今、掴みかかってる子が一緒に居てね。敵自体は私が何とか始末出来たし、彼も無事だったんだけれど、祀刕君だけは……」
「僕のこと庇って、それで……」
藤峰と伍耶によって今、好き勝手している少年、祀刕がこの病院に居る理由なのだろう事柄の概要を聞いた翔舞は、入口の隙間から中の様子を垣間見て、確かに祀刕が着ているのは、母親と同じ緊急処置服であるのを確認した。
「それで? お前を庇ってここに運ばれて来た筈のヤツが、何でこんなピンピンしてて、見ず知らずの母さんを助けるとか言い出した上に、あんな無茶苦茶やってんだよ?」
「分かんない。病室で目が覚めてから、さーくん変なんだもん! 藤峰先生のこと見て、急に蒼い固まりをどっかから出したと思ったら、それを藤峰先生の身体の中に無理矢理捩じ込んで」
「⁈」
身体の中に無理矢理捩じ込む。
決して穏やかではないその単語に円出ファミリーは3人揃って驚愕の視線を藤峰に注ぎ、彼はその視線に、ヘラっとした笑いと後ろ頭を掻く仕草だけで応えて、微塵も否を返さなかった。
どうやら事実であるらしい、と頭の片隅がボンヤリ感想を浮かべている間も伍耶の吐露は続く。
「変な呪文みたいの言ってたと思ったら藤峰先生元気になって若返っちゃうし! 僕だって! ずっとお医者さんに診断された通り〈無発現症〉なんだって信じて13年生きて来たのに、急に僕は〈英雄〉遺伝子持ちだとか言い出して、検査には影響ないからとか言って、それ封印するとか言い出して僕の話しも聞かずにすぐやっちゃったし! 何か本当に身体の中でカチッて音したし!」
「ああ、そうだった。再検査の依頼出さないとな。キミ。検査科に連絡取って至急の対応を……」
これまで感じていたモヤモヤだの憤りだの解明されない謎の群れだのに色々と感情を溜め込んでいたらしい伍耶の言葉尻から再検査のことを思い出したらしい医師が、傍に居た看護士の1人に指示を出し始めた。
「あ! そうだ! さーくんが変になったの、あの光る本が出てきてからだよ! 藤峰先生! パワー・タイガー! あの光る本を出す能力って、何の〈戦士〉能力なんですか⁈」
「知らん」
俺に振るな、とばかりに即答で返したのは〈戦士〉ネームで呼ばれた円出だった。
祀刕が本当は何者なのか最初に聞いたのは自分なのに知る訳ない、と相貌へ浮かべた渋面がありありと心情を物語っている。
「何だろうねぇ? 私も初めて見たから……ワールド、何とか、レコード、とか言って出してたような気がしたけど」
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