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第1章 到達確率0.00001%の未来
平行世界で初説明
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『高さや幅によって出て来られる妖魔人の大きさが変わるんだけど、それがそのまま、こっちへ出てくる連中の強さとイコールになってんだ。連中がメインで生きてる世界は16次元にあって、俺達人間がメインで住んでる3次元とは、次元歪曲の起こす返戻の関係で、丁度、表と裏みてぇな状態で隣り合う形になっちまってんだよな。だから、ああ言う単純な裂け目が門とか扉みたいな役割をしちまうのさ』
慣れた説明であることを感じさせる流暢な言葉の羅列に所々真偽不明な内容が混じっていたものの、中継の向こう側でそれを聞いている者達とは違い、藤峰自身はその言葉を疑わなかった。
何故なら祀刕が示したその裂け目から今も尚、妖魔人達がこちら側へ次々に出て来ていたからだ。
道路境に設置されているガードレールを跨いで乗り越えるのとさして変わらないレベルの簡単な所作でやってくる〈敵〉の姿を目にして藤峰の眉間に深い縦皺が寄る。
『………私、あんな風に連中が現れるんだっていうのを初めて見たんだけど?』
『今、この空間は俺が作った神聖結界の中だし、アンタには総合強化魔法もかけてっから視覚支援が入って、認識しやすくなってんだよ。普段の状態じゃ〈勇者〉の俺か、それ系の幻想遺伝子能力を発現してるヤツでも居なけりゃ、位相が違う所為で、あること自体分かんねぇよ。次元の裂け目ンなる直前の球状塊……こんくれぇの丸い玉みてぇな状態でそこいらに転がってる時なら』
説明しながら祀刕が右手の親指と人差し指で丸を作って見せた大きさは、直径で表すならば4cm程度の小さな物だった。
『見えてなくても、たまぁに霊感強い奴とか波長が合ったヤツとかが、蹴飛ばしたり蹴っ躓いたりしてっけど、モノ自体は見えてねぇから “あれ? 僕、今、何蹴飛ばしたんだろう?” とか “何でこんな何にもないトコで躓いたんだろ? 僕” ってツラしてんの見るこたぁ、時々あったかな?』
『あ。私、それ結構あるかも? 小さな段差とか隆起とかがあって、自分の足がそれより上がってなかっただけかなー、とか思ってたんだけど、違うのかい?』
普段、自分の身に起こることの多い現象で心当たりがあり過ぎたのだろう。
意外そうな声音で藤峰が問えば。
「そういうの、僕もある!」
画面の前で伍耶も同じ心当たりに気が付いて声を上げていた。
この世界では祀刕がした過去形且つ、他人の体験談チックな発言を誰も気にしなかったけれど、彼が実際に目にしていた実例は、言うまでもなく、元の世界の伍耶だった。
『確かに他の拠点の奴等も含めて、アンタ達〈英雄〉遺伝子持ちは、肉体の性質から言っても遭遇率高ぇと思うぜ? つかよ? 寧ろ、お前らがそこで蹴っ躓いといてくれりゃ、球状塊がブッ壊れて次元の裂け目出来んくなるから今の内に、あっちこっちで大いに蹴っ躓いといてくんね?』
『ビックリするんだよ? あれ⁈ 周りの人に変な目で見られて、私だってバレると苦笑いされたり、クスクスされたりするし⁈』
藤峰は気がつかなかったが、祀刕がこの時にした言い回しに妙な引っかかりを感じた者は、円出と翔舞の他にも画面の向こう側に数名、存在していた。
『アンタら〈英雄〉遺伝子持ちの驚きや恥と引き換えに妖魔人出ンくなるとか安いモンだろが。1番被害少なくて済むんだから大人しく躓いとけや。そもそもアンタの場合、ただの散歩序で……』
『Gavurawer!!』
祀刕と藤峰のやり取りが、何処か場違いな空気を孕み出すより早く、沢山の岩塊に押し潰されていた妖魔人が、それらを跳ね除け、大きな咆哮を上げながら立ち上がった。
『チッ、C級ぐれぇンなると流石にタフだな』
舌打ちした祀刕が表情を厳しい物へと立ち戻らせて呟く。
最初の攻撃で倒せると思っていた訳ではないことが、その発言からは窺えたけれど、鮫のような頭に数本の蛸足が生えたような首元、全体的に樹木のような体皮をしているのに筋肉質に見える二足歩行、という出立ちをした妖魔人が、何を以てしてC級と彼に呼ばれているのかは、今一つ画面の向こう側に居る者達には分からなかった。
『俊さん! アレの相手は頼んだぜ! 俺は雑魚を片しながら食われてる連中助けて、回復かけてから結界の外に放り出す! 怪我人と喰われかけの連中が全員居なくなったら、俺はそのまま次元の裂け目の閉鎖と消去の処理、始めっからな⁈ 可能な限り雑魚処理とサポートはするが、暫くマトモな共闘はしてやれねぇかんな⁈ くれぐれもくたばンなよ⁈』
誰がどう聞いても助ける側に居るのは、藤峰ではなく自分であると主張している発言を投げかけた祀刕は、胸前で両腕を交差させ、鈍色に光る環を斜め十字型で身に纏った。
彼は自分の身体が地面から数十cm浮かび上がるが早いか、藤峰の返事も聞かずに突き立てていた光の剣を引き抜いて何処ぞへ向かって飛んで行ってしまった。
『……OK, OK, 頑張るよ』
本人へとし損ねた返事を呟く藤峰の面には、それでも苦味の混じった笑みが浮かんでいた。
ずっと人を助ける側に立ち、ずっと人に指示を出す側になっていた藤峰は、久方振りに新人へ戻ってしまったような気分を味わいながらドスドスと足音を立てて迫り来る妖魔人へと意識を戻した。
『龍化!』
目線を合わせただけで身体の底から湧き上がって来る、怖気にも似た感情を唾棄するように己の発現した〈英雄〉遺伝子を活性化させ、全身を「龍鎧」と呼ばれる鱗状の鎧で覆えば、これまで自身単独で創り出した時とは比べるまでもないレベルに強化されているのがすぐに分かった。
『確かに? これで負けてちゃ、拠点の皆に顔向け出来ないよなぁ……』
若い頃、まだ無鉄砲さが残っていた時代と似通った凶暴な笑みを、実際に若返ってしまった相貌へ浮かべた藤峰は、目の前に立つ妖魔人と同時に互いを目指して地を蹴った。
慣れた説明であることを感じさせる流暢な言葉の羅列に所々真偽不明な内容が混じっていたものの、中継の向こう側でそれを聞いている者達とは違い、藤峰自身はその言葉を疑わなかった。
何故なら祀刕が示したその裂け目から今も尚、妖魔人達がこちら側へ次々に出て来ていたからだ。
道路境に設置されているガードレールを跨いで乗り越えるのとさして変わらないレベルの簡単な所作でやってくる〈敵〉の姿を目にして藤峰の眉間に深い縦皺が寄る。
『………私、あんな風に連中が現れるんだっていうのを初めて見たんだけど?』
『今、この空間は俺が作った神聖結界の中だし、アンタには総合強化魔法もかけてっから視覚支援が入って、認識しやすくなってんだよ。普段の状態じゃ〈勇者〉の俺か、それ系の幻想遺伝子能力を発現してるヤツでも居なけりゃ、位相が違う所為で、あること自体分かんねぇよ。次元の裂け目ンなる直前の球状塊……こんくれぇの丸い玉みてぇな状態でそこいらに転がってる時なら』
説明しながら祀刕が右手の親指と人差し指で丸を作って見せた大きさは、直径で表すならば4cm程度の小さな物だった。
『見えてなくても、たまぁに霊感強い奴とか波長が合ったヤツとかが、蹴飛ばしたり蹴っ躓いたりしてっけど、モノ自体は見えてねぇから “あれ? 僕、今、何蹴飛ばしたんだろう?” とか “何でこんな何にもないトコで躓いたんだろ? 僕” ってツラしてんの見るこたぁ、時々あったかな?』
『あ。私、それ結構あるかも? 小さな段差とか隆起とかがあって、自分の足がそれより上がってなかっただけかなー、とか思ってたんだけど、違うのかい?』
普段、自分の身に起こることの多い現象で心当たりがあり過ぎたのだろう。
意外そうな声音で藤峰が問えば。
「そういうの、僕もある!」
画面の前で伍耶も同じ心当たりに気が付いて声を上げていた。
この世界では祀刕がした過去形且つ、他人の体験談チックな発言を誰も気にしなかったけれど、彼が実際に目にしていた実例は、言うまでもなく、元の世界の伍耶だった。
『確かに他の拠点の奴等も含めて、アンタ達〈英雄〉遺伝子持ちは、肉体の性質から言っても遭遇率高ぇと思うぜ? つかよ? 寧ろ、お前らがそこで蹴っ躓いといてくれりゃ、球状塊がブッ壊れて次元の裂け目出来んくなるから今の内に、あっちこっちで大いに蹴っ躓いといてくんね?』
『ビックリするんだよ? あれ⁈ 周りの人に変な目で見られて、私だってバレると苦笑いされたり、クスクスされたりするし⁈』
藤峰は気がつかなかったが、祀刕がこの時にした言い回しに妙な引っかかりを感じた者は、円出と翔舞の他にも画面の向こう側に数名、存在していた。
『アンタら〈英雄〉遺伝子持ちの驚きや恥と引き換えに妖魔人出ンくなるとか安いモンだろが。1番被害少なくて済むんだから大人しく躓いとけや。そもそもアンタの場合、ただの散歩序で……』
『Gavurawer!!』
祀刕と藤峰のやり取りが、何処か場違いな空気を孕み出すより早く、沢山の岩塊に押し潰されていた妖魔人が、それらを跳ね除け、大きな咆哮を上げながら立ち上がった。
『チッ、C級ぐれぇンなると流石にタフだな』
舌打ちした祀刕が表情を厳しい物へと立ち戻らせて呟く。
最初の攻撃で倒せると思っていた訳ではないことが、その発言からは窺えたけれど、鮫のような頭に数本の蛸足が生えたような首元、全体的に樹木のような体皮をしているのに筋肉質に見える二足歩行、という出立ちをした妖魔人が、何を以てしてC級と彼に呼ばれているのかは、今一つ画面の向こう側に居る者達には分からなかった。
『俊さん! アレの相手は頼んだぜ! 俺は雑魚を片しながら食われてる連中助けて、回復かけてから結界の外に放り出す! 怪我人と喰われかけの連中が全員居なくなったら、俺はそのまま次元の裂け目の閉鎖と消去の処理、始めっからな⁈ 可能な限り雑魚処理とサポートはするが、暫くマトモな共闘はしてやれねぇかんな⁈ くれぐれもくたばンなよ⁈』
誰がどう聞いても助ける側に居るのは、藤峰ではなく自分であると主張している発言を投げかけた祀刕は、胸前で両腕を交差させ、鈍色に光る環を斜め十字型で身に纏った。
彼は自分の身体が地面から数十cm浮かび上がるが早いか、藤峰の返事も聞かずに突き立てていた光の剣を引き抜いて何処ぞへ向かって飛んで行ってしまった。
『……OK, OK, 頑張るよ』
本人へとし損ねた返事を呟く藤峰の面には、それでも苦味の混じった笑みが浮かんでいた。
ずっと人を助ける側に立ち、ずっと人に指示を出す側になっていた藤峰は、久方振りに新人へ戻ってしまったような気分を味わいながらドスドスと足音を立てて迫り来る妖魔人へと意識を戻した。
『龍化!』
目線を合わせただけで身体の底から湧き上がって来る、怖気にも似た感情を唾棄するように己の発現した〈英雄〉遺伝子を活性化させ、全身を「龍鎧」と呼ばれる鱗状の鎧で覆えば、これまで自身単独で創り出した時とは比べるまでもないレベルに強化されているのがすぐに分かった。
『確かに? これで負けてちゃ、拠点の皆に顔向け出来ないよなぁ……』
若い頃、まだ無鉄砲さが残っていた時代と似通った凶暴な笑みを、実際に若返ってしまった相貌へ浮かべた藤峰は、目の前に立つ妖魔人と同時に互いを目指して地を蹴った。
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