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第1章 到達確率0.00001%の未来
選択権
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「小僧。お前がこの世界に必要だとされる理由というのは、さっきの戦闘中に言っていたことと関係があるのか?」
これ以上、追及した所で祀刕は口を割らないだろうと判断した円出が、さくっと話しの方向を転換した。
「さっきの戦闘中って、何? お父さん?」
「あれだろ? 妖魔人が出てくるとか言う次元の裂け目ってのの説明してて、そうなる前の丸いモン蹴飛ばしたり躓いたりしとけって話しをしてた時 “今の内に” ってワザワザ頭に付け足したヤツ」
「そうだ」
己の疑問と瑠璃華の確認に答える形で翔舞が持ち出した話しは、円出が疑問を感じていた言葉と完全に一致していて、息子もそこに気づいていたのか、と半ば感心しながらも同意だけして話しの先を続ける。
「妙にその表現が引っかかっていたんだが、お前がこの世界に必要と判断されて、移動させられた原因とやらは、その “今の内” にと言える現在の状況で次元の裂け目が出来る原因を少しでも減らしておいた方がいいと、勇者であるお前が感じるような事件に繋がっとるんじゃないのか?」
円出が、ごく真剣な表情で問いかけたことに祀刕は嬉しそうな、満足そうな笑みを浮かべて彼を見遣った。
「流石は大御所No.1〈戦士〉。いい読みだぜ。パワー一辺倒に見せかけて、実は頭脳派で計画厨なアンタらしい論理展開だ」
2m近い藤峰の身長を超え、体格的にも倍以上ある筋肉質な体をしている円出は、ファイターネームの所為もあって、体力・腕力勝負の脳筋扱いされることが多いけれど、実は本人がそう見えるようにワザと動いていることは、ごく一部の関係者しか知らない事だった。
半分、探りもあったのだろう。
この「勇者である祀刕」が、そのごく一部の人間に元の世界では数えられていたことを返答の内容から理解して、円出は腕を組んで鼻を鳴らす。
「ふんっ。誰が計画厨だ」
「円出のオッサンが言った通り、管理界神が俺を移動させる判断を下した最大理由が、それだ」
「さーくん。僕達の世界に一体、何が起きるの?」
「 “妖魔人の逆襲” 」
伍耶の質問に淡、とした口調で返った答えは、何かの題名や見出し文言のような代物だった。
「16次元からC級以上の〈敵〉が大規模襲来して、世界中が再び戦乱の渦に陥った。12あった世界拠点は7つにまで減少し、15人いた〈英雄〉も8人が戦死。1千万人近くいた〈戦士〉も3万人足らずになって、20億人弱だった世界人口は、一気に落ち込んで4億人を下回った」
彼の世界では、既に起こってしまった事件なのであろうことを想起させる表現で語られるそれは、具体的な数字を伴うことで病室内の人間に驚愕と戦慄を齎した。
「これが、俺の元いた世界で起こった事件の概要だ。俺が3歳の時点で〈勇者〉になった原因の事件でもある」
3歳。
先程、円出の結婚に関連した話しとして聞いた時とは全く違った意味で、その年齢を重く感じる話しだった。
世界を救う為に勇者になれと神々に迫られた3歳の少年に、一体どれだけの理解と覚悟と決意を以って、それを承諾出来るだけの自我が存在していたというのだろう。
この世界では精々「幻想遺伝子」検査が行われて、発現する能力が分かる程度の年齢でしかないと言うのに、だ。
「俺とこの世界の “俺” が入れ替わっている以上、この事件がこれから起きるんだとしても、この世界の “俺” が〈勇者〉になれるこたぁねぇんだろうな……けど」
2人が入れ替わることになった条件として上げられていた5つの内2つをこの世界の “彼” が満たせていたならば、或いはその未来が有り得たのかもしれない。
だが、そうはならなかったから勇者である “彼” を移動せざるを得なかった。
そういう話しなのではないかと思えた。
「俺の元いた世界ですら俊さんレベルでC級の相手すんのが精々だった。B級以上がクソほど出てきたあの事件で、〈勇者〉の俺抜きじゃ、この世界の人類は滅亡待ったなしだ。だから……」
「君がこの世界に連れて来られてしまった訳だね? 世界と私達を生かす為に」
類推を肯定するような祀刕の話しに、藤峰が忌憚ない事実を口に上らせた。
「……平行世界ってのは、言ってみりゃ電車のレールみてぇなモンだ。片方が消えてなくなれば、例えもう片方が無傷だろうとレールとしては成立しねぇ。崩れかけてる方を修復出来なければ、いつかは丸ごと捨てられることになる」
「だからって!」
「言っただろう⁈」
全部、勇者である祀刕1人に背負わせて、彼らだけを犠牲にして、世界を移動させてまで強行にそれを実現しようとすることに感じた憤りを抑えきれずに叫声じみた声を上げた伍耶の言葉を遮るように祀刕が言葉を継ぐ。
「俺にっ……いや。俺達に、選択権は存在しねぇんだ。死にたくねぇなら。世界ごと滅びたくねぇなら、やるしかねぇんだよ‼︎」
ことここに至って伍耶と藤峰は、やっと祀刕が目覚めた後に言っていた言葉の意味を理解した。
── 「あーそうかよ⁈ そうなのかよ⁈ だからどうしたってんだ⁈ ここが何処だろうと、どんな世界だろうと〈勇者〉の俺がやらなきゃならんことまで変わらんわ!」 ──
彼の言う事件は、恐らく必ず起きるのだろう。
そして、それを解決する為に動くことをもうあの時点で彼は覚悟していたのだと。
「俺は自分の世界でもねぇトコでくたばるのなんざ御免だぜ? テメェらはどうなんだ⁈ 俺1人にオンブダッコでこの拠点だけ防衛出来りゃ満足か? それとも俺に協力して世界規模で警告出して俺の元いた世界より生き残れるヤツ増やせるように動くか? さもなきゃ何の準備も出来ねぇまま妖魔人に貪り食われて皆仲良くあの世行きか? 選べ! 俺がこの先どうするかは、それで決める!」
拠点を取り仕切る政府の人間も〈戦士〉協会の人間すらも存在しない場で、祀刕はその決断をこの場の者達に対して切り出していた。
これ以上、追及した所で祀刕は口を割らないだろうと判断した円出が、さくっと話しの方向を転換した。
「さっきの戦闘中って、何? お父さん?」
「あれだろ? 妖魔人が出てくるとか言う次元の裂け目ってのの説明してて、そうなる前の丸いモン蹴飛ばしたり躓いたりしとけって話しをしてた時 “今の内に” ってワザワザ頭に付け足したヤツ」
「そうだ」
己の疑問と瑠璃華の確認に答える形で翔舞が持ち出した話しは、円出が疑問を感じていた言葉と完全に一致していて、息子もそこに気づいていたのか、と半ば感心しながらも同意だけして話しの先を続ける。
「妙にその表現が引っかかっていたんだが、お前がこの世界に必要と判断されて、移動させられた原因とやらは、その “今の内” にと言える現在の状況で次元の裂け目が出来る原因を少しでも減らしておいた方がいいと、勇者であるお前が感じるような事件に繋がっとるんじゃないのか?」
円出が、ごく真剣な表情で問いかけたことに祀刕は嬉しそうな、満足そうな笑みを浮かべて彼を見遣った。
「流石は大御所No.1〈戦士〉。いい読みだぜ。パワー一辺倒に見せかけて、実は頭脳派で計画厨なアンタらしい論理展開だ」
2m近い藤峰の身長を超え、体格的にも倍以上ある筋肉質な体をしている円出は、ファイターネームの所為もあって、体力・腕力勝負の脳筋扱いされることが多いけれど、実は本人がそう見えるようにワザと動いていることは、ごく一部の関係者しか知らない事だった。
半分、探りもあったのだろう。
この「勇者である祀刕」が、そのごく一部の人間に元の世界では数えられていたことを返答の内容から理解して、円出は腕を組んで鼻を鳴らす。
「ふんっ。誰が計画厨だ」
「円出のオッサンが言った通り、管理界神が俺を移動させる判断を下した最大理由が、それだ」
「さーくん。僕達の世界に一体、何が起きるの?」
「 “妖魔人の逆襲” 」
伍耶の質問に淡、とした口調で返った答えは、何かの題名や見出し文言のような代物だった。
「16次元からC級以上の〈敵〉が大規模襲来して、世界中が再び戦乱の渦に陥った。12あった世界拠点は7つにまで減少し、15人いた〈英雄〉も8人が戦死。1千万人近くいた〈戦士〉も3万人足らずになって、20億人弱だった世界人口は、一気に落ち込んで4億人を下回った」
彼の世界では、既に起こってしまった事件なのであろうことを想起させる表現で語られるそれは、具体的な数字を伴うことで病室内の人間に驚愕と戦慄を齎した。
「これが、俺の元いた世界で起こった事件の概要だ。俺が3歳の時点で〈勇者〉になった原因の事件でもある」
3歳。
先程、円出の結婚に関連した話しとして聞いた時とは全く違った意味で、その年齢を重く感じる話しだった。
世界を救う為に勇者になれと神々に迫られた3歳の少年に、一体どれだけの理解と覚悟と決意を以って、それを承諾出来るだけの自我が存在していたというのだろう。
この世界では精々「幻想遺伝子」検査が行われて、発現する能力が分かる程度の年齢でしかないと言うのに、だ。
「俺とこの世界の “俺” が入れ替わっている以上、この事件がこれから起きるんだとしても、この世界の “俺” が〈勇者〉になれるこたぁねぇんだろうな……けど」
2人が入れ替わることになった条件として上げられていた5つの内2つをこの世界の “彼” が満たせていたならば、或いはその未来が有り得たのかもしれない。
だが、そうはならなかったから勇者である “彼” を移動せざるを得なかった。
そういう話しなのではないかと思えた。
「俺の元いた世界ですら俊さんレベルでC級の相手すんのが精々だった。B級以上がクソほど出てきたあの事件で、〈勇者〉の俺抜きじゃ、この世界の人類は滅亡待ったなしだ。だから……」
「君がこの世界に連れて来られてしまった訳だね? 世界と私達を生かす為に」
類推を肯定するような祀刕の話しに、藤峰が忌憚ない事実を口に上らせた。
「……平行世界ってのは、言ってみりゃ電車のレールみてぇなモンだ。片方が消えてなくなれば、例えもう片方が無傷だろうとレールとしては成立しねぇ。崩れかけてる方を修復出来なければ、いつかは丸ごと捨てられることになる」
「だからって!」
「言っただろう⁈」
全部、勇者である祀刕1人に背負わせて、彼らだけを犠牲にして、世界を移動させてまで強行にそれを実現しようとすることに感じた憤りを抑えきれずに叫声じみた声を上げた伍耶の言葉を遮るように祀刕が言葉を継ぐ。
「俺にっ……いや。俺達に、選択権は存在しねぇんだ。死にたくねぇなら。世界ごと滅びたくねぇなら、やるしかねぇんだよ‼︎」
ことここに至って伍耶と藤峰は、やっと祀刕が目覚めた後に言っていた言葉の意味を理解した。
── 「あーそうかよ⁈ そうなのかよ⁈ だからどうしたってんだ⁈ ここが何処だろうと、どんな世界だろうと〈勇者〉の俺がやらなきゃならんことまで変わらんわ!」 ──
彼の言う事件は、恐らく必ず起きるのだろう。
そして、それを解決する為に動くことをもうあの時点で彼は覚悟していたのだと。
「俺は自分の世界でもねぇトコでくたばるのなんざ御免だぜ? テメェらはどうなんだ⁈ 俺1人にオンブダッコでこの拠点だけ防衛出来りゃ満足か? それとも俺に協力して世界規模で警告出して俺の元いた世界より生き残れるヤツ増やせるように動くか? さもなきゃ何の準備も出来ねぇまま妖魔人に貪り食われて皆仲良くあの世行きか? 選べ! 俺がこの先どうするかは、それで決める!」
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